会議
「というわけで、会議をしたいと思う。内容は今後のバルカ傭兵団の戦力増強についてだ」
カイル兄さんと話した後、すぐに人を集めての話し合いをすることにした。
オリエント国まで帰還してから、バナージなどに戦況の報告をして、帰宅した。
今は戦闘で消耗した人や物の確認と補充などで動いているが、少しゆったりした雰囲気になっている。
すぐに屋敷の一室に集めて話し合いができたので、カイル兄さんに言われた内容を説明してからみんなの意見も聞いてみることにした。
「傭兵団を大きくするなら金が要るぞ、アルフォンス。傭兵というのは対価を求めて動くものだ。報酬が得られる居場所でなければ簡単に抜ける。それは雇い主もそうだが、傭兵団であっても同じだろう」
集まった面々に、いかにして信頼できる仲間を集めるかを相談すると、まず最初に意見を出したのがイアンだった。
さすがに傭兵が主産業のアトモスの里の戦士ということなのだろう。
金の切れ目が縁の切れ目だ、と主張する。
「あ、私もそう思うわ、アルフォンス君。お金がないとどうしても人が離れていっちゃうものよ。傭兵もだけど、商人もそうだし」
そして、その意見に同意する者がいた。
クリスティナだ。
商人として、あるいはバルカ傭兵団の金庫番としての意見をもとに、アトモスの戦士イアンの意見とは違う角度から同じことを言ってくる。
まあ、それはそうだろうな。
戦力を増強するとなるとどうしたって人数が増えることになる。
その人員を食わせていくにはお金がかかるのは当然か。
「バリアントから人を呼ぶ、というのはどうですかな? バリアントの住民であればアルフォンス様についてくる者、それも裏切らない者という条件に合うと思うのですじゃ」
それに対して、スーラが違う意見を言ってくる。
お金でのやり取り以外でも人と人をつなぐものは当然ある。
俺の生まれ故郷ではないけれど、確かにバリアントはアルス兄さんやエルビスの影響でバルカのことを信頼している者も多いはずだ。
同じ戦力増強をするなら、バルカについてくる者たちから人を集めたほうがいいのかもしれない。
「それなら私が傭兵たちをしっかり教育しますよ、アルフォンス様。バルカのすばらしさ、アルス様の偉大さ、そしてアルフォンス様の雄姿をこのエルビスが骨の髄まで叩きこむようにして教えこみましょう。裏切るような者は責任をもって処分します」
そして、スーラの意見を聞いてエルビスが言う。
どうやらエルビスは集めた者をしごくつもりみたいだ。
それこそ、頭の先から全身のいたるところまでバルカのことを叩きこむようにして訓練でもするつもりなんだろう。
やりすぎてしまわないかという気もするけれど、確かに人を集めただけで終わりでもない。
しっかりとした訓練が必要なのは間違いないと思う。
「あ、あのー、それなら私からも意見を。できれば、オリエント国の人も所属させてもらえないでしょうか? 霊峰の麓の住民ばかりの傭兵団よりも、オリエント国出身の傭兵がいるほうがいいと思います。ああ、けっして霊峰に住む者たちをどうこう言うつもりはないのですが……」
そこにオリバが意見を告げた。
グルーガリア国との戦いでオリエント軍と一緒に先に撤退したオリバも無事に帰還していた。
そして、この会議を始める前にちょうど屋敷に顔を出していたので、せっかくならと参加してもらっていたのだ。
オリバ自身とそこまで信頼関係があるのかという問題もあるが、外の意見も聞いておいたほうがいいかもしれないと思ったからだ。
そんなオリバの言うことも一理あるような気もする。
オリエント軍に参加して戦果を挙げたバルカ傭兵団だけど、やはり少し周囲から浮いていた感じもしたからだ。
今以上にバリアント出身の傭兵を増やしていくと、さらに周囲から浮く可能性は確かにある。
そう考えると、ある程度、このオリエント国からも人を募ったほうがいいのかもしれない。
「私からもよろしいですか、アルフォンス様?」
「ん? もちろんいいよ、アイ。何か意見とかあるの?」
「はい。このバルカ傭兵団における戦力増強の案ですが、大きく分けて二つの方法があります。一つは戦える者を集める方法。もう一つは戦えない者を集める方法です」
「んん? 傭兵団に戦えない人を集めるの?」
「そのとおりです。即戦力を求めることは間違いないかと思います。が、長期的視点にたって考えると、組織を大きくしたいのであれば人材育成の必要があります。それは、戦闘面だけではありません。傭兵団の幹部として、組織の運営に携わる者を増やすことも必要だと考えられます」
「……つまり、どういうこと? 戦えないけどクリスティナのような計算もできる人を集めるとか、そういうこと?」
「それもいいですが、少し違います。それでは、アルフォンス様の求める信頼できる者という条件を満たせるかどうかわかりません。私からは孤児を集めることを提案します」
「孤児? 子どもを集めるのか、アイ?」
「はい。まだ幼い子どもをです。それも、他の者の影響下に入っていない子どもたちを教育して育てます。バルカ傭兵団が自ら人材を育てることこそ、裏切らない信頼できる人材を確保できるのではないかと思います」
なるほど。
アイの言いたいのは、大人だったらどんな人も裏切りの可能性があるとかそういうことなのかもしれない。
人や金や血のつながり。
傭兵団にかかわる前にもその人それぞれのいろんなしがらみがあって、いつだれがどんな理由でバルカ傭兵団を裏切るかわからない。
だったら、その可能性をできるだけ低くして信頼できる人材を増やすためには、まだ小さなうちから育てることが重要なのではないかという感じか。
確かにそうかもしれない。
だけど、それはすぐには効果は出ないだろうな。
それこそ、戦力になるまでにはお金がかかる気がする。
けど、もしもうまく育てることができればそれはすごい効果が見込まれるはずだ。
「もしかして、アイが子どもたちを育てるつもり?」
「子どもの教育はアルフォンス様で経験しております。ご命令であれば対応可能です」
そして、どうやらその孤児たちの教育係はアイがするつもりみたいだ。
俺が受けた訓練という名の教育を孤児にもするのだろうか。
あのやり方がうまくいけば、勉強も剣術も伸びると思う。
それこそ、バリアントやオリエントで人を集めるよりも知識も技術もある人材になる可能性が高い。
どうしようか。
どの意見もそれぞれいい意見だ。
会議で出た意見を紙に書きだしながら、さらにみんなと頭を突き合わせて今後のバルカ傭兵団のことを話し合っていったのだった。
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