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新たな使役獣

 東方では見られないが俺の地元ではある、というものは結構ある。

 が、その中でも変わり種のひとつが使役獣ではないかと思う。


 フォンターナ連合王国をはじめとして、西の国々では使役獣という生き物がいる。

 それは、黄金鳥という使役獣が生み出す卵を人間の魔力を使って育て、孵化させることができ、そうして生まれてきた使役獣は人間に対して非常に従順で言うことをよく聞く性質を持つ。

 こんな変わった生き物は東方では見たことがなく、クリスティナたちも驚いていた。

 ヴァルキリーが人の言うことを理解して動くのを、出会った当初から不思議がっていたものだ。


 使役獣のいない東方では野生の生き物を家畜化して人の生活の中に取り入れている。

 ヴァルキリーと似ている動物として馬という動物がいて、それがよく使われているが、馬は基本的に臆病なのだそうだ。

 そのため、馬を戦場で使うにはそれなりに訓練も必要で、行商で使う際にもいろいろ気を使うらしい。

 ただ、使役獣がいないというのは何も悪い面だけではないようだ。

 むしろ東方社会では使役獣という便利すぎる生き物がいないために、いろんな動物をなんとか人間の生活の役に立てられないかと工夫してきた歴史があり、そういう意味では西よりも発展していたりする。


 それはともかくとして、ようやく俺が魔力を注ぎ続けた使役獣の卵が孵化した。

 ずいぶんと時間がかかってしまった。

 この使役獣の卵は、俺とアルス兄さんの血が一緒だとノルンが言ったことに対して、それならこいつを孵化させてみろと渡されたものだったと思う。

 その時は、きっとそう遠くないうちに孵化するものだとばかり思っていた。

 が、普段から魔力を与えていたのに全然孵らなくてもう半ば諦めていた。

 それでも使役獣の卵に魔力を与え続けていたのは、わずかだが卵の大きさが大きくなっているようにみえたからだ。


 その卵がようやく孵る。

 俺とハンナが見ている目の前で、地面に置いた使役獣の卵の表面のひびが大きくなって割れた。

 そして、その亀裂を中から押し広げるようにして這い出てくる。


「キュー」


「わー、かわいいですね。小さくて、赤いヴァルキリーちゃんですよ、アルフォンス様」


「本当だ。ヴァルキリーだけど、色が赤い」


 卵から出てきた使役獣は紛れもなくヴァルキリーだった。

 頭に二本の角があり、四つの足をプルプルと震わせながら必死に立っている。

 その体は小さい。

 卵の白身が全身についた状態でべっとりした体のまま、顔を上げて俺と目があった。

 コテンと首を傾げながら、俺を見つめてくる。

 かわいい。


 やっぱり、俺とアルス兄さんは同じ存在なんだろうか。

 使役獣は魔力を与えた人間によって生まれてくる姿かたちが変わるという話だったはずだ。

 人によっては孵化することもなく終わったり、あるいは鳥型だったり騎竜型だったりもするらしい。

 だが、今までのヴァルキリーとは違うところもある。

 それは色だ。


 アルス兄さんが孵化させた使役獣の卵からは、きれいな白い毛のヴァルキリーが生まれてくるはずだ。

 だが、今俺たちの目の前にいるのは全身の毛が赤かった。

 色違いが生まれてくる可能性なんて考えていなかったけど、これはアルス兄さんのと同じと考えていいのか、違うのかがよくわからない。

 もしかしたら、卵に魔力を与え始めたときには、俺がノルンと血の契約をしていたから、微妙な違いがあるのかもしれない。


「キュウキュウ」


 そんな赤ヴァルキリーが声を上げた。

 どうしたんだろうか?

 何か言いたいのかと思っていたら、とことこと俺のそばに歩いて近づいてくる。

 もしかして、眠いのかな?

 膝の上に乗って寝たりするんだろうかと思ったりした。

 が、どうやら違ったようだ。


「ん? これが気になるのか? こいつらはまだ孵化しないみたいだぞ」


 俺のそばまで近づいてきた赤ヴァルキリー。

 どうやら、こいつは俺にではなく、俺の腰にあるものに興味があったようだ。

 それは、今生まれたこいつとは別の使役獣の卵だった。

 アルス兄さんから受け取った卵は一つだけというわけではなく、予備も含めて何個かあり、それにも魔力を注いで袋に入れていたのだ。

 今回生まれたのはこいつだけだが、もしかすると生まれてくる前の兄弟たちのことが気になるのかもしれない。


 そういえば、アルス兄さんのヴァルキリーたちはヴァルキリーそのものが卵を孵化させたりもするんだったな。

 こいつも、自分で卵を育てたいのかもしれない。

 そう思った俺は袋から使役獣の卵を取り出して、赤ヴァルキリーの目の前に置いてやった。


「って、おい。何するんだ」


「きゃあ。た、卵、割れちゃいましたよ、アルフォンス様。この子、お腹すいていたんじゃないですか。使役獣の卵、食べちゃいましたよ」


 俺が赤ヴァルキリーの目の前に置いた卵。

 それを見て興味を示した赤ヴァルキリーの行動は完全に俺たちの予想外だった。

 近づいてクンクンとにおいを嗅いだかと思ったら、いきなり卵を割ってしまったのだ。

 あっさりと卵の殻を割ってしまい、中に頭を突っ込んで中身を食べてしまっている。


 大丈夫なんだろうか?

 ヴァルキリーはハツカなんかの植物を好んで食べるのに、卵なんて食って平気なんだろうか?

 というか、共食いにはならないのか。

 卵に与える魔力量に違いがあったのか、こいつが生まれたほど卵の大きさが大きくなっていなかったので、まだ黄身の状態だと思いたい。

 いやいや、というよりもなんでこいつは使役獣の卵なんて食うんだよ。


 いきなりの行動に驚くばかりの俺の目の前で、小さく赤いヴァルキリーは卵を平らげ、満足そうにしながら今度こそ俺の足の上に上がってきて眠りについたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに来てしまった大惨事大戦の始まりだ……。 まぁ鎖国したり内的になってるから面倒毎減らすためにヴァルキリーの数を意図的に削った可能性もなくはないけど、うーむ。
[一言] もしかしてヴァルキリーを喰らうヴァルキリー、あるいは使役獣を喰らうヴァルキリー?
[一言] 卵に余裕があったら、ノーンや孤児達にも使役獣を孵化させてほしいな。 でも、東に使役獣がいないってことはグラナダを孵化させるための卵は西からもらったんですか?
感想一覧
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