血の交換
「よし、じゃあ早速やるか。そのガキの横に寝な」
「は、はい」
ノルン様にそう言われて、私は寝ているミーの横に寝転がった。
仰向けになって、顔だけを横にしてミーを見る。
すやすやと寝ている。
……待っていてね、ミー。
いまお姉ちゃんが助けるからね。
「覚悟はいいか?」
「はい。お願いします、ノルン様」
「よし。それじゃあ、やるぞ」
そう言って、私とミーの間に来たノルン様。
真っ赤な鎧を着たノルン様がそれぞれの手で私とミーの手首をつかむ。
私は右手をつかまれた。
そして、次の瞬間、手首にちくっとした痛みを感じる。
「……っつ。なにか変な感じがします」
「そうだろうな。今、お前の手首から血を抜いている。それを反対にいるこのガキに送っている。だんだん寒気がしてくるかもな」
「……どのくらいで私の血がミーの中に入るんですか?」
「結構時間がかかるぞ。お前の血を抜いてこのガキに送る。そして、その代わりにこのガキの血をお前の体に戻すからな。いきなり全部の血を抜いたら、どっちもすぐに死ぬ。死なないようにするには面倒だが時間をかけてやる必要がある」
「え、そうなんですね。私の中にミーの血を入れる……、交換することになるんですか?」
「嫌ならいいぞ。その場合、二人とも死ぬだけだが、俺は困らん」
「いえ、お願いします」
そうなんだ。
よかった。
そんなに簡単に血を交換できるものなのかわからないけど、とにかくノルン様に任せよう。
「あの、ありがとうございます、ノルン様」
「あ? なんの礼だ?」
「ミーとのことです。ノルン様がいなければ、どうしてミーの体調が悪いのかすらわかりませんでした。それに、こんなふうに助けてもらえるような人もほかにいません。本当にありがとうございます」
「別に礼なんかいいさ。混血の血は今ではもう珍しいみたいだからな。俺にとってもごちそうなんだよ」
ごちそう?
血がごちそうってどういうことなんだろう。
そういえば、ノルン様が誰かと一緒に食事をしているところを見たことないような気がする。
まさか血がごちそうなんだろうか?
そんなことを考えている間にも、私の体からは血が抜き取られていった。
手首からどくどくと小さな拍動を感じながら血が体の外へと持っていかれている不思議な感じがしている。
そして、しばらくしたら今度は反対の手首もいつの間にか握られて、そこから血が入ってくるような感じがした。
どうなっているんだろう。
もっと自分の体に起きていることをしっかりと見たい。
それに、ミーの様子も確認したい。
そう思っているのに、どんどん体は寒くなってきて、意識がなくなっていく。
目の前が暗い。
大丈夫なのかな。
もしかして、このまま死んじゃったりしないだろうか。
目が見えないとそんなことを考え始めてしまう。
自分が目を閉じているのか、それとも開けているのかもわからない。
目の前が真っ暗で、私の体が感じているのは両方の手首に感じる血の拍動だけ。
その拍動がいつしか全身に広がったようになって、ドクンドクンという感覚だけしか私にはわからなくなっていた。
……怖いな。
なんだか、このまま眠ってしまって、もう二度と起きられなくなってしまいそう。
急にそんな風に思ってしまった。
思わず声を上げそうになる。
だけど、声も出せない。
まだ終わらないの?
もうどのくらい時間がたったんだろう。
ものすごく長い時間が過ぎたような、けれど、もしかしたらまだ始めたばかりのような感じがする。
時間の感覚すらあいまいになって、ただただ怖いという気持ちだけが膨らんでいった。
いやだ。
やっぱり死にたくない。
ミーの顔が頭に浮かぶ。
これまでずっと一緒だったミー。
あの子のためなら何でもできる。
けど、自分が死ぬのも嫌だ。
私だって死にたくはない。
ずっと一緒に居たい。
私もミーと一緒に大きくなりたい。
ミーとおいしいものを一緒に食べたい。
きれいな服も着たい。
一緒に遊んで、一緒に寝たい。
まだまだしたいことがたくさんある。
ドクン。
そんな風に思っていると、急に全身が温かくなった。
いや、温かいというよりも熱い感じだ。
さっきまでは血を抜かれたからかだんだん寒くなっていたのに、今度は燃えるように熱い。
体の芯から燃え上がるような熱さを感じる。
ハアッ、ハアッ。
さっきまで声が出ず口も開けなかったのに、今度は口を大きく開けて息をしている音が聞こえてきた。
多分、この息は私が出している。
体に感じる熱を口から出そうとしているんだろうか。
「聞こえるか? お前が今、感じているそれが混血の魔力の影響だ。全身にいきわたった混血が暴走している。そっちのガキはそれの影響で体調が悪くなったんだろうな。それをうまく制御してみるんだな。そうすれば、あるいは長生きできるかもしれんぞ」
真っ暗な中、ノルン様の声が聞こえてきた。
この熱いのが混血の魔力の影響?
ミーはずっとこんな熱さを感じていたの?
魔力の暴走。
それを制御する。
そうすれば、本当に早死にせずにすむんだろうか。
いや、今更疑ってもどうしようもない。
なんとか、この魔力の暴走を制御しないと私はミーと一緒にいられないんだ。
やるしかない。
目も見えない、体も動かせない、そんな状況で私は自分の体に入って暴走し続けているミーの血液に意識を集中させた。
死なないために、必死で混血の暴走を止めようとあがいたのだった。
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