品質改善
「品質改善? それはここで作っている魔道具のことよね、アルフォンス君?」
「そうだよ、クリスティナ。ほら、うちで作っている魔道具ってさ、バナージ殿に高く売っているでしょ? けど、その機能性は認められてはいても、品質は良くないって言われているんだよね」
「まあ、そうね。ここでものを作っているのは、オリエント国の職人たちと比べたら圧倒的に技術力が低い素人の傭兵たちだものね」
夏の暑い日のさなか、俺は商人兼バルカ村の財政担当のクリスティナと話していた。
以前燃えてしまった村長の家はすでに建て直してある。
硬化レンガを主に使い、窓にはガラスをはめ込んだバルカニアでよく建てられているちょっと大きめの家だ。
そのまだ新しい家の一室で、この村で作っている魔道具について話す。
この半年でまた少しこの村は変わった。
俺が魔法を作っている間に人数も増えている。
というのも、バリアントからの新しい住人がすでに到着したからだ。
まだ冬の雪が残る時期に、バリアント城にいるアイに対して地上の集落に伝言を頼んだ。
雪解けが来たら、こちらの提示した人数の移住希望者をこのオリエント国バルカ村へと連れていくつもりだ、と。
そのために事前に希望者を募って、選定しておくようにと言ったのだ。
それらは新たな傭兵でもあり、かつ、この村での魔道具職人候補でもある。
手先の器用で、なおかついざというときに戦うことができる訓練を受けていた者。
エルビスがヴァルキリーに乗って帰り、そしてすでにここへと連れてきていた。
それにより、今のバルカ村は以前の倍くらいの人数になっている。
そのおかげで以前までよりも魔道具の製造速度と製造量は少し上がってきている。
が、気になる点もあった。
それは、バルカ村で作ってバナージに卸している商品の質についてだ。
オリエント国において、この地域で作られているほかの品と比べるとどうしても質が低いと言わざるを得なかったのだ。
魔法陣という技術を用いた便利な道具。
その点が魔道具の値段を釣り上げている要因ではある。
が、その商品自体を作っているのはそれまで霊峰と呼ばれる厳しい自然環境の中でしか生活してこなかった者たちだった。
彼らはけっしてものづくりがうまいわけではない。
オリエント国の職人たちから見ると、魔法陣という技術を抜きにしてみると、土鍋などの作りは素人のそれに近いものだった。
そのため、時々バナージにはもう少し品質を上げられないかと言われたりもしていた。
オリエント国の造り手であれば、こんな下手な土鍋なんて絶対に作らない。
バナージが当初自分が魔法陣技術を研究・開発してこの魔道具を造り出すことに成功したと言っていたのを、のちにブリリア魔導国との裏の関係をにおわせるに至ったのは、その低品質さも原因のひとつだった。
土鍋型魔道具などをみて、これは本当にバナージが作らせているものなのかと周囲から結構言われていたらしい。
なので、人数が増えたこともあり、ここらでその品質の問題について手を入れたい。
そのために俺は自分が作った魔法を活用できないかと思った。
その品質向上に【見稽古】を使おうと考えたのだ。
アイが魔道具を作る際の動きを実際に見せて、それを【見稽古】で覚えることで、同じ動きが比較的簡単にできるようになる。
それまでは見よう見まねでやっていた作業ももっと上手にできるようになると思う。
そのためなら、傭兵たちにもう一度名付けして俺の魔法を授けてもいいと考えている。
「なるほど。そういうことね。だったら、一人くらいオリエント国の職人を連れてきたほうがいいかもしれないわね」
「うん。俺もそう思う。アイは技術の情報を持っているけれど、ものづくりの腕で言えばやっぱり熟練の職人がそばにいたほうが、【見稽古】の効果も上がるだろうし」
「そうね。アイさんも確かに何でもできるけど、どうしてもその道の本職の人間には勝てない部分もあるでしょうしね。オリエント国の職人の腕は本当に高いわ。そういう人がこのバルカ村に一人でもいてくれれば、もっと品質向上につながると思うわ」
「だけど、下手に人を入れたらまずくないかな? 魔法陣の技術が外に漏れたら、うちの稼ぎが無くなるかもしれないわけだし、その点だけが心配なんだよ」
「確かにそうね」
「オリエント国の高い技術を持っていて、なおかつバルカのために働く人。そんな都合のいい人がほしい。無理かな?」
いくら【見稽古】で仕事を覚えられるといっても、職人技は一朝一夕には覚えられないだろう。
剣術だってそうだ。
アイの動きを見てそれをまねできるようになったところで、体が鍛えられていなければ何の意味もない。
力も持久力もない人間が一瞬だけ剣聖の動きをマネできたところで戦いの役には立たないからだ。
そして、それは職人の技にも当てはまる。
土鍋ひとつ作るのだって、その日の天気や湿度なんかを見極めて作ったりする必要もあるだろう。
それに商品の形や色、絵柄なんかもこだわればきりがない。
そういうのは、やはりこの国の職人のほうが圧倒的に上だと思うし、そういう人に教わるならそれなりの期間、教わることができるようにしておきたい。
【見稽古】を使える人間を職人のもとに送り込んで修行させることも考えたけど、それもちょっと難しそうだということになった。
職人の技術が重要なのはバルカ村だけではなくオリエント国でも同じだからだ。
むやみに工房に人を入れたりはしないし、弟子入りするにはいろいろと調べられたり、一度修行を始めたらそう簡単には出てこられないだろう。
「それなら、また貧民街に行けばいいんじゃないかしら?」
「貧民街に? あそこには職人なんていないでしょ?」
「そうでもないわ。ああいうところには、意外と人材が隠れていたりするものなの。以前まではオリエント国の職人として働いていたけれど、いろんな理由で貧民街で生活している技術者っていると思うのよね。ハンナちゃんたち、だれかいい人を知らないかしら?」
そんな人、いるんだろうか?
だが、どうやらいるようだ。
貧民街の孤児の情報網は結構すごいらしい。
キクが職人についてあてがあると教えてくれたのだった。
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