新興勢力の台頭
「最近の政治は難しいのでござるよ」
年明けのバナージとの会話。
料理をつまみながら酒を飲んでいたからか、だんだんとバナージの話には愚痴が入りだした。
どうやら、いろいろとため込んでいるらしい。
魔道具やらなんやらで結構儲かっているはずだが、気苦労も多いのかもしれない。
「どうかしたんですか?」
「うむ。聞いてくれるでござるか、アルフォンス殿。最近は国と国の関係以外にも注意しなければならなくなってきたのでござるよ」
「国以外に?」
「そうでござる。近年は【命名】による魔法の拡散が各地で続いているのでござる。それによって、地殻変動が起きているのでござるよ」
バナージが言う地殻変動。
なんとも大げさだが、それくらいの衝撃をバナージは受けているということなのだろう。
そこにはやはり魔法の影響が大きく絡んでいた。
アルス兄さんがバナージに対して名付けをして、オリエント国では魔法を使える者が広がった。
それは、ある程度特権階級でもある議員やその家族、あるいはその周辺の者が多かったようだ。
ただ、ブリリア魔導国のように【命名】を勝手に使用することを固く禁じて、拡散を防ぐことはなかった。
そのため、今では別の国でもあるグルーガリア国などでも拠点となる材木所を壁で囲ってしまえるくらいには魔法を使える者の存在が広がったようだ。
つまり、オリエント国以外でも魔法を使える者が多数いる。
そして、それは今も広がりつつ、特権階級のみにとどまらなくなった。
その結果、バナージの言うように政治的な地殻変動すら起こるようになってしまったそうだ。
一般市民が魔法を得て力をつけ始めたのだという。
今までは歴史ある名家や財力を持つ家の者が議員としての地位を得て、各国の政治を動かしてきたのが小国家群での主な仕組みだった。
しかし、そんな家柄やそれまでの流れを無視して、魔法という力を手に入れた者たちが独立して動き始める。
それまではどこかの国に所属していた村や町が自らの力で歩き始めたのだ。
各地で乱立し始めた独立勢力。
今まで各国の力関係を見極めて、政治的に中立を保ちながらこの国を維持してきたバナージにとってみれば、現在の状況は全く先が読めないものになってしまっている。
とある都市国家などは独立を訴えて立ち上がった町に兵を差し向けた結果、あっさりと負けて力を大きく落としたところもあるのだから、もう大変だ。
一年後にはどの国が残っているのかも不明といってもいいくらいなのだ。
もちろん、新興勢力だけが力を伸ばしているだけではない。
小国の中には積極的に魔法の力を利用して勢力拡大を行っているところもある。
もともと力のある国であればあるほど、その勢いは激しい。
そういう国ももちろん要注意だろう。
「というか、それならやっぱりオリエント国ももっと動くべきじゃないですか? 守ってばかりで、全然攻めないのはどうかと思いますよ?」
「それはそうでござるがな。議会の中でも意見が割れているのでござるよ。オリエント国のこれまでの基本方針をどこまで踏襲しながら国を動かしていくか。だれもが手探りなのでござる」
そんななか、オリエント国の動きは鈍かった。
もともと、この国は武力という面でいえば弱い国に当たる。
ものづくりの技術があるだけの小国であり、よそから攻められるとあっという間につぶされかねない国だ。
そんな国を維持してきたのは、その技術力と外交能力によるものだった。
各国の中をうまく泳いで、それぞれの国とつながりを持つことで攻め込まれにくい状況を作って国を維持してきた。
それが、最近では周囲から襲われて瀕死状態に陥ったところで、なんとかグルーガリア国の柔魔木を使った魔弓オリエントのおかげで立て直しつつあるのだ。
オリエント国の議会としては、このまま何としても国を立て直し、今までどおりに戻したい。
そういう思いが強いのだろう。
まずはしっかりと自国を守って、長期的には失われてしまった職人の数も増やしたい。
だが、それができる状況かどうかは怪しいのも事実だ。
ならば、この際、国の範囲を広げるために動くのもありかもしれない。
そう思う議員もいるのだが、いかんせん、今までのやり方というのがある。
下手に他国にちょっかいをかけると、周囲から袋叩きにされて滅亡まっしぐらという未来がちらちらと見えるので、動きを見せることすら嫌がる者もいる。
そういうことから、現状の様子見に甘んじているのだそうだ。
「だが、そんな状況でアルフォンス殿の行動はありがたかったのでござるよ」
「俺の行動ですか?」
「うむ。他国のなかには雇っている傭兵団が魔法を手に入れて、雇い主である国を襲ったという話もあるのでござる。そのために、傭兵団を危険視する者もいないわけでもないのでござる。だが、この国で一番重宝されているバルカ傭兵団は違った。ものづくりをしてくれたのでござる」
「バルカ村で物を作ったのが、いい印象を与えているってことですか」
「そのとおりでござる。バルカ霊薬という異国の薬とともに、その容器にはガリウス殿の意匠が施された芸術品とも呼べる品を量産できる技術力を示したのでござる。あれのおかげで、議員たちの中にはバルカ傭兵団をただの傭兵団ではなく、戦える職人集団であると認識する者も出始めているのでござるよ」
「ふーん。要するに、オリエント国から見て、多少の仲間意識が出てきたって感じなんですか?」
「そうでござるよ。この国に溶け込むように技術を磨いて、さらには戦場にも出るバルカ傭兵団のことを高く評価する動きが増えてきているのでござる。なので、アルフォンス殿にはこれからも戦いとともに、ものづくりも頑張ってほしいのでござるよ」
「わかりました。というか、そんなことを言われなくてもうちはまだまだ稼いでいかないといけませんからね。ものづくりはこれからも頑張りますよ、バナージ殿」
どうやら、俺たちが今までやってきた方向性は間違っていないようだ。
ものを作るという行動が信用を勝ちとることにつながっていたらしい。
ありがたい話だ。
少なくとも、異国の乱暴者として傭兵団を見られるよりははるかにいい。
この調子で頑張っていこう。
なんなら、ほかにもなにか有用なものでも作ろうか。
そんなことを考えながら、バナージとの食事を堪能したのだった。
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