魔法創造で大切なこと
「では、おさらいしていこうかと思います」
俺はハンナやミーティアと一緒にアイの話を聞いている。
横に座っているハンナは真剣な表情だ。
ミーティアは眠いのか、体を丸めて座っている俺の足の上に頭をのせていた。
この子は俺と同じ年齢みたいだけど、かなり子どもっぽいなと思ってしまう。
膝の上に乗った頭を撫でながら、アイの話に耳を傾ける。
「魔法とは、呪文を唱えることで一定の現象を引き出すことが可能な技術です。その呪文を作り上げる方法をアルス・バルカ様が提唱されています。呪文は条件反射を利用する、と」
「はい、アイ先生。条件反射ってなんですか?」
「動物にみられる現象のことです。本来得られる結果に対して特定の刺激を差し込む条件付けを行うことで、その条件だけで結果が現れることがあるのです」
「はい。全然わかりません」
「例えば、動物に対してえさを与えるとそれを食べるためにその動物の口の中には唾液が分泌されます。これは本来その動物が持っている習性です。ですが、えさを与える際に毎回同じ音を聞かせると、いつしか、その動物はその音を聞いただけで口の中に唾液が出てくるようになるのです」
「へー。そうなんですか。そんな変わったこと実際にやった人がいるんですね」
「アルス・バルカ様が自身の提唱された魔法創造の手法を証明するための実験としてビリー・リード様に実験させた報告書が上がっています」
「……ど、どうしよう。天空王様のこと、変わってるって言っちゃった」
アイと話しているハンナがまるで重大な失言をしたというように顔を真っ青にしてこっちを見てきた。
いや、いいよ別に。
アルス兄さんが変わっているのは誰だってそう思うだろうし。
俺自身が一番そう思っているかもしれないくらいだ。
「ようするに、毎回魔術を使う前に必ず同じ言葉を言う。そうしたら、その言葉がさっきの話の音と同じになるってことだよね。言葉をつぶやくだけで魔術が発動するようになる。それが、呪文化だ」
「そのとおりです。そして、そこで重要なのが、呪文となる言葉をつぶやいた際にはなるべく一定の効果を発揮する魔術を行うという点にあります。例えば、【レンガ生成】という呪文がありますが、これは呪文を唱えると必ず同じ形と質のレンガが出てきます。これはアルス・バルカ様が呪文を作る際に常に同じレンガを作り続けたからです」
「難しそうですね。私の場合だったら、炎の出る量とか熱さを必ず同じにしないといけないんですか? できるかな?」
「ですので、ハンナさんの場合は呪文化の前にまず魔術の訓練を行う必要があるでしょう。意のままに炎の魔術を操れるようにならなければ、いつまでたっても呪文化という現象は起こらないものと思われます」
「練習あるのみってことですね。わかりました、アイ先生」
その話を聞くと、俺の【いただきます】は本当に運がよかったんだなと思う。
いつも食事前には「いただきます」とつぶやいていたし、食事中は食べ物から食材の魔力とかを効率よくとるために自分の魔力を活用していたけど、そこまでは意識していなかった。
あれはほんとにたまたまできた呪文だったんだな。
「練習頑張ってね、ハンナ。で、俺の場合はどうだと思う、アイ? 新しい魔法を作れそうかな?」
「可能性はあります、アルフォンス様。ですが、【流星】の呪文化は難しいかもしれません。少なくとも今年中に魔法とすることはできないでしょう」
「やっぱり? 【流星】は体力消費が激しすぎるからね。あれを一日何度も繰り返しやるのは無理だもんね」
魔法を作る。
今年の目標をそう決めた俺は、まず最初に【流星】のことが頭に浮かんだ。
グルーガリアの弓兵の中でもさらにすごい実力を持った相手からノルンが血を吸い取ったことで俺も使えるようになった魔術。
一撃で地面を大きくえぐることができるあの攻撃を魔法にできたらすごいと思う。
けど、それは難しいだろうとアイは言う。
魔法を作るには、呪文をつぶやいただけで魔術が発動する条件反射が成立するくらい繰り返し同じ行動をし続けないといけない。
だけど、【流星】は一撃で自分の体力も大きく減ってしまう。
一回やるごとに長い休憩が必要になるということは、回数を重ねるのが難しい。
多分、魔法にするには何年も、あるいは何十年も続けるしかないんだろう。
「そのとおりです。ですので、魔法使いと呼ばれる者の数は非常に少ないのです。本来であれば、魔術を極めた達人たちが、その生涯で一つか二つ魔法を作り上げることができれば奇跡だと言われているくらいですから」
「でも、アルス兄さんはたくさん魔法を作っているよね?」
「はい。そこが、アルス・バルカ様の特異な点であるともいえます。従来では、魔法とは大量の魔力を消費して発動するものばかりでした。が、アルス・バルカ様は違いました。大きな壁を作る【壁建築】や【アトモスの壁】よりも先に、小さなレンガを作る【レンガ生成】といった魔法などを作っています。これは、消費魔力の少ないことを利用して、短期間に何度も魔術を使えることに着目したからだと考えられます」
「体力も魔力も消費が少ない魔術を魔法にする。一日に数発撃てるかどうかっていう【流星】みたいなものじゃなく、一日に何百個もレンガを作ったほうが条件反射ができやすいってことか」
「はい。ですので、アルフォンス様が魔法を作りだす際に気を付けるべきはそこにあるのではないかと助言いたします。より少ない疲労で、短期間に何度も試行できる魔術を魔法にすべきでしょう」
「だけど、役に立たないものじゃ意味ないよね?」
「そのとおりです。魔法創造で一番大切なのは、いかにその魔法に意味があるか、という点に尽きるでしょう。現在のアルフォンス様の魔力量でも一日に数百回以上実行でき、かつ、それが魔法となった際に名付けを受けた者たちがその魔法でどれほどの恩恵があるのか。その点を見極めて魔法を作らなければ、あまり意味のない行為と言えるでしょう」
そうなんだよな。
今の俺はアルス兄さんみたいに魔力量が馬鹿みたいに多いわけでもないし、俺が名付けした孤児たちだってそうだ。
ってことは、ここにいるハンナやミーティア、そのほかの孤児でも使えるくらいの魔力消費量で最大限効果を発揮する魔法があったほうがいいのか。
やっぱ、【流星】は論外だな。
なにかいい魔法案はないだろうか。
魔法を作るという目標が先にあって、今更ながらどういう魔法を作るべきかを悩むことになってしまったのだった。
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