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忠告

「流星、発射」


 揺れる船の上からこちらを追いかけて弓で攻撃してきているグルーガリアの船に狙いをつける。

 使用するのは流星の使っていた柔魔木の弓。

 血の記憶を頼りに弓と矢に魔力を注ぎ込む。


 グルーガリアの弓兵の中でもさらに抜きんでた実力を持つ流星と呼ばれた男が用いた魔術。

 不思議な感覚だ。

 今までそのやり方を知らなかったはずなのに、流星の血を取り込んだノルンによって、それができるようになっている。

 理屈抜きで感覚的にできるという確信だけがあった。


 矢に膨大な魔力を込め終えてから、俺は一声かけながら弦から指を離した。

 見稽古によって再現した弓術はそれなりに形になっているみたいだ。

 先の狙いをつけた船のほうへと向かってまっすぐに飛んでいく矢。

 その矢が狙い通り、船体へと命中した。


 次の瞬間、水面が爆発した。

 【流星】による攻撃は、矢が着弾した船だけを破壊しただけにとどまらず、その船が浮かんでいた水面にも影響したのか、一瞬で大きく穴を開けたのだ。

 一時的に大きくくぼむ川の水。

 そして、次の瞬間には大きな水柱が立った。


 【流星】が着弾した船は木っ端みじんにはじけ飛び、その下の水面に変化で周囲のほかの船も転覆する。

 まるで、川に大きな渦でも発生したみたいだった。

 浮かんでいる船を飲み込むような大渦によって、その場にいたグルーガリアの船の多くが沈んでしまった。

 操船技術に優れたゆえに一塊になって行動していた船団は、それがあだとなってしまったみたいだ。


「これは……、すさまじいですね、アルフォンス様」


「いやー、これはほんとにすごいな、エルビス。っていうか、これを流星は使えたんだよな。水面で襲われる前に仕留められていたのは、今から考えると最高の結果だったんだな」


「確かに。あの攻撃がもし自分たちに向けられていたらと考えると恐ろしいですね」


 【流星】という攻撃方法を実際に試してみて、改めてその強さが分かった。

 これはすごい魔術だ。

 逃げ場のない川の上でこんな攻撃をされたのならばたまったものじゃないな。

 たった一撃で戦局を大きく変えてしまう。


 が、強力な攻撃というだけあって欠点がないわけでもないらしい。

 ものすごく疲れてしまう。

 もしかして、魔力だけじゃなくて自分の体力なんかも攻撃するときに使っているんじゃないかと思うくらい全身がだるい。

 俺は【流星】を発動した直後から、何日も戦った後のような極度の疲労感に襲われていた。


 どおりで流星はあの攻撃を連続で使わなかったわけだ。

 ぜーぜーと息を荒げてしまい、思わず座り込む。

 何もなければこのまま横になって眠ってしまいたいくらいの疲れだった。


「大丈夫ですか、アルフォンス様?」


「大丈夫。疲れているだけで休めば動けるようになると思うから。それより、今のうちにさっさと撤退しよう。……この感じだと川下じゃなくてもオリエント軍を追いかけてもいいのかも」


「了解しました。状況を見つつ判断するので、アルフォンス様はお休みください」


 水面の揺れはこちらにも多少影響を与えていた。

 バルカ傭兵団が乗る船も大きく揺れている。

 が、着弾地点とそこまで近くはなかったために、転覆するまでにはなっていない。


 俺が動けない状態だったけれど、代わりにエルビスが指揮を執り、混乱が見られる傭兵団をまとめて動かしてくれた。

 十数隻の船が一度川下へと向かって進んでいく。

 それを追いかけるはずのグルーガリアの船はまだまだ立ち直れていない。

 あちこちで転覆してしまった味方を救助したりしているので、これでしばらくは時間を稼げるはずだ。


「【流星】か……。いい技を手に入れたけど、使うときを考えないとだめだな、これは。疲れるし、動けなくなるし、味方を巻き込むかもだし」


 ノルンのおかげでいい魔術を覚えられた。

 だが、意外と使いどころを考えないといけないかもしれない。

 そう考えて、思わずそうつぶやいた。

 それに対して、そばにいたエルビスが反応した。


「先ほどの攻撃は【流星】というのですね、アルフォンス様?」


「うん、そうだよ。まあ、もしかしたら本当は別の名前でもあったかもしれないけどね。グルーガリアで有名な弓兵の流星の血をノルンが吸い取ったんだ。で、その時に、相手が使える魔術を覚えられるようになったみたい」


「……相手の力を取り込んだ、というわけですか」


「そうだけど、どうしたの?」


「いえ。それはすごい力ですね。ですが、どうしても昔のことが思い出されてしまって」


「昔のこと?」


「はい。かつて、ほかにもいたのですよ。他者の使う力を取り込んで、自分も使えるようになる者が。神敵として悪名高いナージャという男です。傭兵団を率いて、多くの貴族や騎士から魔法を奪い、そして破滅したそのナージャのことがどうしても頭に浮かんでしまうのですよ」


「ナージャ? そういえば、聞いたことあるかも」


「差し出がましいようですが、忠告させてください、アルフォンス様。その力は非常にすぐれたものだと思います。けれど、決して、その力に溺れてしまわないようにお願いいたします」


 普段は明るい顔をしていることが多いエルビス。

 そのエルビスがいつになく真剣な顔でそう言ってきた。

 ナージャ。

 かつていた、神敵と呼ばれた傭兵団長のナージャと俺のことが似ているという。

 そういえば、そんな奴の話を聞いたこともあるような気がする。

 多くの人を巻き込んで聖都すらも滅ぼした神の敵と俺が同じ?

 すごい力を手に入れて喜んでいた俺は、エルビスから思いもしなかったことを言われたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] めっちゃ力に溺れそう
[一言] アルスなら【流星群】かな。 人に向けて打つもんじゃないなぁ。
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