第二の独自魔法の選定
どうしようかな?
【流星】が駄目なら、あとはどんな魔術を俺はよく使うだろうか。
アイの話を聞いて、自分の普段の行動について考える。
一番よくやるのは【威圧】だろうか。
魔力を針のような形に変えて対象にぶつけることで、相手の動きを止めてしまう。
これはやろうと思えば魔法にできるかなという気はする。
が、どうやるかという点が悩ましい。
【威圧】と一言で言っても、自分が使う際には結構その場その場で威力の調整なんかをしているからだ。
たとえば、去年孤児を連れ帰ったときのオリエント国の貧民街なんかでは、魔力の針の威力は小さいけれど、一度にたくさんの【威圧】を同時発射した。
けど、それを呪文化してもあんまり意味ないだろう。
狙いもつけにくいだろうし、周囲に無差別にやるものでもないからだ。
それに、【威圧】は相手の魔力量によっては効果がないことも多い。
貧民街では貧乏でまともに食事もできていない連中が多かったから、一発当たりの魔力の量が少なくても効果が出た。
が、ある程度相手に魔力があれば防がれてしまう。
そうなったら、いくら威力の弱い【威圧】を魔法として使えても、戦場などでは使いどころに困るだろう。
だったら、魔力が多い相手にでも効果があるくらいの魔力を込めた【威圧】を魔法にするればいいのかというと、それも微妙だ。
迷宮で戦ったような魔装兵が相手では【威圧】で動きを止められるのは一瞬だった。
騎士以上の強さを持つ相手の場合、【威圧】の効果はそのくらいしか期待できない。
もちろん、使いこなせば戦いを有利に導く手段になるとは思う。
けど、無言でもできる俺と比べれば、毎回必ず呪文を唱えて発動しなければならない魔法では、動きを一瞬止めるくらいでは微妙すぎるだろう。
「アル様」
「ん? どうした、ミー。起きてたのか?」
「はい。アル様のお膝、あったかいです」
「ちょっと、駄目でしょ、ミーったら。すみません、アルフォンス様。すぐこの子をどけますから」
「いや、いいよ。今更だしね。それより、なにか言いたいことでもあったのか、ミー?」
「えっと、ミーはあれができたらいいと思います。アル様がいつも訓練でしている見る稽古がすごいなって思うの」
ミーティアが俺の膝に頭を乗せながら体を丸めている状態で声をかけてくる。
いつから起きていたんだろうか。
起きていたんだったらすぐにどきなさい、と怒るハンナに、別にいいよと言いながら、ミーティアの言ったことを考える。
どうやらミーティアは途中で目を覚まして、膝枕の状態で俺がどんな魔法を造り出すのがいいかという話を聞いていたみたいだ。
「もしかして、見稽古のことを言っているのか?」
「そうです。アル様はすごいです。いっつも、アイ先生の動きを見ただけですぐにまねできるの。あれがミーはうらやましいなっていつも思います」
「そんなの、アイの動きをよく観察して、自分も同じように動いているだけだよ。魔術ってほどでもないと思うけど」
「でもでも、いつもすごいなってみんなで言っているです。魔法みたいだよねって話してます」
そうなのか。
そういえば、見稽古の仕方も最近はだいぶ変わってきた。
俺が最初にアイに教わったときには、アイの動きをよく観察して、そのあとに自分の体にその動きを落とし込んでいた。
その際は、なるべくゆっくりと体を動かしていたように思う。
それこそ、動きが止まっているんじゃないかってくらいゆっくりに、けれど正確にやるように言われていたからだ。
けど、最近はもう少しその動きが速くなっている。
そこまでゆっくりにしなくても、自分の体を正確に動かせる感覚と技術が身についてきたからだ。
急ぐと動きが荒くなるのは間違いないのだけれど、普通に体を動かしても、自分の頭の中にある動きを再現できるようになっている。
それに、観察力も上がってきていると思う。
ミーティアたちからすれば、それは一目見ただけで簡単に動きを真似できる魔法みたいに思うのか。
「でも、魔術じゃないよな。そんなの呪文化できないでしょ」
「いえ。そうとも限りません」
「え、そうなのか、アイ?」
「はい。アルス・バルカ様の魔法創造理論では同一の効果を引き起こすことが重要であるとされています。しかし、魔法には例外も多く存在しています。例えば、剣聖の一族が使う【剣術】やバイト・バン・バルト様の作り出した【騎乗術】などは、呪文を唱えることでその技術体系そのものを魔法として行使できるものもあるのです」
「ああ、そういえばそうだよね。【剣術】なんて、呪文が使えれば剣を握った経験がない人でも剣聖の動きが再現できるんだったっけ」
「そうです。そして、見稽古は今後長く役立つ技術であるかと思います。アルフォンス様に名付けを受けた子どもたちはまだまだ学ぶべきことが多くあります。その際に、【見稽古】という呪文が使えれば、さまざまな技術を学ぶ速度が大幅に向上しますので、決して損にはならないでしょう」
確かにそうだ。
俺がそれなりに時間をかけて【見稽古】という魔法を作ったら、それを孤児たちは使えるようになるはず。
そうして、孤児たちが【見稽古】を使って訓練して剣や弓を覚える速度が上がれば、結果的に俺が使った時間以上の価値が生まれることになる。
そんなにバカみたいな魔力を消費するものでもないだろうし、呪文化を狙うのはありか。
手間にたいしての効果は結構高そうだな。
「よし、それじゃあ、俺の新しい魔法はとりあえず【見稽古】にしてみようか。よくやったぞ、ミー。またなにか作ってほしい魔法があったら言うんだぞ」
「えへへ。アル様にほめられたー」
ミーティアの意見を採用だ。
頭を撫でて褒めてやる。
そうして、この日から俺はアイからほかの武器の使い方などを教わりつつ、新たな魔法として【見稽古】を呪文化する作業に入ったのだった。
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