勧誘完了
「……ま、教国のことは置いておこうか。とにかく、確認するぞ。マーロンの体はこれで治ったんだよな、ノルン?」
「多分な。呪いによって穢れた血を取り除いたから、今の体にある血は全部きれいなはずだ。それで治るんじゃないかと思うが、いかんせん、大昔の記憶だからな。呪いの質も変わっているかもしれんし、絶対に治るかどうかは俺様にはわからんよ」
ソーマ教国と呪いについてはこれ以上考えてもよく分からない。
わからないことを考えてもしょうがない。
そう思った俺は、マーロンのことについて話題を戻した。
ノルンがいうにはおそらくは大丈夫ということだった。
まあ、いかにノルンが血の専門家みたいなものであっても、ずっと長い間迷宮で埋まっていたからな。
ノルンが前まで動けていた時にはソーマ教国というのは聞いたことがなかったそうだ。
なので、確実なことは言えないのだろう。
が、それでも効果はあったんじゃないかと思う。
実際にノルンが穢れた血を取り出してから、マーロンの様子が変わっている。
もしかしたら、仮死状態を維持していた延命薬の成分なんかも抜き取ったのかもしれない。
呼吸も落ち着き始め、顔色や肌色も明るくなってきたように思う。
「かたじけない、ノルン殿。マーロンを救っていただき、感謝のしようもないでござる」
そんなマーロンの容態を確認し終えたガリウスが、こちらへと振り向き頭を下げる。
その眼には涙があふれていた。
言葉を詰まらせながらノルンに対して礼を言ってくる。
「なあに、俺様にかかればこのくらいなんてことねえさ」
それに対してノルンが答える。
なんとなく、気分がよさそうな感じだ。
それもそうか。
もともとこいつは魔剣だったのだ。
いくら魔剣の持ち主と意思疎通ができるとはいえ、ただの剣だ。
ほかの人間とは会話なんてすることがなかったに違いない。
それが、魔石を使って鮮血兵として自立して動けるようになった。
その結果、どうやっているのか知らないけれど言葉も発して人と話すこともできるようになっている。
そのおかげで今は他人と話をすることができる。
案外、会話ができるというのはノルンにとっては俺が思っている以上にうれしいことなのかもしれない。
ミーティアやハンナの治療のときには、二人の血を飲みたいだけなのではと思ったけれど、実は単純におせっかいを焼いてありがとうと言われたかっただけだったりするんだろうか?
「よかったなー、おっさん。これでバルカ村に来られるんじゃないか?」
俺がそんなことを考えていると、キクがガリウスに話しかける。
そうだった。
ちょっといろいろ聞かされて忘れかけていたが、それが本題だった。
穢れた血や呪いなんて言葉が頭に残っていてすっぽ抜けていたが、今回の目的は職人としての腕を持つガリウスをバルカ村に呼び込むことにある。
ノルンがマーロンを治したというのであれば、問題なくなるんじゃないだろうか。
「そうでござったな。失礼した、坊ちゃん。いや、アルフォンス殿。拙者、この恩は忘れぬでござる。ぜひ、バルカ村に迎え入れてもらいたい。拙者の腕を存分に振るうと約束するでござるよ」
「ありがとう、ガリウス。歓迎するよ」
「ただ、今すぐというわけにもいかないでござるな。マーロンはまだ動けないでござる。それに、薬の代価のことも残っているのでござるよ」
「教国との関係か。たんに延命薬を買っただけじゃないんだよな?」
「そのとおりでござる。当時の拙者はすでに文無しでござったからな。薬の代金を払う代わりに拙者の腕で支払うことになっていたのでござる。もっとも、それもノルン殿の話を聞いた今となってはいろいろと考えざるをえない話ではあるが、とにかく約定があるのでござるよ」
「つまり、マーロンはもうよくなったからこれ以上この貧民街で仕事はできないって相手方に言うわけか。それって大丈夫なの?」
「問題ないでござるよ。もともとは、延命薬を使ってマーロンの命をつなぎとめている間に治療法を探すというものだったのでござるからな。奴らのために働く期間は当然治るまででござる」
「そうか。じゃあ、あとくされなく縁を切ってからバルカ村に向かおうか。とにかく、まずはマーロンの体をしっかり治すのが先決かな? 今のままだと移動もできないだろうしね」
「そうでござるな。はやく元気に動けるようになってほしいのでござるよ」
「それなら、俺たちもしばらくここにいてもいいかな? 食料なら魔法鞄にも入れてきているからしっかり食べて元気になってもらおう」
「おお。これはうまそうなお米でござるな。いやはや、何から何までかたじけないでござる。感謝するのでござるよ、アルフォンス殿」
次々に食料を取り出して机の上に並べていくのを見て、ガリウスが笑いながら再び礼を言った。
その横で、ハンナが適当に食料を手に取り、調理していく。
アイ仕込みの料理の腕を持つハンナがパパっと手軽に作った料理をみんなで囲んで食べる。
こうして、職人としての腕を持つガリウスがバルカ村に加わることになったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





