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原因特定

「傾向が見えてきた、かな?」


「傾向ですか? いったい何の話ですか、アルフォンス殿?」


「不治の病の原因についてだよ、オリバ。これまでに、もう何人もの患者を診てわかってきたことがある。それは、この病気は圧倒的に女性が多いってことだね」


 オリエント国で治療をいくつか引き受けていた。

 どうも、思った以上にこの病気という名の呪いにかかっている人は多いみたいだ。

 俺とノルンが治療を引き受けて、そして治していくという話を聞きつけて新たな人が訪ねてくるため、これまでに結構な数を診てきている。

 たいていは例の穢れた血が原因であったために、治療成績は抜群にいい。

 そうすると、さらに次から次へと、人伝えに話が広まっていくという好循環が生まれていた。


 そのため、月に何度かを治療日として俺はバルカ村からオリエント国へとやってきていた。

 今日もすでに数人を治療した。

 そのあとにつぶやいた言葉をオリバが聞き返してくる。

 それは、患者の傾向についてだった。


 不治の病と呼ばれる心臓の病気。

 そう知られているが、ノルンがいうには穢れた血が原因の病状。

 それは、なぜか女性の患者が圧倒的に多かった。

 男性がいないわけでもないが、これまで診たり聞いたりした患者の情報ではそのほとんどが女性だった。


 そして、なぜか富裕層の女性が多い。

 最初に延命薬の代金を治療費として受け取ったということもあるのかもしれないが、今まで治療を申し込んできた人はたいていそれなりにお金を持っている家庭の女性だった。

 一般市民よりも金を持っているから治療を受けに来やすかっただけかもしれないが、それにしても貧乏人にはこの病状の人は少ない印象を受ける。


 さらに言えば、この呪いを受けている人がいると、その家族にも同じような患者が現れやすい。

 が、お金持ちの家の奥さんと娘が呪いを受けていたとしても、そこで一緒に生活している住み込みの使用人の女性などはこの呪いを受けていないことが多い。

 まだまだ、ほかにもたくさんの患者がいるだろうし、はっきりとはわからないが、それでもこれまで診てきた中でもこれだけの特徴的な傾向が見て取れた。


「……それは、もしかすると」


「ん? なにかわかったのか、オリバ?」


「いえ。確証はありません。ですが、お金を持っている家の女性、それも使用人を除く者が不治の病に侵されるのであれば、やはり普通の病気ではないようですね。となると、一番考えられるのは食べ物の可能性がありますか」


「かもしれないけど、どうだろうね。たんにこれを食べたら体が悪くなるって食べ物があったとして、だからって女性だけが不調になるのかって気もするし」


「なるほど。そう言われるとそうですね。となると、使用人は触らない、かつ、女性しか触れることのないなにかがある、ということでしょうか」


「多分ね。調べてもらえないかな、オリバ。これまでに治療した患者へは、治療直後に一応聞き取りをしてきたけど、本人たちは原因に心当たりがないんだ。もしかしたら、特別なものじゃなくて、当たり前に使う物なのかもしれない」


「わかりました。こちらでも、話を聞いて調べておきます」


「ありがとう。まだ診ないといけない患者がいるから助かるよ。よろしくね」


 そういって、呪いの原因調査をオリバに頼んで、俺は治療に当たる。

 最近はノルンではなく俺が患者の体から穢れた血を取り除いていた。

 他人の体の中の血を操って操作するというのは普通は無理だ。

 ただ、ノルンによって俺の体は吸血鬼になっている。

 自分の血の一部を相手に送り込んで、穢れた血を回収して取り出す、なんて芸当ができるようになっていた。

 ただ、まだ慣れていないので実践練習がてら患者の体を使わせてもらっていろいろ試している。


 そして、月日が巡る。

 その間も、オリバは地道に聞き込みと調査を行ってくれたようだ。

 そうしてようやく穢れた血の原因についてを突き止めた。


「化粧品?」


「そうです、アルフォンス殿。化粧品ですよ。裕福な家庭の女性に多く発病する不治の病ですが、その原因は化粧品にあったのです」


「……そうか。貧乏な家だと化粧品なんて買わないし、使わない。住み込みで雇われている使用人もそうだ。けど、裕福な家の奥方や娘は違う。美容に気を使って化粧品を使うことが多いのか」


「はい。化粧品の中にも体に悪いとされるものはいくつかあるようです。ですが、それは違いました。使用していてもすぐには影響が出ないのです。何年も使い続けていると少しずつ症状が出てくるのでしょう。けれど、それをその化粧品のせいであるとはなかなか気づかない」


「その可能性はありそうだね。すぐに体に現れないなら気づかなくても無理はない、か。けど、よく今まで誰も気づかなかったな。で、オリバの言い方だとその化粧品についてすでに特定できているってことでいいのかな?」


「もちろんです。これまで、アルフォンス殿の治療を受けにこられた者のお宅へと実際にうかがって調べてきましたから。これです。全身の皮膚に塗りこむことで、美肌効果が得られるとされています。体への悪影響どころか、肌の調子がよくなると評判の品で、今回の調査でも使用者たちはまさかこれが悪さをしているとは疑いもしていませんでしたよ」


 そう言って、オリバが差し出したのは肌に塗る乳液のような化粧品だった。

 なるほど。

 これが体に毒であるとは知らずに、毎日熱心に塗り込んでいたのだろう。

 そして、何年も続けていたら少しずつ体の調子が悪くなっていた。

 体の小さな子どもだと症状は早く出たりするのかもしれない。

 そして、症状が出てしまったら化粧品をやめてももう遅い。

 穢れた血が自分の血液をさらに穢して、後戻りできない状況になるのだろう。

 あとに残ったのは、治すことのできない不治の病というわけだ。


 こうして、俺とオリバはこれまで全く原因のわからない不治の病についての原因を特定することに成功した。

 その後、バナージに掛け合って、すぐにこの乳液を使用禁止として、回収することになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] マーロン、幼そうな気がしてたのだけど、そういうクリーム塗る年齢だったんだろうか
[一言] 白粉の鉛で病気にってのが昔はあったらしいしねえ 長期的な観点持って無いと判らんよね ワクチンも長期で見なきゃアカンかったりするんだよなあ(目反らし
[一言] それ、どこ製なんですかねぇ。
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