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事前の対処

「お帰りなさい、アルフォンス様」


「ただいま、ハンナ。これ、お土産。バナージ殿に新年の祝いの食事を包んでもらったんだ。子どもたちみんなで食べてよ」


「わあ、すごいですね。縁起物の食べ物がいっぱいです。ありがとうございます、アルフォンス様。これで、今年もいい一年が過ごせますよ」


「ああ、そうなるといいね。その分、みんなにも頑張ってもらわないとね。勉強も訓練も、ものづくりもしっかり働いてもらうよ」


「もちろんです。私たちはみんなアルフォンス様に拾ってもらって命拾いしている身ですから。さぼっている子がいたら、私がしかりつけておきますね」


「あはは。よろしくね、ハンナ」


 オリエント国からバルカ村へと帰還して、お土産をハンナに預ける。

 ずいぶんと喜んでくれたようでなによりだ。

 そんなにあの料理っていいものなんだろうか?

 バナージと一緒に食べたが、どれも煮物系が多く、あんまり子どもが喜びそうな料理ではないような気がするんだけど。

 まあ、縁起がいい食べものとかいう話だし、そもそも孤児だった連中からすれば食べられるならなんでも喜ぶだろうけど。


 ハンナに料理を渡した俺は、倉庫へと向かった。

 もともと廃村だったこの村に移り住んだ時に、俺は村長宅へと上がり込んで生活していた。

 が、その後、ハンナがその家を全焼させてしまったこともあり、今はすでに新しい家になっている。

 硬化レンガで作られたその家には、燃えたらいけないものなどをしっかりと保管できるようにした倉庫も完備した。

 そこへ置いてある物を取りに行く。


 倉庫から引っ張り出してきたのは化粧品だ。

 といっても、それはバルカ霊薬ではない。

 ソーマ教国製の使えば呪いを受けるという例の化粧品。

 マーロンやほかの数多くの女性が被害を受け、それらを回収した際に俺が研究用として預かった品が倉庫に積まれていたのだ。


「よし、じゃあやるか」


「おい、アルフォンス。やるって、何をする気なんだ?」


「決まっているだろ、ノルン。今から俺がこの化粧品を使うんだよ」


「お前が化粧品を使うのか? それは呪いを受けるやつだろ? なんのためにそんなことをするんだよ。まさか、自分の血を呪いで穢したいわけでもないだろうが」


「いや、そのまさかだよ。俺はこれを使って呪いを受ける。で、それを自分で治すんだよ」


「おいおい、勘弁してくれよ。お前の血は俺の血でもあるんだからな。というか、俺という魔剣の存在そのものなんだ。穢れを引き込むようなことはするなよ」


「別にいいじゃん。治せるんだから」


「そりゃそうだが、嫌なもんは嫌だろう。というか、本当になんでそんなことをしなきゃならないんだ?」


「対処法を作っておこうと思ってね。禁呪だったっけ? ソーマ教国が使う禁呪がどんなものかはよく知らないけど、この化粧品みたいに使ったら穢れを引き起こすような手段がほかにもあるかもしれないだろ。だから、それを防ぐ方法を用意しておこうと思うんだ」


 バルカ村に帰ってきて最初にしたこと。

 それは、新しいものづくり、ではなかった。

 というのも、帰り際にオリバに注意を受けたからだ。


 それは、ソーマ教国に注意するようにということだった。

 俺たちはソーマ教国製の化粧品が危険なものであると主張して、流通を禁止させる動きを見せた。

 そして、その化粧品が原因で不治の病になるという情報を広げた。

 さらに、その不治の病を俺ならば治せるとして、数多くの治療を行った。

 最後には、その危険な化粧品を使わなくともいいようにと、新たに化粧品を開発して売り出すということにまでなっている。


 これをソーマ教国側から見たらどう思うだろうか。

 自分たちの商品が危険なものであると言われて、商売の邪魔をされ、さらにはそのための治療という名の延命でのお金稼ぎすらもできなくなっているのだ。

 ようするに、俺はソーマ教国から邪魔な人間であると思われている可能性が高いということだ。

 そして、不治の病を治療できるのも俺とノルンだけで、他にはいない。

 ならば、どう動くか。

 もしかすると、強硬手段をとってくるかもしれない。


 とはいえ、このオリエント国内ではソーマ教国も表立って動けないだろう。

 少なくとも本国から兵を差し向けて俺の命を狙うということは考えにくい。

 であれば、手段は限られている。

 オリバが言うには刺客が送られてくるか、毒を盛られるか、だそうだ。


 しばらくの間は鮮血兵ノルンをそばに置いておこう。

 いつもなら、いたりいなかったりしているノルンを常に出しておけば、少なくとも寝込みを襲われることもなくなる。

 なんせ、ノルンは睡眠を必要としないのだから。


 問題は毒だ。

 いや、毒そのものはいい。

 俺の体はミームによって既に毒に対する耐性を得ているし、流星の血を吸い取ってからは【毒無効化】の呪文も使えるようになっている。

 あれがあれば、毒による暗殺の心配はいらなくなる。


 が、どうやら呪いは違うようだった。

 毒が体の中に入れば、無意識に俺の魔力が防衛反応を示して無効化してくれる。

 だが、この化粧品を塗り込めば、わずかだが俺の血液も穢れを受ける。

 吸血鬼である自分の血だからか、ほんのわずかなその変化が感じ取れた。

 ということは、呪いによる体調の変化は【毒無効化】では防げないということになる。


 もしかすると、ソーマ教国には化粧品よりももっと直接的に、即効的に効果を発動する呪いの薬などがあるかもしれない。

 それに対処するためにも、今のうちから呪い耐性を得ておこう。


 そう思った俺は、それから毎日、自分の体にソーマ教国製の化粧品を塗り込みつつ、それによって穢された血液をすぐに除去することを繰り返した。

 毎日毎日それをするのは魔法として呪文化するためだ。

 呪い無効化の呪文を作るために、俺は新年早々ずっと全身に化粧品を塗り続けたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハンナ 「私、アルフォンスさまがお化粧してたなんて、誰にも言いませんから…ポッ(///∇///)」
[気になる点] やっぱり発想も行動もアルスと一緒。
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