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鮮血兵

「アイ、無事か?」


「はい。あれから流星による攻撃はありません。再び、あの攻撃が行われた際にはここを撤退し、第二防衛線まで退こうと考えていました」


「そうか、上手くやってるみたいだな」


 グルーガリアの弓兵たちを押しとどめていたアイ。

 ここにはすでに壁を作っている。

 バルカ傭兵団に命じて作らせていた壁だ。


 俺は柔魔木の伐採をさせている間、傭兵団の一部を分けて行動させていた。

 片方は斧を振るって柔魔木を切り倒す部隊。

 そうして、もう片方は【壁建築】を使って防衛線を作らせていた。


 俺とアイが水の上から近づいてきていたグルーガリアの船を攻撃している後方では、いくつかの壁が作られて地面にそびえたっている。

 弓からの攻撃をこの壁を使って身を守りながら、アイは魔銃で迎撃していた。

 【壁建築】で作った壁は厚さが5mはある。

 いくら柔魔木の弓を使っても、この厚さの壁は突破できないだろう。


 が、流星による矢の攻撃は防ぐことができないに違いない。

 なにせ、地面に大穴を開けるほどの威力の矢なのだから。

 だからこそ、オリエントの兵には撤退を急がせてイアンたちを連れて戻ってきた。

 だが、どうやらあれから流星による攻撃はなかったようだ。

 もしあれば、いくらアイでもこの防衛線を突破されていただろう。


「あいつはどこだ?」


「……むこうにいるみたいだな。相手の兵の中に入り込んで暴れているぞ」


「あ、ほんとだ。……大丈夫みたいだな」


 この防衛線を守っていたのはアイだ。

 だが、アイ一人だけではなかった。

 ほかにも兵がいた。

 壁の後ろから魔銃を使って迎撃するアイとは違い、単騎で敵陣へと入り込んで暴れている兵がいる。


 その兵というのは鎧を着ていた。

 全身を覆い隠すように着こまれた鎧。

 頭の先から足先まですべてが鎧になっている。


 だが、最初にグルーガリアの弓兵に攻撃していたのは間違いなく俺とアイだけだった。

 あの場にはほかの兵を連れてきてはいなかった。

 にもかかわらずに、そんな鎧兵がすでに戦っているのにはわけがある。

 俺がこの場に出したからだ。


 グルーガリア兵と戦っているのは魔装兵だった。

 ブリリア魔導国で戦った全身鎧だけで動く魔物の一種。

 魔導迷宮と呼ばれる迷宮の核が生み出し続けている、迷宮を守るための兵。

 その魔導兵がここにはいた。


 だが、その魔導兵は青銅でもなければ鉄でもない。

 いや、ある意味では鉄といってもいいのか?

 それは明るい血のような赤色をした全身鎧だった。


「調子はどうだ、ノルン?」


「ああ。悪くないぜ、アルフォンス。全く、まさかこの俺様が剣ではなく鎧になる日が来るとはな。お前はつくづく面白いことを見せてくれるな」


「いや、すごいのはお前だろ。思い付きでやってみたらできちゃうんだからさ」


 その赤い鎧の兵がこちらへと戻ってきたので声をかける。

 どうやら、敵陣を荒らしまわったようだ。

 相手も警戒して様子を見ているのか、追撃がない。

 そこで、帰ってきたばかりの鎧兵へと声をかけた。


 魔剣ノルン。

 かつて、吸血鬼を目指した者が作り上げた魔剣。

 単純な武器としての力はもとより、血の契約により契約相手の血と同化してしまうという不思議な剣。

 その魔剣ノルンが鎧姿になって立っていた。


 実はこうなったのは最初から狙ってのものではなかった。

 最初は魔導迷宮で手に入れた魔石を魔装兵器として使えないかと考えていた。

 アトモスの里でとれる精霊石と呼ばれる魔石は、岩の巨人という魔装兵器になる。

 それと同じように青銅や鉄の魔装兵器ができないか試していたのだ。


 だが、結果は失敗だった。

 魔装兵器を作るときと同じように魔法陣を描きこんでいるにもかかわらず、暴走してしまうのだ。

 なぜだかは分からないが、魔装兵から取り出した赤黒い魔石を使った魔装兵器は暴走して人を襲う。

 もしかしたら、迷宮で生み出されたときのことが関係しているのかもしれない。


 その研究に付き合ってくれたグラン曰く、おそらくはブリリア魔導国でも魔導迷宮の魔石の再利用は成功していないのではないかという話だった。

 というのも、もし成功していればアトモスの里にわざわざ精霊石を取りに行く必要がないからだ。

 自国の迷宮でとれる魔石を使って、金属の魔装兵器を作り上げればそれでいい。

 なのにそうしていないというのは、ブリリア魔導国でも実現できなかったのだろうという結論に落ち着いた。


 そのため、赤黒い魔石の再利用は失敗しお蔵入りになった、はずだった。

 だが、それを覆したのがノルンという存在だった。

 血の契約により、俺の血と同化して今は俺の体の中にいるはずのノルン。

 そのノルンの力は俺の血を魔剣という形にして武器として使用可能にし、そして、斬った相手の血を奪い取ることだ。


 盗賊を退治した時にその力を使った。

 相手を切り、そして、血を奪う。

 その血に含まれる魔力を取り込むことでノルンはさらに魔剣としての力を高めることができた。

 が、俺はその血に別の使い方を見出した。


 まあ、ただの思い付きなんだけれども。

 赤黒い魔石は金属でできた魔装兵になる。

 しかし、青銅や鉄などの金属では暴走してしまった。

 ならば、魔剣ノルンが吸収した血液をもとに血の鎧を作ってみたらどうだろう。

 以前、アイに受けた授業の中で見た本には血の中には鉄分が混じっていると書いてあったし、案外いけるんじゃないかと思ったのだ。


 そんな思い付きがやってみたら成功してしまった。

 血液そのものがノルンである、という点が暴走しない理由なんだろうか?

 その辺はよくわからない。

 が、とにかく、魔剣ノルンが吸収して得た血を使って、赤黒い魔石を核とした血の鎧兵が誕生したのだ。


 鮮血兵ノルン。

 それが、新たに誕生した俺だけの魔装兵の名前だ。

 突如、戦場に現れた鮮やかすぎる血の色をした全身鎧の兵。

 命なき血の怪物が現れ襲ってきたとあって、グルーガリア兵は混乱しているようだった。


「ま、なんにしてももうちょっと時間を稼がないとな」


 その混乱を利用してさらに時間を稼ぐことにする。

 こうして、俺はノルンという新たな戦力と合流してさらに時間稼ぎをすることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そのうち神衣○血今みたいな装備にもなるかな。
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