匂わせ
「それで、バナージ殿はなんと言っておられたのですか、アルフォンス様?」
「今年もオリエント国は国力増強に注力する、だってさ。基本的には攻めてこられたら守るけど、積極的にはよそに攻め入ることはしないって感じみたいだ」
「なるほど。まあ、オリエント国も近年は攻められっぱなしで疲弊しておったようですからな。わずかでもいいから時を稼いで国力を回復させたいということなのでしょう」
「そういうことらしい。それに、バナージ殿は魔道具をうまく使って外交しているみたいだね。はっきりと言葉にして言うことはないけれど、オリエント国はブリリア魔導国とひそかにつながっている、とにおわせることで小国家群に攻め入られにくくしているみたいだ」
俺の家が燃え尽きたのを見届けて、俺はとりあえず別の家を仮の拠点として使うことにした。
そこで、スーラたちと話をする。
議題は俺がオリエント国に行ってバナージと話した内容についてだった。
どうやらバナージをはじめとしたオリエント国の連中はしばらく戦をしないつもりらしい。
失われた国力を少しでも回復したい。
そんな思いが強いようだ。
が、だからといって、はいそうですか、と周囲の国が認めるわけでもない。
隙あらば攻めてくるのは当たり前だ。
それをなるべく未然に防ぐために、俺たちが作った魔道具を活用することにしたらしい。
魔道具は魔法陣技術を用いて作られる。
その魔法陣の技術はブリリア魔導国が最先端を走っていて、小国家群ではそれほど見られなかった。
少なくとも、高級品として所有するくらいが関の山だ。
それが去年から状況が変わった。
オリエント国内で魔道具が出回り始めたからだ。
最初はこの魔道具をオリエント国議員のバナージがひそかに作り上げたのだと発表していた。
が、どうやらそれを軌道修正したらしい。
いや、ちょっと違うか。
正式発表はバナージが魔道具作製技術を開発した、と言いつつも、実はブリリア魔導国からその技術を教わっているのだ、という噂を広げたのだそうだ。
ブリリア魔導国は帝国や教国と並んで強国と呼ばれる国であり、小国家群のどの国よりも強い。
その強い国と今までになかった親密な関係を実はオリエント国が結んでいる。
うわさ話に過ぎないその内容が真実であるかどうかは関係がない。
そういう疑念を持たせることで、攻め込みにくい心理状況を作ったのだそうだ。
このへんの駆け引きはさすがに今まで外交とものづくりの技術力で国を維持してきただけはあるなと思う。
が、同時に諸刃の剣でもあるとバナージは言っていた。
これまではどの国とも一定の距離をとることで、中立的な立場にあったオリエント国が噂の中だけであっても特定の国との結びつきを強めているというのは、悪影響もあるのだそうだ。
なので、正式発表はあくまでもバナージが技術開発をしたということになっているとのことだ。
「しかし、そうなると今後も我々は魔道具作りが主な仕事となるのですかな?」
「そうだね。こっちはそれでお金を稼いでいるから。けど、どうしても人手が足りないよね。バナージ殿に魔道具を安定供給するなら、常に魔道具を作り続けていないと駄目だろ? けど、今の人数だとそれじゃ戦場に連れていける数が少なくなりすぎるし」
「戦はしばらくないのではなかったのですかな?」
「それは分からないでしょ。いくら、心理的に攻められにくくしていたところで、ほかがどう動くかは決まっていないんだし。どっかが攻めてきたら、バルカ傭兵団も出陣することになる」
「なら、やはりバルカ村の人数を増やす必要がありますか」
「だね。塩害への対処はどうなっている、エルビス?」
「塩草を植えたところはかなり改善してきているようです。株分けしつつ、農地に植える範囲を広げれば、来年にはなんとか作物が実るのではないかと思います」
「ってことは、今年はまだ農作物が育てられないってことか。バリアントから人を受け入れるとして、何人くらいできるかな?」
「いきなり増やしすぎるのはまずいでしょうね。とりあえず、手先の器用な者を中心にここに連れてきてはどうでしょうか?」
「そうしようか。オリエント国と一緒でバルカ村も今年は力を蓄えることを頑張るって感じになりそうだね」
しょうがないか。
さすがに勝手にどこかと戦うわけにもいかないし。
ただ、バリアントから人を連れてくるにしてもあまりそればかり増やしすぎるのも考えものだ。
霊峰の麓に住む住人はこの小国家群ではかなり低くみられる。
バルカ村の構成員がそればかりだと、やはりまずいだろう。
もう少しここらの人もこの村に入れたほうがいいかもしれない。
が、魔道具作りの技術を盗まれたらそれはそれで困る。
となると、やっぱりもう少し孤児でも集めて育てておくくらいがいいんだろうか。
意外と特定の拠点を持っても、組織を作っていくのって難しいものなんだなと思ってしまう。
ま、とりあえずやれることをやっていこう。
それに、今年は俺も俺にしかできないことをやるつもりだ。
今年は魔法づくりに積極的に挑戦してみよう。
【いただきます】は自分から作るつもりで呪文化したわけではないけど、あれでやり方を少しつかんだしね。
こうして、まだ終わらない冬の雪がちらつく空を見ながら、今年の目標を決めたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。
評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。





