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スーラの指摘

「ほうほう。なるほどのう。そのバナージ殿という人はずいぶん危ない作戦を考えるものですな。もしかすると、この作戦、議会で通ったものではなく彼個人のものかもしれませんぞ」


 バナージとの話し合いを終えて俺たちは傭兵団の待つ屋敷へときていた。

 そこで待っていたスーラにバナージとした話を説明し、数日後にはその作戦があることを伝えた。

 そうしたら、スーラは気になることをつぶやいた。


「どういうこと? オリエント国の議員って言っていたし、その議員が考えた作戦なら議会ってやつがその作戦を認めているんじゃないの?」


「どうでしょうな。もしかするとそうかもしれませんし、そうではないかもしれません。ですが、議会というものは往々にして決定に時間がかかるものなのですよ。みんなが集まって話し合いをして決定する。それはいい面も多いですが、即決即断では動きにくいといった面もあるのです」


「まあ、王様の言うことに絶対ってわけじゃないだろうしね。そういうこともあるかもしれないか。でも、今回はなんでバナージ殿の独自の動きだと思うわけ?」


「それは時間です、アルフォンス様。事前にアルス様とバナージ殿は協議しており、ここに傭兵団が来ることもわかっていたのでしょう。けれど、その傭兵団の中にアトモスの戦士がいるというのはわかっていなかったはずです。おそらくは、先に使いにやったクリスティナがアトモスの戦士イアンの存在を伝えたのでしょう」


「……そう言われるとそうかも。イアンが俺についてくるなんて別に決まっていたわけじゃないしね」


「まあ、もしかすると我らがここまでくる間に調べていた可能性はありますか。ですが、バルカ傭兵団にアトモスの戦士がいるという情報を確かなものとして知り、それを作戦の中心に据えて決行するとなると、不確定要素がありすぎると思うのです。傭兵団が到着する前から議会がその作戦を承認するかというと疑問が出るのは当然かと」


「確かにそうかも。でも、じゃあ、バナージ殿はどういうつもりでこの作戦を立てたんだろ?」


「わかりません。わしとてこの国の内情までは知りませんしな。ただ、違和感がある、というだけのこと。それと、議会は一枚岩ではない、ということでしょう。バナージ殿と議会の関係性なども知っておいたほうがいいかもしれませんな」


 バナージはこの作戦のことを、オリエント国が助かるためのものだと説明していた。

 けれど、それがこの国を動かす議会を通して考えられたものではないかもしれないとスーラが言う。

 そんなことがあるのだろうか?


 ただ、確かにイアンを使った作戦というのは、イアンの存在がいなければ考えもしなければ、実行しようもないものではある。

 そんな作戦を今日ついたばかりのバルカ傭兵団に伝えて、数日後には決行するとなるのはやっぱり早すぎる気もする。

 ということは、バナージが独断で動いているのかもしれない。


 そういえば、前にこんな話を聞いたことがある。

 同じ陣営にいながらにして、どう戦うかで味方同士でもめたという話だ。

 攻めが好きな騎士が出陣しようと主張して、守りが得意な騎士は壁で守られた拠点にて守りをさらに固めるべきだと反論したという話だった。

 結局、お互いの意見がまとまらずに、攻めも守りも中途半端にしかできなくなってさらに状況を悪化させてしまったという笑い話だ。

 これはどちらが正しいかよりも、どちらかを選ぶほうが結果としてはいい方向に物事が進むという教訓話にもつながっていたと思う。


 オリエント国でもそういうのがあるのかもしれない。

 バナージのように守るだけではじり貧だと考えて、外に飛び出して活路を見出そうとする者。

 そして、それに対して現状でも十分な戦力がないのに外に人を出して被害が拡大したらどうすると反論する者でもいるのかもしれない。


 相反する意見の持ち主が議会という国の方針を決める場にいたら、どうやって方針を決定するんだろうか?

 話し合いで決まればいいけれど、あまり長い間話をし続けているわけにもいかないだろうし。

 もしかしたら、バナージはそんな状況にあってしびれを切らす寸前だったのではないだろうか。


 そんなところへ、バルカ傭兵団が到着した。

 それも、ただの傭兵団ではなく、アトモスの戦士がいた。

 百人の傭兵よりも、アトモスの戦士一人のほうがバナージには大きく映ったのかもしれない。

 そして、そのアトモスの戦士の力はこの東方では広く知られている。

 圧倒的な強さを持つ巨人は、単体でも戦場の力関係を大きく崩す要因になるからだ。


 そんな力のある戦力が都市の守りだけに使われる前に、オリエント国の更なる戦力強化のための作戦に投入したい。

 そう思ったからこそ、傭兵団が到着した直後にもかかわらず材木所を襲う作戦をしようと考えた。

 ……かもしれない。


「いくら考えたところで、どういう意図があるのか確かなことはわかんないね。とりあえず、この作戦には参加するよ。ただ、スーラはここに残ってバナージ殿や議会について調べておいて。クリスティナとかの商人も使ってもいいかもね」


「そうですな。わかりました。どれだけできるかはわかりませんが、やってみましょう」


 傭兵は雇い主に雇われて戦場で命を懸ける。

 けれど、そのためには雇い主が信用できる相手かどうかを知っておく必要がある。

 今回で言えばバナージはもとより、オリエント国の議会のことも知っておかないといけないんだろう。


 ただ、それでもこの作戦には参加しておこうと思った。

 どのみち、バルカ傭兵団が戦場で通用するかどうかを俺自身わかっていないからだ。

 盗賊退治では特に問題なかったけれど、どのくらいの働きができるのかわからない。

 それはこの国の議会だってそうだろう。


 とにかく、今回の作戦で手柄を上げておこう。

 そうして、バルカ傭兵団の力を示せばまた状況も変わるかもしれない。

 となると、作戦成功は当たり前で、できれば名の通った人でも倒したいところだ。

 材木所に有名な騎士でもいるだろうか?


 そんなことを考えつつ、数日後の作戦決行に向けての準備を進めていったのだった。

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