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「おっきーね。アル様、この子、すごく大きくなりました」


「本当だな。ていうか、ミー。ヴァルキリーに乗るのはいいけど、落ちたりするなよ?」


「だいじょうぶー」


 俺が孵化させた赤いヴァルキリーの背にミーティアが乗っている。

 【猫化】はしていないはずなのに、やはり体の平衡感覚が優れているんだろうか。

 ヴァルキリーが動いても、キャッキャと笑いながらその背中に乗り続けていた。


 そんなミーティアの姿を見ながら、改めてヴァルキリーの成長速度に驚く。

 生まれたばかりの小さな体はすでに過去のものとなってしまっていた。

 最初は膝の上に乗るくらい小さくて、足をプルプルとさせていたのに、わずか十日ほどでもう大きくなっている。

 このバルカ村には角なしの白いヴァルキリーがいるが、それらと比べると少し体つきが大きいだろうか。

 全身にきれいな赤い毛並みが生えそろった、立派な体格のヴァルキリーがそこにはいた。


「……赤いヴァルキリー、か。やっぱり、アルス兄さんのとは別物なのかな」


 この十日間、そのことがずっと気になっていた。

 俺の魔力で生まれたヴァルキリーは見た目だけだと色くらいしか違いがないように見えた。

 なので、アルス兄さんの孵化させる白いヴァルキリーと同種なのかもしれないという思いが最初はあった。

 だが、どうやら色以外にも違いが存在しているようなのだ。


 それは魔法だった。

 白いヴァルキリーは魔法が使える。

 それは生まれたばかりの個体であっても、頭の角さえ切らなければ魔法が使用可能なのだ。

 使える魔法の種類はものすごく多くて、どんな魔法があるかわからないくらいだ。

 だが、この赤いヴァルキリーは魔法が使えなかった。


 ここ数日、体の大きくなった赤いヴァルキリーに対して、魔法を使ってみるように言ってみたけれど一切発動していない。

 それこそ、生活魔法の【飲水】なんていう魔力消費量の少ない魔法ですらも発動していないことを考えると、使わないのではなく使えないのだろうと思う。


「おそらくは通常種とは別系統なのではないかと思われます。アルス・バルカ様由来の白いヴァルキリーは【共有】と呼ばれる魔法によって常時全個体がつながっている状態です。おそらく、その群れとの共有関係にアルフォンス様由来の赤いヴァルキリーは含まれていないのでしょう」


「そうだろうね。【共有】が働いていたら魔法も使えるだろうし、そうじゃないっていうんならつながっていないんだと思う。問題は、こいつに赤同士での【共有】の魔法があるのかってところなんだけど、使役獣の卵を食いやがったからな」


「はい。【共有】の有無は別の赤個体がいなければ検証できません。現在のところ、確認は困難でしょう」


 俺と一緒に赤ヴァルキリーを見ているアイがそう言う。

 アイも赤は白とは別だと認識しているようだ。

 そして、それはおそらく正しい。

 少なくとも白い角ありと【共有】が働いているとは思えなかった。


 ただ、ここまで似通っているなら【共有】という魔法を赤ヴァルキリーが持っている可能性は十分にあると思う。

 なので、検証したいのだが、今は卵がなかった。

 俺が持っていた卵を全部食べられてしまったからだ。

 もしかしたら、卵を食べなければ生きていけない個体なのかと思って、様子を見ていた。

 が、どうやら別に卵だけを食べて成長するわけでもないらしい。

 卵の在庫が無くなったら、それ以降は普通にハツカやほかの食べ物も食べている。

 ハツカでいいなら最初からそれを食ってろよ、と思わないでもないが今更言ってももう遅いだろう。

 むしろ、使役獣の卵だけしか食べられませんというわけではなくてよかったと思うしかない。


 なんにせよ、こうして、赤ヴァルキリーは無事に育ち、俺の手元には使役獣の卵がなくなった。

 どうしようか。

 今更ながらに、傭兵団の足として馬でも購入していくことを考えたほうがいいのだろうか。

 使役獣は確かに便利なのだけれど、この東方では手に入らない。

 この場には角なしが十頭くらいいるだけで、それもいつかは寿命がきたり、戦場で命を落とすこともあるだろう。

 今のうちから今後のことも考えていかないといけないな。


「わわっ、どうしたの? うんちするの?」


 アイとそんなことを話していると、ミーティアの声が聞こえてきた。

 どうやら、赤いヴァルキリーが背中に乗っていたミーティアを降ろすように地面に足をついて体を折り曲げ、その後下半身に力を入れる動作をする。

 ミーティアの言うとおり、排泄でもするのかと思い再びアイと話をしようとした瞬間だった。


「え?」


「あれは……卵でしょうか?」


「確認する。……これ、使役獣の卵じゃないか?」


 俺たちの目の前で赤ヴァルキリーがお尻からポロンと何かを出した。

 しかし、それは排泄物などではなかった。

 卵だ。

 それも十日ほど前までよく見ていた使役獣の卵。


 こいつ、卵生だったのか?

 いや、普通のヴァルキリーは卵を産んだり、子どもを産んだりはしない。

 もしかして、【産卵】の魔法、か?

 わからない。

 わからないが、どうやらこいつは普通のヴァルキリーとは決定的に違う存在だということだけがこの場で証明されたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] とりあえず【名付け】しようぜ【名付け】
[一言] もしかして、女王蜂のように一族を産みまくる系?
[一言] そうか、赤兎馬か…
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