追跡のプロ
「それでどうするの、アルフォンス君? その剣が手掛かりになるとして、どうやって盗賊の隠れ家を探すっていうの?」
「さっきも言ったとおり、臭いですよ。こいつについた盗賊の血の臭いをたどります」
「んー、そうはいってもたいした臭いはしないわよ? 本当に臭いを嗅ぎ取れるものなの?」
「多分、大丈夫だよ。じゃ、さっそく行こうか。まずは、クリスティナさんには盗賊に襲われた場所まで案内してもらおうかな」
「え、もう行くの? んー、わかったわ。それじゃ、ついてきて。案内するわ」
善は急げだ。
さっそく、盗賊狩りに行くことにする。
手掛かりとなる剣を持って、部屋を出て、エルビスによって準備させていた傭兵団を動かす。
こうして、到着したばかりですぐにまた町を出ていくことになったのだった。
※ ※ ※
「ここがそうよ。盗賊たちに襲われた場所。……今はいないみたいだけど、あんまり長居したくはないかも」
町を出て半日ほど移動した場所。
南へと下ると鬱蒼とした木々でできた森があった。
どうやら、クリスティナたちはここの森を通ったらしい。
森はそこまで大きなものではないらしく、突っ切ってしまったほうが速いのだそうだ。
そして、その森の中ほどにある小さな広場。
そこは、この辺りを通る人にとっての休憩場所となっていた。
この森の中の休憩場所で盗賊たちに襲われたらしい。
実際に現場に来てみると、いろいろとわかることがある。
この広場自体は周りを見渡せる程度の開けた場所なので、警戒がしやすい。
しかし、森の中という環境は盗賊にとっても襲いやすい。
そして、木がたくさん生えているという地形があったからこそ、襲われたクリスティナは逃げ切ることに成功したんだろう。
なにもない平原だったら、いくら【身体強化】が使えたとしても逃げきれなかったかもしれないからだ。
そんな広場には人が争った形跡がわずかに残されているものの、盗賊に襲われて命を落とした護衛の死体などはなかった。
多分、肉食の動物が処理してしまったんだろう。
あたりは鳥の鳴き声くらいしか聞こえない、なんとも不気味な雰囲気が漂っていた。
「じゃ、お前の出番だな。いいか、こいつの臭いを嗅いで追跡してくれ」
「……なにそれ? それって、鳥だよね、アルフォンス君? まさか、その鳥が臭いをたどるっていうの?」
「正解だよ、クリスティナさん。こいつは追尾鳥っていうんだ。俺の生まれ故郷ではこの追尾鳥が臭いをたどって犯罪捜査をしたりするんだ。すっごく鼻が利くから、どこに逃げても追跡してくれるよ」
「へー、それが本当ならすごいわね。あ、飛んだ。ってことは、今からその鳥が臭いをたどって盗賊たちの拠点へ行くのね?」
「そういうこと。まあ、けど、この剣で斬った盗賊が今も拠点にいれば、なんだけどね。その辺は運しだいだね。盗賊たちが拠点で休んでいる可能性に期待しよう」
盗賊探しの切り札。
それはバルカニアで生産されている使役獣だった。
その名も追尾鳥だ。
ヴァルキリーのように騎乗可能な使役獣ではないけれど、この使役獣の存在価値は大きい。
なんといっても、その追跡能力はほかでは見られないものだからだ。
俺がブリリア魔導国に留学しているときに驚いたことの一つに、犯罪を犯した者が逃げ切ることがあるということについてだった。
バルカニアだったら、犯罪をすればすぐにつかまる。
今は、天空王国の民全員がすべての情報をつかさどる腕輪をさせられているので、もっと効率的になっているが、その前はずっと追尾鳥が捜査を任されていた。
犯罪を犯して、なおも隠れているような者は臭いをたどって追いかけられる。
しかも、この追尾鳥は結構な速さで飛び続けることができる。
どれほど遠くまで逃げて隠れても、逃げきれるものではない。
その追尾鳥をバルカ傭兵団は何羽か所有していた。
これは実は追跡のためではなかったりする。
というのも、手紙のやり取りにでも使おうと思って連れてきていたからだ。
カイル兄さんのリード家のように誰もが【念話】を使えたらよかったが、そうじゃない。
だったら、離れた相手との連絡手段も必要だ。
そう思って、バルカニアから数匹ほどの追尾鳥を持ってきていた。
それを、今回は盗賊探しに使うことにしたというわけだ。
剣についた盗賊の臭いを嗅ぐ追尾鳥。
その追尾鳥がしばらくあたりを飛び回り、そして、ある方向を見ながら飛び始めた。
どうやら臭いの元を見つけたみたいだ。
「行くぞ。これより、追尾鳥を追跡して盗賊退治を開始する。発見した状況によってはすぐに戦いになるかもしれないけど、準備はいいな?」
「了解です、アルフォンス様。ただし、ケガだけはなさらぬように」
「わかっているよ、エルビス。けど、バルカ傭兵団にとって初めての実戦だ。派手にいこうぜ」
空を飛んで臭いのもとへと向かっていく追尾鳥。
その鳥型使役獣に置いていかれないようにこちらも動き始める。
俺自身にとっても初めての対人実戦が始まろうとしていたのだった。
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