バルカ霊薬
「どうだ、アイ? できそうか?」
「問題ありません。すでにガリウス様には専用の蒸留器などを作っていただきました。あとは定められた手順を行えば、問題なく完成します」
「よし。それじゃあ始めてくれ」
新たな化粧品を作り、バルカ村の売りとする。
その計画のためにさっそく試作品を作ることにした。
このバルカ村で栽培して数の増えた塩草を専用の器具を使ってアイが精製する。
今回作る化粧品はカイル兄さんが完成させたものだが、これはアルス兄さんも一枚かんでいる話だそうだ。
天空王国では意外と化粧品という分野が発展している。
というのも、以前、力を入れて研究・開発を推し進めていたことがあったのだそうだ。
それは、もともとは育毛剤作りから始まったと聞いている。
神の依り代であるアイは人工の皮膚を体全体に覆っているが、それとは別に髪の毛が必要だったからだ。
人工の皮膚の上にも生える髪ができないかどうかを結構な期間、研究していたという。
だが、それはついには完成しなかった。
そこで、別の案としてアイの髪はものすごく南にあるジャングルとかいうところでとれた植物などを使って作ることになった。
が、育毛剤の研究は今も続き、それによって得られた技術を化粧品づくりにも活用しているのだそうだ。
カイル兄さんによる塩草を原料とした化粧品も、その技術発展によるところが大きい。
塩草を処理して、そこから成分抽出していく。
その成分は女性ホルモンというものに作用する効果が高いらしい。
それを今度は実際に使いやすい形にするために、ほかの薬品と混ぜ合わせ、乳液へと完成させる。
さらに、ガリウスにも仕事を頼んだ。
この乳液を入れる容器の開発を依頼したのだ。
化粧品市場が急拡大しているバルカニアなどでは、化粧品そのものよりも、入れ物の見た目などが売り上げに大きくかかわってくるという研究結果もあったからだ。
いくら、「この化粧品はよく効きますよ」と謳い文句を並べても、見た目が悪かったらだれも使わないのだ。
それとは逆に、あまり効果が見られないはずの化粧品でもおしゃれで見た目のいい商品として売り出すことでバカ売れすることもある。
なので、このオリエント国やその周辺の小国家群でも売れそうな容器づくりをすることにした。
ガリウスがいくつかの容器案を出し、それを見ながら意見を出し合う。
この化粧品は俺の故郷でもあり、霊峰を越えた先にあるこの小国家群では未知の国の幻の薬として売り出す考えだ。
そのため、ちょっと神秘的な印象を与えるためにガラス製にすることにした。
ただ、あまりにも異色すぎると手に取ってもらえない可能性もある。
珍しいが、なんとなく惹かれる形。
それをガリウスやクリスティーナとともに頭をひねって考える。
割れにくく手に取りやすく、おしゃれな容器。
そこにアイが作った化粧品を詰める。
あと必要なのは名前だろうか。
商品名というのも商売には重要な要素だそうだ。
覚えやすく特徴的でありながらも、独自性のあるいい商品名をつけられるかどうかで売上が変わる。
「……バルカ霊薬、とかってどうかな? 霊峰の向こうの幻の薬っていうのとうちの村の名前を入れ込んでみたんだけど」
「そうね。まあ、悪くないんじゃないかしら?」
「ほんと? そう思うか、クリスティナ?」
「ええ。というよりも、あんまり考えすぎてもしょうがないわよ、アルフォンス君。商品が売れるかどうかは最後は運だもの。もちろん、商人の腕もあるけどね。ただ、あまり奇をてらって変わった商品名にするよりは単純でわかりやすいもののほうがよかったりするものよ」
「そうかな。うん、まあ、そういうもんかもね」
「そういうものよ。それに今回はオリエント国でも有力な商人が最初から販路に加わるのよ。むしろ、そっちのほうが重要ね。大きな商会が取り扱うかどうかで売れ行きは変わるから。実際に病気を治したアルフォンス君が作った化粧品なら、少なくとも門前払いされることもないはずだしね」
「そういうことなら、今まで治療した人に対して試供品でも送ろうか。最初は無料で配って、バルカ霊薬の効果を体感してもらう。実際に使ってみれば、この化粧品が効果を謳っただけのものじゃないってのは分かってもらえるだろうしね」
「あ、それいい考えね。やりましょう、アルフォンス君。私もこのバルカ霊薬を使ってから本当にお肌の調子がいいのよ。使えば絶対に効果があることが分かるはずよ。私が保証するわ」
そういって、自分の肌を擦るクリスティナ。
いつも露出が多めの服を着ているクリスティナがつやつやになったお肌を見せてくる。
どうやらバルカ霊薬をすでに試して、その効果を実感しているらしい。
……商品の効果を見せるいい例になるかもしれないけれど、このバルカ霊薬はそれなりにお高い値段で売る予定だから、使いすぎないように注意しておいたほうがいいかもしれない。
それをクリスティナに伝えると、孤児の中でも女の子たちに残念がる姿があった。
お前らも使っていたのか。
どうやら、女性陣には年齢関係なくバルカ霊薬を評価してもらえているらしい。
そんな新商品を新たに売り出すころには、新年を迎える時期になっていたのだった。
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