狙撃戦
「……思っていた以上に難しいね、この魔銃は。結構外れちゃうよ」
「この距離では単純に単眼鏡で狙いをつけるだけでは当たらないかもしれません。魔弾は発射してしばらくすると浮き上がり、その後、落下する軌道をとります。また、この魔銃に取り付けている単眼鏡は特定の距離に狙いを定めるように調整しているのです。その点も考慮して照準を合わせてください」
アイと並んで魔銃を撃つ。
アイは次々と狙い通りに魔弾を命中させていた。
船の上ではアイに撃たれて傷を負う者が刻一刻と増えていく。
だが、それはあくまでもアイの腕があってこその戦果だった。
同じように俺が魔銃を使っても、そこまでの命中精度がでなかった。
魔銃に備え付けられている単眼鏡を覗きこむ。
そのレンズを通して見える視界には、十字の照準が映っている。
その十字に狙いたい相手を合わせて撃っていたが、どうやらそれだけでは駄目なようだ。
魔弾はまっすぐに飛んでいくけれど、実際は微妙に軌道が変わるらしい。
それを計算ずくで撃つ必要がある。
さらに言えば、風の影響も読む必要があった。
微妙に風で流されることも考えて狙いをつける必要があるのだという。
これらが思ったよりも難しかった。
というか、本来はアイのように正確無比に狙いをつけて撃つようなものでもないのだろう。
もともとの魔銃の使い方というのは、弾をばらまくようにして面制圧するためのものだからだ。
「……よし、やり方を変えよう。俺はもっと狙いやすい相手を撃つよ」
この魔銃を使いこなすにはもっと練習が必要だ。
だけど、ここはもうすでに戦場となっている。
実戦で感覚をつかむ、なんてことはもちろんあるんだろうけれど、この場で魔銃の練習をするわけにもいかない。
アイほどに命中させられないと判断した俺は、自分に今できる最大限のことを考えた。
そこで、狙いを変えることにした。
揺れ動く船の上にいるグルーガリアの弓兵。
そいつらに魔弾が当たらないというのであれば、当たる相手を狙ったほうがマシだと判断したのだ。
そうして、狙いを変えてからは俺の発射した魔弾も次々と標的に命中するようになった。
「なるほど。船そのものを狙うわけですか」
「うん。あの船は木でできているけど、柔魔木ではなさそうだしね。きっと普通の木だな。魔弾による攻撃が通る」
「こちらも船を狙い撃つほうがよろしいですか?」
「いや、アイはそのまま弓兵を狙ってくれ。俺は船に穴をあけて相手の足を止めることに専念するから」
「承知しました」
俺が狙いをつけたのは人ではなかった。
グルーガリアの弓兵が乗っている船。
その船そのものに狙いをつけて魔弾を命中させる。
思ったとおり、あの船は柔魔木製ではないみたいだ。
もしもそうだったら、魔弾の攻撃を跳ね返していたかもしれない。
柔魔木の硬さだと攻撃が通らないかもとも考えていたからだ。
だが、通った。
ということは、あれはごく普通の木でできているんだろう。
その木の船に魔弾を命中させていく。
船自体はそんなに大きなものではなく、数人乗るくらいの小舟だ。
詰め込んでも十数人くらいが乗れるくらいだろうか。
そんな小舟は木の厚さもたいしてなかったのだろう。
同じようなところに何発も撃ちこむという乱暴な方法での攻撃で、船に穴が開いていく。
すぐに船が沈んでしまうようなものでもないだろうけれど、水が中に入ってくる程度の損傷にはなっているみたいだ。
船に乗る漕ぎ手たちが船内で慌てた様子を見せていた。
そして、漕ぐ手を止めて中に入ってきた水をかきだしたり、穴を埋めようとしている。
そんな様子を見ながら、俺は他の船にも同様に魔弾を撃ちこんでいった。
魔弾は魔力をもとに発射しているので、弓のように矢をつがえたり補充する必要もない。
弾数を気にせずに撃てるというのもありがたい。
次々と船に魔弾を撃ちこんで浸水させていく。
アイのように兵を狙って戦力を低下させることも重要だ。
だけど、俺のように船を傷つけるというのも案外悪くない考えだと思う。
なにせ、これから俺たちは柔魔木を持ってここから逃げる必要があるからだ。
船をこいで中州から離れるときに、相手の船の数を減らすという意味でもここで穴をあけておくことには意味があると思えた。
それになにより、目に見える戦果があるというのもいい。
思うように当たらない相手を狙うよりは、多少適当になっても当たる船に損害を与えているほうが幾分気分もよかったからだ。
アイが兵を、俺が船に穴を開けながらの遠距離戦がしばらく続けられた。
「……さすがに相手も対応してきたか。どうやら離れた地点で中州に上がって、そこからこっちに向かってくるみたいだね」
「そのようですね。散開されて接近されると厄介かもしれません」
その後、しばらくは続いた一方的な銃撃戦。
それが終わりを迎えようとしていた。
グルーガリアの船がこちらへと一直線に向かってこようとしていたのが変わったからだ。
遠く離れた地点で船を降りて、水の上ではなく地面の上を移動してこちらに近づこうと考えたみたいだ。
さすがにこれ以上、船に穴を開けられることを嫌ったのだろう。
そして、そんなグルーガリア兵の中にはアイの攻撃に対応する者もいた。
飛んできた魔弾を弓矢ではじき返したのだ。
自分に向かって飛んでくる弾を狙ってはじく矢を放つ。
それがどれほどの技量なのかは想像もつかない。
だが、その身から湧き上がる魔力量は他の者を圧倒していた。
強い。
あれはもしかするとグルーガリア国の中でも名の通った人間なのかもしれない。
「よし、それなりに時間は稼いだ。オリバにも伝えて、退く準備を始めさせよう」
それを見て、俺は退くことに決めた。
柔魔木はどのくらい切ることができただろうか。
十分な量を確保できたかは分からないが、これ以上粘るのは危険かもしれない。
こうして、遠距離戦でそれなりの戦果を出した後は、撤退戦へと舞台が移り変わっていったのだった。
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