秘密交渉
「アルス、フォンターナ家との話がまとまりそうですよ」
「はやっ! この前会ってからまだ何日も経ってないですよ」
「こういうものは迅速にやらねば意味がありません。では、手はず通り例の場所へ」
「わかりました」
俺がパウロ司教へと今回の問題解決を依頼することにして数日が経過した。
一応依頼はしたし、パウロ司教のことは信用してはいるのだが、それでもいつフォンターナ家が攻撃してくるかはわからない。
だから俺は川北の城に戻って設備の増強や兵の取りまとめなどをしていたのだった。
だが、その間にもフォンターナ家に動きはなく、数日過ぎた頃になってパウロ司教がやって来たのだった。
パウロ司教は俺から受け取った金と教会での地位を利用してフォンターナ家と交渉に入ることになっていた。
しかし、最後の詰めは俺が直接行う可能性もあると言われていた。
武力衝突にまで発展した今回の件を当事者不在に終わらせることなどできないからだ。
ある程度話をまとめてどうやら貴族様との和睦の可能性が出たと判断したパウロ司教は俺にその話し合いの場へと出るように言ってくる。
もっとも、いきなりみんながみている前で話し合いをするのではなく、事前にある程度両者の落とし所を決めておこうとなったようだ。
その時のために俺と向こうの交渉者が会うための場所。
それは俺が造った道路の横に建てた塔のひとつだった。
真っ直ぐにしかひけない道路を川北の城からバルカ村まで通すために建てた目印の塔。
一応、見張り台としても使えるし、休憩場所にもなるだろうということで残したままのものがある。
そのうちのひとつを人払いしておき、そこに俺とフォンターナ家の交渉人が最後の和睦条件などの決定のために集まったのだった。
※ ※ ※
「ほう、貴様がアルス・バルカか。本当にまだ子供ではないか」
「……アルスです。そういうあなたは?」
「俺の顔を知らんのか? カルロスだ。姓はフォンターナといえば誰だかわかるだろう? 俺がフォンターナ家の当主様さ」
こいつが?
カルロスと名乗る男、いや、彼はまだ少年と言ってもいいのではないだろうか。
見た感じ、多分15歳くらいの少年だ。
このあたりだと成人年齢にはなっているので問題はないが、まさかフォンターナ家の当主がこんな子供だったとは。
俺は今更ながらに自分の住む土地の貴族のトップを知って驚いたのだった。
「さて、司教から話はすでに聞いている。貴様が他貴族とのつながりがないということや和睦の意思があるということもな。煩わしい駆け引きはなしにしよう。ここらでお互いに剣を収めようではないか」
「……そう簡単にはいとは答えられないですね。どのような条件かによります」
「くっくっく。貴族に向かってひざまずくこともなく、条件を持ち出すか。さすがに今回の騒動の中心人物というだけはあるな。面白い」
いや、別になんにも面白くないから。
というか、この当主様はなんでこんなに落ち着いているんだろうか。
こちらの勢力圏内に供のものを数名連れて来ているだけなのだ。
というよりも、わざわざ俺との交渉に貴族のトップが来るとは想像もしていなかったが。
パウロ司教も先に言っておいてくれたら良かったのに。
「そうだな。条件はこんなものでどうか。お互いに剣を置くというのであれば、貴様にはバルカの地を任せてもいいぞ」
「バルカを? ……すみません、拝見します」
カルロスがいいながら渡してきた羊皮紙。
それを受け取って、書かれている内容を読み取る。
そこには主に次のようなことが書かれていた。
一つ、戦闘行為の停止。
一つ、戦闘集団の解散。
一つ、捕虜となった騎士の返還。
一つ、氷精剣の返還。
一つ、バルカの土地の処遇について。
一つ、俺の身柄について。
大雑把に言ってしまうと、俺達が解散して戦闘をしないと約束すれば、罪には問わず見逃すという内容だ。
しかも、俺の立場が上がるらしい。
なんとバルカ村などを俺のものとして認めるというのだ。
だが、そんなものをタダでやるはずもない。
かわりに俺がカルロスの配下に、つまりフォンターナ家の傘下に入るという条件がつくらしい。
「気になるところがいくつもありますが、それでもあえて先に聞いておきます。ずいぶんとこちらにとってよい条件なようですが、本当にこれらは守られるのですか?」
「ああ、細部は後で詰めるとしても、おおよそその形で決着をつけたいと考えている。正式に決まれば、それを覆すことはしないさ。そんなことをすれば俺の他の部下が俺を見放すだろうしな」
「……それにしてもおかしいのでは? こういってはなんですが、こちらはフォンターナ家の家宰を討ったのですよ? その私がカルロス様の配下に入るというのは異常だと思いますが」
「くははははは。まさに今回の件でもっとも礼をいいたいのはそこだよ、アルス。よくぞレイモンドを討ち取ってくれた。感謝しているくらいだ」
は?
家宰というのは貴族家の中でも最重要なポジションじゃないのだろうか。
それを殺されてなんで嬉しがるんだ?
突拍子もないカルロスの言葉に俺はわけが分からなくなったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。





