なんでもするから
「あー、あった。あったわ、アルフォンス君。これよ、通行手形」
「よかったね、クリスティナさん。無事に見つけられて」
「うんうん。本当によかったわ。これがないと、結構大変なのよ。こうして取り戻せたのは盗賊を退治してくれたアルフォンス君のおかげね」
「いやー、どっちかというとイアンの働きのほうが大きいかもね。洞窟内の罠を全部その身で解除してくれたし」
盗賊の頭を倒した後、しばらく様子を観察した。
その後も、何人かの盗賊たちが洞窟内から出てきたのを見つけては、まだ戦っていなかった傭兵にそいつらを袋叩きにさせる。
そうして、これ以上はもう大丈夫だろうということになり、洞窟内に入ることにした。
この拠点がいつからどれくらいの期間使われていたのかはわからない。
けれど、最近起きた盗賊被害や、荷車を曳いてできたわだちの跡から、この洞窟の中にまだ盗まれた商品がある可能性が大きいと判断されたからだ。
それを確認するためにも中に入っていく必要があった。
しかし、突入する際にどうしても気になることがあった。
それはさっき戦う前に聞いた「罠を張っていた」という内容についてだ。
洞窟の中は商品を取り戻そうと考える商人や護衛たちを撃退するための罠があるのかもしれない。
そう考えると、全員で突入していくのは危険すぎるとクリスティナに言われた。
そこで、活躍してくれたのがイアンだった。
鉄の騎士が使っていた全身を覆うほどの大盾を正面にかまえたイアンが先頭に立って洞窟内を進んでいく。
どんな罠があるのかは知らないけれど、イアンならたいていの攻撃は傷一つつかないくらい体が頑丈だ。
つまり、罠を回避するのではなく、イアンという囮を使って罠を発動させてしまってから先に進もうとしたわけだ。
イアン曰く、この手の地形で用いられる罠で一番気を付けないといけないのが落とし穴だという。
足元に空いた穴をうまく隠して、それを知らずに踏み抜いて落ちてしまうという罠としては単純なものだ。
けれど、これが意外と馬鹿にできない。
落とし穴はたとえ浅くとも引っかかれば足を捻挫したり骨を折ったりもする。
さらには、それなりの深さがあれば腰から下が動かなくなってしまうというほどの重症にもなるからだ。
ただ、それもあくまでも普通の人間ならばだ。
アトモスの戦士はその肉体がものすごく頑丈だ。
たとえ、巨人になっていなくても、落とし穴程度では問題にならない。
そして、実際に落とし穴に落ちてもイアンはへっちゃらだった。
あとは、ときおり矢が飛んでくるだとかといった違う罠もあったが、それも鉄の大盾で防ぎながら進んでいくその姿は頼もしいの一言だった。
そんなこんなで洞窟の奥まで進むと、そこには盗賊たちがいたであろう空間があった。
洞窟の奥のほうはそれなりに広がっていたらしい。
一番奥に盗んだ品を保管して、その手前でしばらく生活をしていたみたいだ。
入り口で木を燃やしたために多少煙臭いが、それももう薄れてきている。
念のためにこの場に残っている盗賊がいないかも警戒しつつ、盗品を物色していく。
「えっと、これもある、あれもある。……うん、盗まれた商品はまだほとんど残っているみたい。食べ物とかはさすがに食べていたみたいだけど、まだ商品を売ったりはできていなかったみたいね」
「へー、そうなんだ。そういえば、ここにいた盗賊たちもそれをお金に換える必要があるんだよね。盗賊と取引しているやつがいるってことか」
「もちろんいるわよ。けど、探すのは難しいかしら。盗賊たちはもう全員倒しちゃったわけだしね。死人に口なしよ」
「ふーん。ま、いいか。それより、さっさとここにあるものを回収して外に出ようか」
「そうね。けど、本当によかったわ。これだけ商品が回収できれば損失がある程度取り戻せる。まだまだやり直せるわ。私の運も尽きていなかったってことね」
「……ん? 何言っているの、クリスティナさん?」
「え……? なにかおかしいことを言ったかしら?」
「ここにあるものは全部盗賊を倒した俺のものでしょ。これは傭兵団の戦利品だよ」
さっきから、なんだか少しだけ会話に違和感があった。
どうやら、クリスティナはこの洞窟で見つけたものを自分のものだと思っているみたいだった。
たしかに、俺はクリスティナに協力して盗賊を倒した。
それに、大切なものらしい通行手形を取り戻したいという話も聞いていた。
けれど、だからといって、盗賊から得た物はあくまでも盗賊を倒した傭兵団のものだろう。
それに対して、クリスティナは自分の商品を回収できるつもりでいたらしい。
「そ、そんなこと言わないで、アルフォンス君。お願い、このとおり。被害額が大きすぎて本当に大変なの。ほら、私の商隊以外の品物もあるんだし、アルフォンス君だって損はしないでしょう?」
「駄目。全部、俺のだよ」
「そ、そんな……。なんとか、お願いします……。お姉さん、首をくくることになっちゃう」
「駄目」
「……うう。そんなこと言わずに、ね? お姉さん、アルフォンス君になんでもしてあげちゃうよ? だから、ね?」
どうやら、よっぽど困っているらしい。
けど、もともとは通行手形だけでも取り戻せればいい、みたいなことを言っていたはずだ。
首なんかくくったりはしないと思う。
だけど、なんでもする、か。
そこまでいうなら、いろいろお願いしてみようかな?
なにかいいお願い事でもないだろうか。
薄暗い洞窟の中で膝をつきながら俺の体にしがみつくようにして、本気で涙目になっているクリスティナを見ながら、これからするお願い事についてしばらく考えてみることにしたのだった。
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