傭兵たちの願い
「アルフォンス様、ちょっといいですか?」
「どうしたんだ、エルビス? あらたまって何か話でもあるのか?」
「はい。実はこの村に関しての重要な話です」
春が過ぎ、だんだんと気温が上がってきている。
小国家群ではこの春が終わり、夏になる前に少し雨が多くなる時期がくる。
もうすぐそんな時期になるかというときだった。
エルビスが俺に深刻そうな顔で話しかけてくる。
「なにかあったのか?」
「いえ。特に何か問題があったというわけではありません。ですが、この村に住む傭兵たちにとって重要な課題があるのですよ。それはずばり、この村が男ばかりだということです」
「え? まあ、そうだね。傭兵として戦える男手を集めたわけだし。女の人っていえばクリスティナやあとは元孤児の女の子が何人かいるくらいだしね」
「そうです。ここには女性が圧倒的に少ないのですよ。そして、それは非常に大きな問題です。なぜなら、この村にいる者たちは皆、血気盛んで非常に充実している年齢の男児ばかりなのです。で、最近あいつらうるさいんですよ。女性を娶って結婚したいとかなんとか言ってくるんです」
「ああ、そのことか。そういえば、俺もちょっと聞いたことあるね。なら、バリアントから人を呼ぶときに、今度は女の人も連れてくるようにする?」
「いえ、それがですね。バリアントの女性は嫌だって言うんですよ」
「なんで? 結婚したいって話じゃなかったのか?」
「そうなんですが、どうもあいつら、都会の女性にあこがれているみたいですね。ほら、バリアントって大雪山の麓のド田舎の集落でしょう? そこで生まれ育った自分たちが、都会の女性と結婚することで満たされたいとか思っているようなんですよ」
「なんだそりゃ。別にどこの生まれの人でもいいと思うけど違うのかな?」
「ま、あいつらの願望がそうだってだけです。けど、そういうのは意外と士気にかかわってきますからね。できるならそういう要望にはこたえてやってほしいところではあります」
なるほどね。
まあ、もともとバルカ傭兵団に入ってオリエント国に来る時の動機の一つとして、都会に出たいっていうのがあったのは確かだ。
で、その願いは微妙に叶っていない。
俺と一緒にオリエント国に来たのは間違いない。
が、その後すぐに俺は都市国家であるオリエント国から廃村に移り住み、そこをバルカ村という名の拠点にしてしまったからだ。
あの厳しい環境にさらされるバリアントと比べるとまだましかもしれないが、ぶっちゃけ都会暮らしという夢は幻となってしまったようなものだろう。
多少気候のいい田舎の村に移り住んだに過ぎない。
ようやく塩害が落ち着き始めたとはいえ、土地も建物も全部自分たちでなんとかしているという状況だ。
さらに、近くにあるはずの都会である都市国家へと傭兵連中が勝手に出かけることはできない。
バルカ村は俺の作ったバルカ傭兵団そのものでもあり、かつ、魔道具作りの拠点にもなっている。
とくに、魔道具の作り方なんてものは機密に該当する情報も多い。
自由に村を出てオリエントに遊びにいく許可を出すわけにもいかなかった。
そうなると、男しかいない村でひたすら魔道具作りと訓練をさせられ、たまに要請を受けて戦場に出る生活しかしていないことになる。
一応、エルビスの計らいで戦場に出た者は、戦闘が終了して一仕事終えた後にオリエント国へ遊びに連れて行ってもらったりもしているらしいが、それくらいしか機会がない。
いい加減、家庭を持ちたいと思う者も出てきているのだろう。
「オリエント国生まれの女性と結婚したい、か。できなくはないだろうけど、自由に結婚しろとは言えないよね? うちの情報を抜かれるわけにもいかないし」
「そうですね。このバルカ村はまだまだ発展途上ですからね。漏らしてはならない情報を守るためには、傭兵たちのもとへとくる女性にはこの村で生活してもらわなければならないでしょう」
「ってことは、自由に里帰りしてもらっちゃ困るってことか。そうなると、やっぱり身寄りのない女性とかのほうがいいのかな?」
「そう思って、俺もあいつらに提案したんですよ。アルフォンス様に頼んで貧民街から身寄りのない女を連れてきてもらおうか、と」
「……なんかそれ、俺の印象悪くない? 人さらいみたいなんだけど……」
「違うんですか? 聞きましたよ。アルフォンス様が歩いただけで人がバッタバッタと倒れて、その後何十人と子どもたちを引き連れて貧民街を出ていく姿の話を」
「いや、まあその話だけだと否定はできないけどさ。まあいいや。とにかく、オリエントに住んでいるって言っても貧民街の女性は嫌だってことだな?」
「そうです。ここでいう都会の女性というのはオリエント国の壁の中で生活している女性ってことですから」
「うーん。ようするに、壁の中に住む人で、この村に移り住んでくれて、できれば身寄りが少なそうな人か。そんな都合のいい人がいるのか?」
「わかりません。が、とにかく傭兵たちの要望はそんな感じなんですよ。いつまでも独身ってわけにもいかないでしょうし、何とか考えてみてください。よろしくお願いしますよ、アルフォンス様」
そう言って頭を下げるエルビス。
さすがにこの問題にはエルビスだけで解決できなかったみたいだ。
といって、俺もどうすればいいのかよくわかっていない。
そんな都合のよさそうな人、いるんだろうか。
どうしたものやら。
思わぬ相談を受けて、俺も頭を悩ませることになったのだった。
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