アルフォンスの考え
「よし、今日からここが俺たちの村だ。ってわけで、ここをバルカ村と名付けよう」
オリエント国から報酬として手に入れた二束三文の土地。
都市国家からもグルー川からも離れたところにあり、大量の塩を撒かれて作物が収穫できなくなり、土地が死んでしまった場所。
すでに住む者もいなくなったその廃村に今、バルカ傭兵団がやってきていた。
「バルカ村ですか。いいですね。バルカニアを思い起こさせる素晴らしい場所となるでしょう」
俺がたどり着いた廃村を見て、いきなり村の名前をバルカにしようと言ったことにたいして、エルビスが同意する。
だけど、そんなエルビスとは違って他の者たちの顔色はけっして明るいとは言えなかった。
「どうしたの、スーラ? なにか言いたいことがあるなら言ってくれ」
「……では、言わせてもらいます。この廃村でわしらはどう生活するか、もちろん考えはあるのですな? このような塩が撒かれた土地というのは長い期間農作物が採れないのです。生活できるとは思えませんが」
「ほかの傭兵たちもそう思っているから、気持ちが落ちているって感じなのかな?」
「そうでしょうな。こやつらもなんだかんだで、都市に出ていい思いをしたいと思ってアルフォンス様についてきた面がありますので。せっかく霊峰の麓の生活から抜け出してオリエント国に来たというのに、すぐにそこを出て作物のとれぬ廃村にきたとなれば、頭の中に後悔という思いがよぎることもあるでしょう」
「そっか。まあ、けど大丈夫でしょ。食べ物が取れなくても買えばいいし。なんとかなるって」
「それです、アルフォンス様。この廃村に来る前から独自に商売をして儲けを出すと言っていましたが、それは果たして実現可能なのでしょうか? こんな土地で何かを作ることも、それを売ることも難しいかと思いますが」
「ああ、それは大丈夫。一応、ちゃんと考えがあるからね」
どうやら、スーラやほかの傭兵たちはこの廃村生活は乗り気ではないみたいだ。
ここに来るまでにいろんな話し合いをしていたが、やはり人口の多い都市を離れて廃村に行くというのは気分のいいものではなかったのだろう。
それに、バナージが言っていたが撒かれた塩が土深くまで浸透しているのか、【土壌改良】を使っても塩害の被害を解決できなかったという話も聞いている。
ここまで文句を言わずについてきてくれているが、明らかにオリエント国にいた時よりも気持ちが落ちている者が多くみられた。
まあ、それでも傭兵団を抜けずにここまでついてきてくれている。
そんな連中を安心させるためにも、まずは今後の展望について話しておくべきだろうか。
「当面の行動を説明するよ。まず、俺たちはこの廃村を住める場所へと変える必要がある。【壁建築】を使って壁で囲ってから、【レンガ生成】で作ったレンガを積んで家を建てる。まずは住む場所の確保が最初の仕事になる」
「それはもちろんですな。で、そのあとは?」
「住む場所を確保したら次はお金を稼ぐことをしないといけない。お金がないと食い物を手に入れられないからね。で、その仕事だけど、最初のうちは商人の護衛なんかもしようと思っている。バルカ隊商の復活だね」
「バルカ隊商ですか? 傭兵として戦場に出ていくのではないのですか?」
「それなんだけど、バナージやほかの議員はしばらくは戦う気はないみたいなんだよね。手に入れた柔魔木を使って魔弓を作る。で、それを使って訓練して国を守ることを最優先にするらしい。つまり、よそに攻め入るって考えはないみたいだ」
「なるほど。それだと、攻められたときに声がかかるくらいですか。であれば、次にいつ傭兵として稼ぐことができるかわからないということになりますな」
「そういうこと。だから、副業ってわけじゃないけど傭兵たちには護衛の仕事をしてもらうことになる。護衛仕事だと食事は商人持ちが多いしね」
今後について傭兵全員に聞かせるようにしながらも、スーラへと説明する。
まずは家の確保。
そして、その次に傭兵として商人と組んで仕事をするつもりだと話した。
小国家群で商売をする商人はいろんな国を回る。
一つの国だけで稼げる商人というのは基本的には決まっているからだ。
都市内部の商取引は大手が握っているので、それ以外の者たちは危険があってもあちこちの国を渡って商売を続ける。
そのために護衛はいたほうがいい。
「ですが、その商人たちがこの廃村に来ますかな? クリスティナなどはアルフォンス様のために働くとは言うとりますが、それ以外の商人は利益が出ないとみればあっという間に顔を出さなくなりますぞ?」
「それは大丈夫。だから、傭兵たちの中で手先が器用な者を集めて商品を作る。バルカ傭兵団で作った商品をクリスティナやほかの商人たちに渡してあちこちで売ってもらおう。ここでしか手に入らない商品があれば、商人たちは勝手に集まってくるはずだよ」
「それはそうかもしれません。が、何を作るのですか? 我らは自慢ではないが、たいしたものを作れませんぞ。商人が購入するために集まるような商品をそろえるのは難しいと思いますが」
「大丈夫。絶対売れるものがあるから」
「それはいったい、なんですかな、アルフォンス様?」
「魔道具だよ、スーラ。魔法陣と魔石を組み合わせて作る魔道具。それを俺たちが作って売るんだ」
ブリリア魔導国ではよく見かけた、けれど、小国家群ではあまり見かけないもの。
それは魔道具だった。
魔石と魔法陣を組み合わせてできている便利な道具。
だが、魔法陣技術はブリリア魔導国が最先端で、ほかの国ではあまり発展していないみたいだ。
多分、魔法陣を暗号化しているために、魔道具を見ただけでは再現できないように対策されているからだろう。
バナージたちも魔弓オリエントを作るのはかなり苦労したと言っていた。
それこそ、【魔石生成】という魔法を得て魔石を実験材料として大量に使えるようになったからこそ、魔弓は完成した。
だが、それができたからと言って他の魔道具も簡単にできるかと言えばそうではない。
それこそが俺が目を付けた点だった。
魔道具を作ることができれば間違いなく売れる。
オリエント国だけではなく、小国家群全体で売れるはずだ。
そして、こちらにはアイがいる。
魔法陣の知識をオリエントの連中よりもはるかに知っているアイ。
そのアイの情報を使って魔道具を作り、販売する。
販売先はクリスティナなどの信頼がおける商人たちだ。
どうせ、いきなり作り始めても数が揃えられない。
ならば、付き合う商人の数を絞っても問題ない。
そうして、商人たちと信頼関係を築いておけば、食べ物の確保や持続的な取引ができるはず。
俺はこれからの展望について、傭兵団全員に対して説明をして、バルカ村としての第一歩を踏み出したのだった。
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