熱
どんどん、どんどん体が熱くなっていく。
ハアハアと息が荒くなる。
何とかしないと。
このままだと本当にどうなるかわからない。
視界は真っ暗だ。
目の前はいつまでも暗く、唯一分かるのは自分の体がドクンドクンと音を立てていることだけ。
そして、ドクンと胸を打つたびに全身がさらに熱くなっていく。
獣人の血が混じった混血の暴走。
ミーや私にはその血が流れている。
そして、その血の影響はミーのほうが大きくて猫耳や尻尾が生えた。
その影響でミーはだんだんと体調を崩してしまった。
ノルン様が言うには混血の魔力で体が変化することに、ミーの肉体が負担に耐えられなかったのだろうということだった。
もし、今の私の状態がミーも感じていたのだとすれば当然だ。
こんなので平気でいられるはずがない。
けど、もしかしたらそれよりももっと悪い状態なのかもしれない。
ミーは体調が悪かったけれど、ここまで熱く感じていなかったんじゃないかと思う。
いくらなんでも熱すぎる。
こんなのが続いたら、早死にどころか今日中にどうにかなってしまいそうだからだ。
全身を駆けまわる血が熱を持っていて、頭のてっぺんから足の先までがカッカと熱くなっているような感じ。
私もミーのように体が変化したら、この熱はもう少しマシだったのかもしれない。
魔力の影響で肉体変化が起きれば、その分だけ熱が落ち着くんじゃないかな?
けど、それでも苦しんでいるミーがいたからこそ、問題になっていたんだけれど。
だけど、もしそうならそれはこの混血の暴走をなんとかするカギはそこに眠っているのかもしれないと思った。
混血の魔力がここまで熱を持っていて、その熱になる力が体を猫に変えるために使われていたんだ。
ただ、肉体を変化させるのは私には無理。
なら、肉体変化ではない方法でこの魔力を使えばどうだろうか。
魔力をたくさん使ってしまえば、もしかしたらこの熱さだけでもましになるかもしれない。
だけど、どうやったらいいんだろう。
もう、まともに口を開けられないくらいしんどい。
それに、私が使える魔法はいわゆる生活魔法と呼ばれるものばかりだった。
【照明】や【飲水】なんていう便利な魔法だけど、一度の呪文で消費する魔力はそこまで多い量じゃないと思う。
初めて魔法を使ったときに倒れたことがあるからなんとなくわかる。
今のこの熱を抑えるために魔法を使うなら、何百回も使わないといけないと思う。
ほかの呪文もそうだ。
そんなに多くの魔力を使う呪文を私は使えない。
だけど、もっと一度に魔力を使ってしまいたい。
「着火」
そう思っていたのに、私が口にした呪文は変哲のないものだった。
それは生活魔法の【着火】だ。
この魔法も便利だと思う。
小さな火を出すだけだけれど、いつでもどこでも火を熾せる魔法。
火を熾すのは結構大変なのに、その手間をなくしてくれる魔法だ。
「あったかい」
その【着火】を使ったことで私の右手に火が出た。
その火の熱が温かかった。
なんというか、ものすごく気持ちのいい熱さに感じた。
熱い?
それはそうだ。
小さな火を熾すだけだけれど、それは紛れもない火だ。
熱いに決まっている。
火?
そういえば、これも魔力で出しているんだよね?
魔力を使って火を出すことができる。
もし、これができたらどうだろう。
自分の体を変化させる肉体変化なんかよりも、体の外に火を出しているほうが体の負担は少なくならないかな?
……わからない。
わからないけれど、やってみよう。
さっきまでよりもさらに体が熱くなっている。
そうだ。
この体の熱さ。
この熱を全部体の外に追い出してみよう。
【着火】のように、魔力で火を出すように。
私の体を燃やすようなこの熱を、全部手のひらから外に追い出してみよう。
意識を集中する。
ドクンドクンという音を感じるたびに、私の体の中に入ってきた混血が全身を回っているのをなんとなく感じる。
そして、その血の流れとともに体中に熱が運ばれて全身が熱くなっている。
その熱を全部手のひらに集めるようにする。
胸のところから頭や全身の手足などに広がっていく血液が、全部右手のひらに集まるような想像をする。
前にアイ先生の授業の時に、アルフォンス様も教えに来てくれてこんなことを言っていた。
魔力の流れを意識しろ、と。
その時は何を言っているのかさっぱりわからなかったけど、確かにそんなことを言っていたように思う。
熱にうなされている頭でそのことを思い出した。
今なら、アルフォンス様の言っていたことがちょっとだけわかる気がする。
血液と同じように魔力も全身を回っている。
この魔力の流れを血の流れと一緒に感じ取る。
そして、その流れを自分でちょっとだけ変えてあげる。
手のひらに集まるように。
その時に、血液と魔力、そして熱が手のひらに集まるように。
そんな想像をしながら魔力の操作をする。
熱い。
体中の熱が一度胸に集まって、そして右腕を通って手のひらに集まる。
右手を中心に腕全体が熱い。
燃えるように熱い。
出ていけ。
こんなに熱いのはいらない。
私の体から出ていけ。
強くそう願った。
そしたら、次の瞬間、ごうっという勢いで手のひらから炎が飛び出した、気がした。
出たのかな?
目が見えていなかったからわからない。
けど、多分うまくいったような気がする。
なぜなら、そのあとは嘘のように、それまで私を苦しめていた熱が体から消え去っていたのだから。
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