諦めかけていたもの
「解呪。よっし、呪文化した」
年明けから始めた新たな魔法の創造。
それがようやく完成した。
【解呪】という魔法だ。
使用すると血液が穢されてしまうソーマ教国製の化粧品。
俺はそれを体に塗り付け、自分の血が穢れることを確認した。
そして、穢れを感じ取った瞬間に「解呪」と言いつつ、穢れた血を取り除く。
と言って、【解呪】の呪文を使うと穢れた血が体から噴き出したりするわけではない。
どうも、穢れた血は微量であれば内臓で処理して体外に放出する仕組みが一応人間の体には備わっているようなのだ。
その内臓機能を魔力を使って強化することで、効率よく呪いを体から追い出すことに成功している。
ぶっちゃけこれで呪いをすべて無効化できているのかはよくわからないが、少なくとも耐性は大幅に上がるんじゃないだろうか。
「お疲れ様です、アルフォンス様。やっぱり、呪文を作るのはずいぶん時間がかかるんですね」
「ありがとう、ハンナ。そうだね。結局、【解呪】は完成に春までかかっちゃったね」
「でもすごいです。私も早く魔法を作ってみたいです」
「ハンナの魔法か。最近、炎を出すのを頑張っているんだよね? 呪文化できそうなのか?」
「うーん。まだ難しいというか、どういう魔法を作ればいいのか悩んでいます。火を飛ばす魔法って、思ったよりも効果があるのかないのかわからなくて……」
俺が住むバルカ村はすでに気温が上がり始め、春になっていた。
やっぱり呪文を作るのは時間がかかる。
これで、俺が作った魔法は【いただきます】と【見稽古】、それに【解呪】の三つになる。
……なんかしょぼいな。
もっとかっこいい、派手で戦闘に使える魔法でも作ってみたいと思わなくもない。
たとえば、手のひらから炎を出す魔法なんていかにも強そうだ。
そして、このバルカ村にはそれができそうな人物が一人だけいた。
それがハンナだ。
ミーティアの血液とハンナの血液は今も定期的に入れ替えており、それによって、ハンナは魔力を使って炎を出すことができている。
それをうまく操って、なんとか攻撃魔法に昇華させることはできないだろうかと、よくハンナと話し合っていた。
ただ、それは今も実現していない。
それは、ハンナの炎の魔術がまだ安定していないというのもあった。
最近は自分の魔力を使って炎を出すだけならハンナもなんなくできるようになっている。
が、それを呪文化するために常に同じように発動するというのができないみたいだ。
さらに、炎を出せるからと言ってどのように出すのがいいかが難しかった。
たとえば、俺たちが一番最初に考えたのは火の玉攻撃だった。
ハンナが自身の魔力を火の玉に変換し、それを飛ばして攻撃する。
いかにも魔法っぽい感じがするのではないだろうか。
だが、火の玉を飛ばすだけではあまり役に立ちそうにはなかった。
というのも、炎そのものは重さがない。
たとえ火の玉が当たったとしても、ほとんど衝撃がないのだ。
しかも、その火の玉に当たったからといって全身が燃え上がるほどの火力もない。
当たった部分が多少火傷するかもしれないが、その程度だろう。
それを魔法として呪文化したところで、魔力量が高い相手には効果は見込めなさそうだった。
「まあ、結局はハンナ自身がもっと強くなることだろうね。しっかりと食べて、魔力を取り込んでいくしかないよ」
「そうですよね。先は長いですけど、アルフォンス様に少しでも恩返しできるように頑張りますね。……って、あれ? さっきからなにか変な音がしていませんか?」
「ん? 音? 何の音だろう?」
「それですよ。アルフォンス様が腰につけているその袋から聞こえていますよ。なんか、ぱりぱりって鳴っているように聞こえます」
「ほんとだ。って、まさかようやくかよ」
ハンナと話している最中だった。
それに先に気が付いて指摘するハンナが指さしているのは、俺の腰にある袋だ。
そこからぱりぱりという音が聞こえるという。
確かに、ハンナの言うとおり、そんな音が聞こえている。
その音の原因について思い当たることがあったので、すぐに袋の口を開けて中の物を取り出す。
やはりだ。
どうやら、袋の中にあったものにひびが入っていて、それが音の原因だった。
「なんですか、それ? なにかの卵ですか?」
「そうだ。使役獣の卵だよ」
「使役獣、ですか? それってヴァルキリーちゃんのことですよね?」
「そうだけど、ちょっと違うかな。ヴァルキリーは確かに使役獣だけど、使役獣にはいろんな種類があるんだ。使役獣の卵っていうのがあってね。その卵は、卵を持っている人の魔力を吸い取って孵化するんだ。で、その生まれてくる姿は卵の時に吸った魔力によって変わる。ヴァルキリーはアルス兄さんが孵化させた使役獣なんだよ」
「へー。そうなんですか。ずいぶん変わっているんですね。っていうことは、この卵はアルフォンス様の魔力を吸い取って孵化しようとしているわけですよね」
「そういうこと。長かったな。アルス兄さんにこの卵を預かってからもう二年くらい経つんじゃないか? 正直、もう孵化しないんじゃないかとあきらめていたんだけど」
もうずっと前にもらった使役獣の卵にようやく変化が訪れた。
卵の表面にひびが入り、中から卵の外へと飛び出そうともぞもぞ動いている。
ようやく、孵化することになった俺の使役獣。
そいつが、俺とハンナの目の前で姿を現したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





