ガリウスの娘
「暗いな。照明、っと」
「……それは魔法でござるか、坊ちゃん?」
「そうだよ。【照明】っていう生活魔法だね。便利でいいでしょ?」
「うむ。暗闇を一瞬にして明るくする魔法は確かに便利そうでござるな。わざわざ明かりをつける必要がなくなったでござる」
机をどかして地下へと降りる。
意外としっかりとした階段が地面の下へと続いている。
その先は全くの暗闇であり、奥が見えない。
そのために、俺が【照明】で明かりをつけた。
その【照明】の光を頼りに階段を下りていく。
それなりに下へと進んでいったら、扉があった。
意外とここの階段といい、今目の前にある扉といい、しっかりとした作りだ。
もともとの家がボロボロだったのを見ると、この地下室はかなり立派なものではないだろうか。
もしかしたら、こっちがこの家の本当に重要な場所なのかもしれない。
「坊ちゃんの考えているとおりでござるよ。この家はソーマ教国に用意されたものでござる。拙者はここに住み、ときおり訪れる教国の者から仕事を請け負う。その際、地上の家はあくまでも仮のもので、本当に重要なのはこの地下でござるよ」
「ソーマ教国の人って結構来るの?」
「その時によるでござるな。最近はそれほど頻繁には来ないでござるよ」
「おっさん、こんなところで何を作っているんだよ?」
「いろいろでござるよ、キク。拙者の本職は武器や防具でござるが、グランの影響でいろんなものに手を出していたのでござる。作れるものの種類は多岐にわたっていて、たいていのものなら作れるのでござる」
「人には言えないやばいものとかも作ってそうだね」
「そういうのも、無きにしも非ず、でござるな。さあ、開いたでござるよ」
地下の階段の先にあった扉をガリウスが開錠した。
ギギギと重たい音をして開いた扉の奥へとガリウスが進んでいく。
その後ろからついていく。
「広いな。地上よりかなり広いぞ」
そして、驚いた。
貧困街という雑多な場所に建ったオンボロの家の下には、思った以上に広々とした地下室があったようだ。
しかも、広いだけではなくいろんなものが置いてある。
なんに使うようなものかもわからない道具や、材料にするための素材などがある。
なかには薬品のようなものもあって、ちょっと独特のにおいがする部屋だった。
「こっちでござる」
部屋の中を興味津々であちこち見てしまう。
だが、ガリウスはそんなことにはお構いなく、さらにその部屋から別の部屋へと向かった。
どうやら、この地下室にはさらに奥に部屋があるようだ。
あちこちに物が置かれている部屋の中を抜けた先には、さらに別の扉があり、その向こうにも部屋があった。
そこへと入っていくガリウスについていく。
「この子が、ガリウスの娘か」
「そうでござる。この子の名はマーロン。拙者のたった一人の娘でござるよ」
そこには女の人がいた。
奥の部屋に置かれていたのは大きめの寝台だった。
そこには女性が眠っていたからだ。
寝台の上に横たわっていて眠る女性。
というか、本当にこの人は生きているのだろうか。
なんというか、目の前にある光景が異常すぎて、こちらが正常な判断ができないようにも感じた。
「い、生きているの? 本当に?」
「もちろんでござるよ、ハンナ。マーロンは生きている。間違いないでござるよ」
「でも、なんか管が刺さってない? こんなことをして大丈夫なの?」
「大丈夫でござる。それは栄養を点滴しているのでござる」
俺と同じように驚いているハンナがガリウスに尋ねる。
寝台で寝ているマーロンという女性には、何本もの管が体につなげられていたからだ。
管の先には針がついていて、体に刺さっている。
あんなことをして大丈夫なのかと思ったけれど、あれは問題ないみたいだ。
むしろ、ないほうがまずいのだそうだ。
延命薬で寝たように生き長らえているマーロンだが、そのまま放っておけばやはり死ぬらしい。
本来生きていればご飯を食べる必要があるから当たり前と言えば当たり前なんだろうか。
あれは管から食事の代わりになるものを送り込んでいるそうなのだ。
それもあって、長い間マーロンは生き続けた。
だが、代償はあるのだろう。
マーロンの体は小さかった。
延命薬を飲んだ時期から成長が止まっているのだという。
そして、体中の筋肉が落ちていてガリガリになってしまっている。
見ていて痛々しい姿をしていた。
「どうだ、ノルン? その子、心臓の病気があるそうだけど、治るかな?」
「さあ、どうだろうな」
「治せるんなら治してやってくれ」
「ったく。俺様は便利屋じゃないんだがな」
大丈夫なんだろうか?
もともとはただの剣でしかないノルン。
魔剣という多少変わった存在ではあるが、はたして病気なんてものを治せるんだろうか。
ガリウスはかなり不安そうにノルンのことを見ている。
藁にも縋る思いでいるんだろう。
真っ赤な鮮血の鎧姿をしたノルンがやせ細った小さな女性の体に触れた。
それを全員で見守る。
「ああ、なるほどな。これか。これならなんとかなりそうだな」
マーロンへと手のひらを当てたノルンがそう言う。
そして、胸元をはだけさせ、心臓のある場所へと手を当てた。
ビクンとマーロンの体が跳ねる。
それを見て、慌ててガリウスが駆け寄った。
だが、どうやらその時にはすでに終わっていたようだ。
ノルンの手にはどす黒い血の塊が握られていたのだった。
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