いただきます
「いただきます」
みんなが一斉に声を上げる。
目の前の机の上には食べ物がたくさん並べられていた。
この食べ物を私たちが食べてもいいらしい。
本当なんだろうか。
夢でも見ているみたいだ。
魔法を使いすぎると気を失うことがあるらしい。
私たちが意識を失ってしばらくして起き上がったら、アイ先生からそう教えてもらった。
きれいな女性のアイさん。
そのアイさんのことはこれから先生と呼ぶようにと言われた。
ここに住む間、アイ先生からいろいろと教えてもらうことになるからだそうだ。
何を教わるんだろう。
昔、貧民街では孤児の知り合いが大人の人に「教育だ」なんて言って叩かれているのを見たことがある。
あの記憶が今でも頭にあるからか、正直なところ私はここで教育されるという言葉にものすごい不安があった。
ちょっとでもいうことを聞かなければ体が腫れ上がるくらい叩かれるんじゃないかと思っていたからだ。
だけど、違った。
アイ先生は私たちを叩かない。
それに食べ物もある。
いまも、私たちは並べられたごはんをおいしく食べていた。
なんでお金も持っていない孤児の私たちがお腹いっぱいご飯を食べさせてもらえるのか。
それは、私たちを育てるためだとアイ先生が言っていた。
たくさん食べて強くなれってことらしい。
そして、そのために毎回食事前には魔法を使っている。
【いただきます】という魔法だ。
この魔法はアルフォンス様が初めて作った呪文だそうだ。
だけど、アルフォンス様はあんまり機嫌よさそうにはこの呪文のことを話していなかった。
アイ先生がいうには呪文化しようとしてできたものではないからだろうということだった。
アルフォンス様はいつも食事を食べる前に両手を合わせて「いただきます」という。
アルフォンス様のお兄様であり、王様でもあるアルス様。
そのアルス様が食事前にいつもそう言うみたい。
それを聞いたことがあるアルフォンス様が真似をしていたら、いつの間にか呪文になっていたのだそうだ。
【いただきます】という魔法の効果は、食べ物から栄養と魔力を上手に吸収すること、らしい。
よくわからないけど、食べ物には体が大きくなる栄養というものと、魔力というものが入っているみたいだ。
それを体の中に取り込むときに、上手に魔力を使えば、普通よりもたくさん取り込めるのだと教えてもらった。
私たちの魔力は量が少ないらしい。
だから、使える魔法の種類も回数も大人の傭兵さんたちより少ない。
まずは、この魔力の量を多くする必要がある。
だから、【いただきます】を使ってたくさんご飯を食べるのが、私たちの最初の一歩なのだそうだ。
そして、食べた後は【瞑想】を使って夜ぐっすり眠る。
【瞑想】を使えば、体がものすごく楽になる。
それに、嫌なことも忘れられる。
朝起きた時、頭がすっきりしていて本当に気持ちがいい。
今まで、こんなに朝起きるのが楽しみに思ったことはなかったと思う。
毎日、路上で寝ていたから体は痛かった。
雨が降ればずぶぬれになるし、風邪をひいたときもあった。
それが毎日温かいお布団の中でミーと一緒に並んですやすや眠れるなんて思いもしなかった。
一緒に来たキクという男の子がいる。
キクは貧民街で縄張りじゃないところから残飯を持ち帰ろうとして、ほかの孤児たちからボコボコにされた。
あちこち痛めつけられて怪我をしていた。
なのに、ここにきて【いただきます】のあとにご飯を食べて、【瞑想】をして眠っていると体はすぐによくなった。
それだけじゃない。
毎日おいしいごはんとぐっすりの睡眠で体つきも大きくなってきた。
いつの間にか一回りくらい大きくなったような気がする。
キクは毎日、自分もすごい傭兵になるんだ、と言ってアイ先生から剣を教えてもらっていた。
ほかの子も傭兵になりたいといって頑張っている。
けど、私はやっぱり戦うのとかはちょっと怖かった。
そのことを思い切ってアイ先生に相談したこともある。
そうしたら、お勉強を頑張ったらどうかと言われた。
もちろん、私もアイ先生の授業で戦い方を教えてもらう時間もあった。
けど、そのほかにもいろんなことを教えてもらっていた。
それこそ、言葉遣いや礼儀作法なんかもいろいろと注意される。
今でも食事のたびにきれいな食べ方を教えてもらったりする。
そんなことが必要なのかと思うときもある。
けれど、それができる人のほうがアルフォンス様の力になれるんだそうだ。
ただ戦えるだけよりも、いろんなことを知っていて、どんな人とでも失礼なく話ができる。
そういう人も必要だと言ってくれた。
だったら、私はそっちを頑張ろうと思う。
毎日よく食べて、よく寝る。
そして戦いの訓練もしながら、いろんなことを教えてもらって覚えていく。
目標はアイ先生みたいな素敵な女性になることだ。
多分、とんでもなく難しいんだろうけど目指すだけならいいと思う。
そのために頑張って勉強も続けた。
そんなことを毎日毎日繰り返していた。
そうしたら、ある日突然驚くことが起きた。
妹のミーの体に異変が起きたのだった。
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