自在剣の所有権
(あー、ごっそうさん。こいつの血はまあまあだったな)
(もういいのか、ノルン? この自在剣の使い手の血は気に入ったんだな。ってことは、やっぱり騎士以上の人の血がいいって感じなのか?)
(ま、そうだな。その辺の一般人から数人分の魔力を集めるよりも、騎士一人から血を吸って魔力を集めたほうが効率がいいからな。味もまあそんくらい違うって感じだな)
(そっか。じゃあ、これからは強そうなやつがいたら積極的に狙っていこうか)
盗賊の頭っぽい騎士崩れの男を倒した。
ノルンがその肉体から血を吸い上げたことで、げっそりとした見た目で倒れているその男を見る。
結局こいつはなんだったんだろうか?
騎士家の落ちこぼれが盗賊になっていたんだろうか?
わからない。
けど、多分どれだけ考えてもこの場でその答えは出ないと思う。
なら、別にいいか。
考えても仕方のないことを気にしてもしょうがない。
それよりも、今気になっているのはこの男の正体なんかじゃなくて、その手に持っている武器だった。
「よっと。これが自在剣か。おお、本当に魔力を注いだら形が変わるんだ。すごいな」
男の手にいまだ握られていた自在剣を奪い取り、自分で使ってみる。
どうやら剣の柄にある魔石のようなものに魔力を注ぐと形が変えられるようだ。
もう元に戻っていた大きさから、切っ先だけを伸ばして長くしてみたりする。
「うーん、意外と微妙か? 重さも結構変わるんだな、これ」
だが、その使い勝手はどうかというところだ。
自在剣は形を変えるとそれにあわせて重さも変わるみたいだった。
剣先を伸ばせば伸びることには間違いないが、その分、剣の先が重くなる。
しかも、見た目よりも重くなりやすいみたいだ。
形が大きく変わるほど重くなっていく。
別に持てないわけではないが、剣を扱う上では少し厄介だと感じた。
剣術は基本的に剣を自由自在に操ることに意味がある。
そのため、使う剣は使い慣れたもののほうがいいのに、形によって重さがここまで変わるのは使いにくいかもしれない。
「アルフォンス君、大丈夫なの? 怪我はない? あの剣が大きくなって、私てっきりアルフォンス君が叩き潰されちゃうんじゃないかと思っちゃったわ」
「うん、大丈夫だよ。クリスティナさんが応援してくれていたおかげだね」
「あはは、聞こえてたよね。ごめんなさい。命を懸けて戦っているときに、声をかけちゃって」
「ううん、そんなことないよ。あの応援でやる気が上がったからね。おかげで勝つことができたよ」
「そう? それならよかったわ。それで、その剣がどうかしたの? いい剣なんじゃないかと思ったけど……」
「んー、どうだろ? 使いこなせば相手の虚をつける武器になると思うけどね。ただ、今のところはそんなに欲しい武器でもなかったかな。俺には魔剣も硬牙剣もあるからね」
「あ、それなら私が……」
「アルフォンス。その剣が必要ないなら俺にくれ」
俺が手に入れた自在剣をあれこれと試しているとクリスティナが近づいてきて話しかけてきた。
巨大化した剣に俺が押しつぶされたのではないかと思って慌てていたみたいだ。
しばらく俺の体をあちこち触って無事なのを確認したら落ち着いたようだ。
そして、落ち着いたら商人としての顔をのぞかせた。
俺が手に持っている自在剣に興味を向けたのだ。
形が変わることによって重さが変わってしまう自在剣。
こいつを真の意味で使いこなすのは相当大変なのではないかと思う。
変化する重量や重心を予想し、それに振り回されることなく、剣技を繰り出していかなければならない。
そうしなければ、さっきの男のように剣の性能だけに頼った奇襲頼りになってしまうような気がした。
そう考えると、俺が自分でどうしても使いたいという剣ではないように感じてしまう。
剣としての信頼性ならば折れにくい硬牙剣があれば十分だし、いつでも取り出して使うことができて血を吸うことも可能な魔剣ノルンが便利すぎる。
なので、いまいちかなーという総評になったのだが、それを聞いて自在剣を欲しがった者がいた。
一人は当然クリスティナだ。
だが、それとは別に、これまたいつの間にかそばに来ていたもう一人の男から声がかかった。
「この剣が欲しいのか、イアン?」
「ああ。アルスに雇われて働いたときには武器があった。けど、今はない。その剣が大きさを変えられるのなら俺にくれ、アルフォンス」
「あ、そういえばイアンって大盾くらいしか持ってなかったっけ。そうか。巨人化したとき用に大きさの変わるこの自在剣があると便利だね」
「俺たちアトモスの戦士は強い。だけど、欠点もある。それは体の大きさが変わるために武器や防具が用意しにくいということだ。大きさが変わるその剣があれば助かる。その剣をくれれば、俺はお前のために死ぬまで働くことを誓おう」
「死ぬまで? いいのか、イアン。そんなこと言って」
「かまわない。タナトスもアルスとそう契約したと聞いている。俺のためにその武器を与えるというのなら、俺はお前に命をかけよう」
「わかった。それじゃ、この自在剣は今からイアンのものだ。その代わり、さっきの言ったことは忘れないでね。死ぬまで付き合ってもらうからね、イアン」
「承知した」
そういって、アトモスの戦士イアンに対して自在剣を手渡す。
実は、イアンはここまでまともな装備を持っていなかった。
バルカニアにいたころには鬼鎧を着て、如意竜棍を使っていたはずだ。
アトモスの戦士は普段は普通の人間の大きさだが、全力を出して戦うときには巨大化する。
そのときに、大きくなっても体にあわせて大きさが変わる鬼鎧と如意竜棍はものすごく便利だったに違いない。
けれど、東方に来ることになったイアンはその両方を持ってこられなかったらしい。
あれはあくまでも戦場に出る際にアルス兄さんから一時的に提供されているだけだからだ。
まあ、わからなくもないかな?
とくに如意竜棍は竜の骨を使うとかいう貴重なものだそうだし。
だから、ここまでイアンが使っていたのは鉄の盾だった。
魔導迷宮にいた鉄の騎士が使っていた全身を覆うほどの大きさの盾を俺が提供したのだ。
イアンは背中に大きな盾を背負っている。
あれほどの大きさならば、巨人化したときにも腕用の盾くらいにはなるだろうという考えからだった。
もしくは、そのまま殴れる鈍器として使うこともできる。
だけど、やっぱりきちんとした武器が欲しかったのだろう。
イアンが自在剣を求めて、俺に命までかけると言ってくれた。
もちろん、それを断るはずもない。
こうして、俺は本当の意味でこのアトモスの戦士を自分の味方に引き入れることに成功したのだった。
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