小国家群
山を越え、そしてその先の平野を見渡す。
小国家群と呼ばれ、ブリリア魔導国やほかの国からの干渉を避けつつも、いくつもの国が乱立している場所。
そこは川の多い場所だった。
いくつもの川が流れていて、それらが途中で合流して太くなったり、あるいは分かれていったりするらしい。
しかも、毎年のようにどこかで氾濫がある。
まるでその川が暴れる竜のようだということで、九頭竜平野なんて呼ばれたりもするらしい。
もちろん、九つの頭を持っている竜が縦横無尽に暴れるという想像からきていて、実際に竜がいるわけではないらしい。
「よくそんなところに住んでられるね。危なくて仕方がないんじゃないかな?」
「確かに、川のそばは危険よ。けれど、歴史的に氾濫しにくい場所というのはだいたい決まっているからね。そういうところには大きな街ができて、そして、それが国になったの」
「それが小国家群の始まりってことか。よくそんな街ごとで国になんてなっているね」
バルカ隊商として商人と積み荷を運びながら移動し続けてきた。
その間、クリスティナをはじめとする商人に各地の話を聞いていた。
貴族院で習ったこともあるけれど、やはりこの地で実際に生きて生活している人の話は面白く興味深い。
その中でも小国家群そのものが変わっていて、面白かった。
というのも、この辺の国は本当に小さいものが多いのだ。
というよりも、各地にある街そのものが国を名乗っているところが多いらしい。
大小いくつもあり、頻繁に氾濫する川からの影響が少ない場所に、壁で囲まれた大きな街が出来上がり、そして、そこが国を名乗るようになった。
つまり、いくつもの街を治める統治者が王を名乗っているのではなく、街一つとその周辺の農地で国が完結しているのだ。
小国家群、あるいはそれらは都市国家群とも呼ばれるらしい。
数万人、あるいはそれ以上の人が住む大きな街そのものが国となっている。
都市国家ごとにいろんな違いはあるが、竜をあがめる信仰があるのだそうだ。
毎年、神に等しい竜という存在にたいして、豊穣を願い神事を行う。
場所によって統治に違いはあるようだけど、だいたいは自然の驚異を一番の敵であり、そして神からの恩恵でもあるととらえているそうなのだ。
そして、変わっている点はもう一つある。
それは、統治者が王ではなく議会のところが多いところだろうか。
普通なら、国というのは王がいて、その下に貴族がいる。
少なくとも俺にとってはそれは国として当たり前の形だった。
だけど、都市国家の運営は違った。
歴史ある家や財力のある家などが議会に入り、議論によって国を治めているところが多いみたいだ。
よくそんなので国が成り立っているなと思ってしまう。
「けど、その中でもオリエント国は変わってるって話だったっけ? 農地があんまりないようなところにあるとかなんとか言ってたよね?」
「そうね。あそこは自分たちで食料を作る分は最小限って感じかしら。それよりも、武器づくりが伝統的に得意な人が多かったから、周囲の国から材料を仕入れて武器を作り、そしてそれを売っていた。ほかの国のどこかを贔屓せず、けれど周りからにらまれないようにって感じでね」
「ほかの国のどことも付き合いを持つことで、農地も少なくて兵力も少ない状態でも国を守ってきてたんだよね。それが現状では大きく環境が変わって、オリエント国のその調整力が役に立たなくなったってわけだ」
国として変わっているなと思う都市国家だけど、その中でもオリエント国は特殊な立場だったみたいだ。
兵力が少ないながらも、なんとか周りのいろんな国と付き合いがあり、どこかがオリエント国を狙ってきたらほかの複数の国から助けを得ることで自分たちを守ってきたのだそうだ。
これは小国家群がほかの強国から自分たちを守る姿にも似ているかもしれない。
だけど、そんなギリギリの力関係で成り立っていた国は、現在その調整力を完全に失ってしまっている。
いや、その言い方は酷かもしれない。
ある日を境に環境が大きく変わりすぎて、調整なんてできなくなってしまったからだ。
その原因こそアルス兄さんがオリエント国のバナージという人に魔法を授けたことにある。
それまでは、神の恵みという名の氾濫で豊作が起きていた土地に、【土壌改良】という魔法や、その他いろいろと便利な魔法をこの地にもたらした。
しかも、それは【命名】というほかの人も魔法を手に入れられる手段つきでだ。
最初はバナージによってオリエント国に広がった魔法だった。
それは当初、歓迎されたのだと思う。
けれど、周囲からすると、オリエント国は新たな力を手に入れた危険な国でもあり、あるいは、自分たちもその力を手に入れることができる魔法の果実みたいなものだったからだ。
そうして、それまでのものづくりの国としてある意味で中立国として成り立っていたオリエント国は、周囲から一斉に攻撃されるに至ったのだという。
大丈夫かな?
オリエント国から助けを求めてきたとはいえ、アルス兄さんのことは恨んでいたりしないんだろうか?
激動のさなかにあるオリエント国に向かいながら、その国の人々に受け入れられるのだろうかと不安も抱きつつ、俺たちバルカ隊商は少しずつ目的の国へと近づいていったのだった。
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