選別
「村の経営はどうかな、クリスティナ?」
「そうね。魔道具が売れているから、とりあえず黒字というところかしら?」
「そんなもんか。もっと稼げたらよかったんだけどね」
「ううん。これでも、すごいことだと思うわ、アルフォンス君。塩害で廃村になった土地にやってきた集団が誰も飢えずに食べることができているだけでもすごいことよ。ただ、魔道具を作るのがどうしてもみんな慣れていないからね。作ることができる数が限られている分、稼ぎは伸びてこないって感じかしら」
バルカ村中央にある俺の家でクリスティナと話をする。
商人である彼女はこのバルカ村を拠点にして、オリエント国やほかの国にも商売に行ったりしている。
が、そのほかにも村の財政にも関わってもらっている。
そんなクリスティナの目から見て、バルカ村の収支はまずまずという感じらしい。
100人を超える傭兵が、傭兵業よりもものづくりをしている現状でもなんとか食べていけているのは十分成功だと言えると言ってきた。
ただ、あまり大きな儲けにはなっていない。
魔道具はそれなりに高価な品なのだが、ものづくりに慣れているとはいえない傭兵たちでは生産速度も遅かったからだ。
少数生産しかできないが、その貴重性のために黒字化には一応成功していた。
「それでさ、例の計画を実行しようかと考えているんだけど」
「例の計画っていうのはあれよね? 子どもたちを育てるって言ってたやつよね?」
「そうそう。信頼できる仲間を増やすためにも、それになにより今後バルカ傭兵団で活躍できる人材を増やすためにも、子どもを教育していこうって計画だね。さっき言っていた黒字化だと、村として何人の子どもを面倒みることができるかな?」
「そうね……。今はいいけれどこれから冬が来るわ。そうするとどうしても食べるものが手に入りにくくなるし、冬を越すための準備のお金のことも考えると、どれだけ多くても五人以上の子どもを村で育てるのは難しいんじゃないかしら?」
「五人? そんなに少ないの?」
「子どもを教育するんでしょう? ただ単にご飯を食べさせてやるだけじゃなくて、しっかりと育てるっていうのであれば一人ひとりの面倒をきちんと見る必要があると思うの。そう考えると、あまり人数が多いのは無理だと思うわ」
「そっか。まあ、最初だしね。少ないのはしょうがない、か。でも、五人か。思ったよりも少ないな」
「そうよね。だから、孤児を集めるといってもしっかりと見極めて人を選ばないといけないと思うの。なるべく頭のいい子や体格のいい子なんかを連れてきたほうがいいんじゃないかしら?」
人を選ぶ、か。
ぶっちゃけ、計画段階ではオリエント国の市民権を持たないような孤児を適当に数を集めてきて、アイに育てさせる気でいた。
だけど、クリスティナがいうにはそれは難しいのではないかということだった。
たとえ子どもだといっても、人ひとりを食べさせるには結構な出費になる。
今のバルカ村ではそれほど多くの子どもを集めても、全員の面倒を見切れないかもしれない。
であれば、優秀な子どもを集めたほうがいいという意見だ。
どうしようか?
試験でもして賢さでも調べたほうがいいんだろうか?
そんなことを考えながらも、ようやく人材育成の第一歩となる孤児の受け入れのために動き始めたのだった。
※ ※ ※
「アイはどう思う? どんな子がいいとかあるかな?」
「そうですね。健康な子どもがいいかと思います。極端に病弱やなんらかの疾患を持っているというのはこの計画の最初の人材としては少々都合が悪いかもしれません」
「まあ、そりゃそうだね。健康第一か。頭とか体格は気にしなくてもいいの?」
「特に問題ないでしょう。人というのは個人によって全く異なるものですから。どのような人物であれ、得意なことや苦手なことというのはあるものです」
「そうだけど、体格がいいほうが強くなりそうじゃない?」
「かもしれませんが、魔力量の影響も大きいと考えられます。幼少期の体格だけでその子がどのくらい強くなるかは予想が難しいでしょう」
クリスティナと話をした数日後、俺はアイと一緒にオリエント国に来ていた。
都市国家として壁でおおわれたオリエントという国。
その中ではものづくりの名手たちが生活を営んでいる。
が、壁の外には貧困層の人間たちが住んでいた。
ここにある貧困街から、身寄りのない孤児を選んで連れて帰る。
バナージにこの話をしたところ、特に問題はないようだ。
むしろ、バナージからすると市民権を持たないような子どもでいいのかと聞き返された。
わざわざ子どもを連れて帰って教育するよりも、オリエント国のように大人を戦場に連れていって活躍した者を引き入れるくらいでもいいのではないかということだそうだ。
ただ、俺はそれをする気はなかった。
今すぐ使える即戦力もほしいが、目的は信頼できる者を育てることにある。
なんなら自分たちの知り合いでいい人を紹介しようかというバナージの申し出を断って、こうして孤児を見に来たわけだ。
「じゃあ、俺が選ぶよ?」
「かしこまりました、アルフォンス様」
アイはどんな子どもでもそれぞれ個性があるから問題ないという。
それならそれを信じよう。
子どもの教育を任せるのはアイなのだから、そのアイがそう言う以上、こちらは何も言えない。
が、数を絞って選ぶのは俺がしよう。
そう思って、俺はオリエント国の貧困街で【威圧】を発動させた。
魔力を小さな針のように鋭くとがらせて、その魔力の針を周囲にばらまく。
戦場で使うような太い針のような大きさではなく、もっと小さく細い針のような魔力を大量にばらまいた。
小さくて細いとはいえ、【威圧】は魔力による防御が弱い者ほど堪える。
貧困街にいた者たちが次々と胸を押さえて倒れていった。
が、そのなかに【威圧】を受けても立っている者もいた。
そいつの体は小さい。
間違いなく子どもだろう。
【威圧】に耐えたその子に声をかけるべく、俺とアイはそいつに向かって歩いていったのだった。
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