対流星戦
ヒューーーーー。
そんな音が鳴りながら、流星の弓から放たれた矢が放物線を描きながら空を駆け抜ける。
一切のぶれもなく、ただまっすぐに飛翔して狙った獲物へと向かうその動きは美しい。
が、そんなきれいな軌跡を描いて飛んでくる矢をいつまでものんびりとは見ていられない。
飛翔するその矢はすごい勢いで空を切り裂いて飛んできていた。
その狙いはイアンではなく、俺たちだ。
最初にアイといた時にみた矢よりも速い。
そして、その矢の先に込められた魔力量も多かった。
おそらくは地面に突き立てられたらさきほどよりも広範囲に衝撃が襲ってくるのではないだろうか。
というよりも、地面には当たらずに俺に当たるかもしれない。
一度目の射撃よりもしっかりと狙いをつけて射たのだろう。
完全に直撃する軌道を描いていた。
「ノルン!」
「応」
天高く上がった矢が頂点に達して落ちてくる。
あとは重力に従ってさらに加速するだけだ。
その前になんとか動けた。
ノルンに声をかけてその場を離脱する。
その際、俺はノルンへとつかまった。
そして、俺につかみかかられたノルンはそのまま俺を背負って走り始める。
一歩二歩と足を運ぶごとに加速して、矢が巻き起こすであろう威力の範囲外へと逃げるようにそこから離れる。
ドッ!!!
到底弓矢による攻撃の音ではない音をたてながら、その攻撃は地面へとぶち当たった。
一本の矢が天から舞い降りて突き立てられた瞬間、その地点を中心に半径50mほどが大きく陥没する。
とんでもない攻撃だった。
あと一歩逃げるのが遅かったら、近くに矢が落ちただけでも動けなくなっていたに違いない。
だが、逃げられた。
俺はその攻撃の範囲外へとすでに移動している。
逃げる体へとその衝撃波が襲ってきたが、それでも無事だ。
「そのまま駆け抜けろ、ノルン」
「了解だ」
それができたのは、ひとえにノルンのおかげだろう。
鮮血兵ノルン。
魔導迷宮で手に入れた赤黒い魔石と俺の血を使って生み出されたノルンによって、俺は助かった。
そして、今もそのノルンの助けを借りて移動していた。
俺はノルンへとまたがった状態で移動し続けている。
といっても、鎧姿になったノルンに背負われているわけではない。
なぜなら、今のノルンは四足歩行で移動しているからだ。
鮮血兵ノルンは今、鎧姿ではない。
形状が変わっていた。
人間と同じような二足歩行の鎧の姿から、ヴァルキリーのような騎乗できる形へと変化していたのだ。
人間形態からヴァルキリー形態への変更。
そんなことが可能なのは、鮮血兵が血でできているからだそうだ。
別に絶対に鎧の形でなければならないというわけでもないらしい。
そのヴァルキリーを模した姿のノルンの背に乗って、流星めがけて駆けていく。
速い。
無理やり姿を似せただけではなく、その動きも真似ているのか、ノルンの走りに不自然さは一切なく、ヴァルキリーと似た速さを出している。
近くにいたグルーガリアの弓兵たちも、まさかいきなりノルンの姿が変わるとは思っていなかったのだろう。
対応が遅れている。
弓兵たちに迎撃する猶予を与えずに、一直線に流星のもとへと向かっていった。
防衛線でアイが奮闘してくれていたからだろうか。
中州に上陸した後のグルーガリア兵たちは、魔銃の狙撃攻撃を警戒して散開しながら接近してきていた。
だからこそ、上陸地点にいた流星のもとにはそれほどの人数がいなかったようだ。
騎乗しながらそこへと近づいてくる俺とノルンの一組にたいして後手に回っている。
「っち。くそ」
「遅い」
そして、その場にいた流星と呼ばれる男も対応が遅れた。
偉丈夫というやつだろうか。
弓を持つその体はイアンに負けず劣らず筋肉がついていた。
特に腕や肩、あるいは背中のほうが着ている服をパンパンに引っ張るほどにたくましい。
あの肉体と豊富な魔力量によって、とんでもない矢の攻撃を可能としたのだろう。
だが、あの強力な矢の攻撃はそう簡単に連射できるものではないらしい。
最初にあった攻撃からさきほどの攻撃まで間があったのは、体力や魔力の回復を待っていたのだろうか。
膨大な魔力を使っての一射の後に、すぐにもう一度同じ攻撃を繰り出すことができないどころか、接近されつつある中でも肩で息をしていた。
やはり相当な疲労があるのかもしれない。
だが、それでも相手もただでは接近を許さない。
疲労が残る中でも近づいてくるこちらに対して弓を構え、矢を放つ。
その矢はほかのグルーガリアの弓兵らの放つものと比べても強く、鋭い。
が、通常よりは強いものの、それでも対応できない攻撃ではなかった。
ヴァルキリー型のノルンの背にまたがった状態で、俺は魔力を練り上げ、流動する。
騎乗姿勢を保ち、騎乗したまましっかりと魔剣を振れるように下半身を強化する。
そして、流星と呼ばれる男から放たれた幾本もの迎撃の矢を見極めるために目にも魔力を振り分ける。
最速で近づく俺とノルン。
その俺たちに向かってくる矢。
そんな高速で正面衝突するかのように急接近する飛翔物を、しかし、俺の目はしっかりととらえていた。
騎乗した姿勢でわずかに体をずらせて矢の軌道からギリギリで回避を行う。
あるいは、回避できないと判断したものは魔剣でその軌道をそらす。
その結果、正面から飛んできた矢は俺には命中せずに、その後方へとそのまま飛んでいく。
その矢の動きを最後まで確認することなく、流星のそばを走り抜けるノルン。
俺はその勢いをも利用して魔剣を力強く振り抜いた。
どうやら、迎撃に力を使い、防御に魔力を回せなかったのかもしれない。
あれほど強力な攻撃を行った流星という強敵のわりには、魔剣は一切の抵抗なくその身を斬ることに成功した。
次の瞬間、中州に赤い大輪の花が咲く。
流星と呼ばれた男の血がこの地の固有種である柔魔木に降りかかり、真っ赤に染め上げたのだった。
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