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被害者の商人

「しかし、盗賊退治ですか。相手の規模もそうですが、問題は盗賊たちを見つけられるかどうかによるでしょうね」


「そうだね、エルビス。だから、まずは最近盗賊の被害にあった被害者に会う。話を聞いてみないとわからないからね」


「そうですね。もうすぐ、バイデン殿がその被害者である商人を連れてくるはずです。傭兵たちはいつでも動けるように準備だけはさせておきましょう」


「うん、よろしく頼むよ」


 バイデンの屋敷でゆったりと座って待つ。

 エルビスはいつでも探しにいけるように準備をさせるといって部屋を出ていった。

 その間にこちらもできることはしておくことにする。


 周囲の地図などを屋敷の人間に見せてもらいながら、盗賊が根城にしそうな場所をいくつか聞いていると、部屋の外から扉をたたく音がした。

 どうやら、商人が到着したようだ。

 部屋に入ってもらい話を聞くことにする。


「やあ、お待たせ。スーラさん、久しぶりだね」


「おや、被害にあった商人ってのはあんただったのかい。災難だったね」


「いやー、参ったよ。こっちも護衛はいたんだけど、あっという間にやられちゃって。私が生きて帰れたのは奇跡だったくらいだね」


 部屋に入ってきた人物がいきなりスーラと話し始める。

 スーラと知り合いなんだろうか?


「誰? 知っている人なの、スーラ?」


「ええ、まさかこの子が盗賊被害にあった商人だったとは思いませんでした。たまに、バリアントまでも来る商人のクリスティナです。霊峰の麓までやってくる商人は貴重で、なかでもこの子は誰とでも分け隔てなく付き合ってくれるのです。この子が無事で何よりといったところですな」


「え、っていうか、スーラさん。その男の子こそ誰なの? ちっちゃくてかわいい子ね」


「初めまして。俺の名はアルフォンス・バルカ。このバルカ傭兵団の団長です」


「ええ? 君が団長さんなの? って、バルカってあの空に浮かんだお城の持ち主の名前じゃなかったっけ? もしかして、関係者?」


「そうですよ。あの城は実家のものです。よろしく、クリスティナさん」


 部屋に入ってきた商人は女性だった。

 それも、結構若い。

 普段商人としてあちこちを移動しているからなのだろうか。

 小麦色の肌をした健康そうなきれいな女の人だった。


 それにしても、結構肌の露出が多い気がする。

 胸元も広く開いているし、短いズボンをはいているのでそのきれいなスラっとした脚が周囲の男連中の視線を一手に集めている。

 なんか、貴族院だと見かけない庶民的だけどいい人そうな女性だな。


「よく無事でしたね。あ、もしかして、魔法が使えるとか?」


「ええ、そうよ。よくわかったわね、小さな団長さん。【身体強化】を唱えて必死に逃げ切ったのよ。怖かったわ」


「へー。バリアントで広がっている魔法をほかにも使える人がいるんだね」


「えへへ。実は私に魔法を授けてくれたのは、そこにいるスーラさんなのよ。あちこちに出向く商人で女性はなにかと危険だろうって言ってね。何年か前に【命名】してもらったの」


 そうなんだ。

 バリアントではそれなりに広がっている名付けだけど、意外と広がりが悪いという話もあったはずだ。

 霊峰の麓に住んでいる者たちは基本的には閉じた社会で生活している。

 だから、他人を【命名】して魔法を使える人が増えるはずなのに、いまひとつ広がりきらなかったという話を聞いていた。


 だからこそ、アルス兄さんはさらに魔法の輪が広がるようにオリエント国のバナージさんにも名付けをした。

 けれど、こうしてバリアント住民以外にも魔法を使える者はいたんだ。

 健康美あふれるクリスティナは魔法を使って、なんとか生還したのだという。


「護衛があっという間にやられたって言っていたよね? 全滅したの?」


「ううん。何人かは私と一緒に逃げられたわ。けど、多くの護衛が犠牲になってね。商品も荷物もなくなって、護衛もいないってので、これからどうしたものかと悩んでいたの」


「ふむふむ。それじゃあ、なにか盗賊たちの手掛かりになる情報ってないのかな? なんでもいいんだけど」


「そうは言っても逃げるのに必死だったから。盗賊たちが現れる場所も結構まちまちでね。どこに拠点を構えているのかバイデンさんもわからないって言うし、私も見当もつかないわ」


「別に居所が分からなくてもいいよ。そうだね……、例えば、盗賊たちの持ち物とか、臭いの付いたものとかでもあったら助かるんだけど」


「臭い? あ、ちょっと待って。それなら、これなんかどうかしら? この剣なんだけどね。私に近づいてきた盗賊がいたから、切りつけてやったの。その時に血が付いたはずだから、もしかしたらその時の血の臭いが残っているかもしれないわ」


「あ、いいね。そういうのが欲しかったんだ。それがあれば、盗賊の居場所がわかるかも」


「本当、アルフォンス君? あ、ごめんなさい。君づけで呼んじゃった」


「いいよ。俺のことはそう呼んでもかまわないよ、クリスティナさん」


「ふふふ。わかったわ。それじゃあ、頼もしい傭兵さんにお願いします。どうか盗賊を見つけてください。あいつらの奪った商品は最悪あきらめるとして、商人用の通行手形が奪われちゃったのがほんと大失敗でね。それだけも取り戻したいの」


「了解。バイデンさんからも報酬はもらうことになっているからね。任せておいてよ、クリスティナさん」


 そういって、盗賊を切りつけたという血が付いた剣を受け取る。

 ……よかった。

 どうやら、布でふき取っただけで【洗浄】をしていないみたいだ。

 ああ言ったものの、【洗浄】していたら臭いなんてきれいさっぱりなくなっていただろう。

 もしそうなら、この剣を手掛かりに盗賊を見つけるのは無理だった。


 だけど、この剣には血の臭いが残っている。

 その臭いをたどって盗賊退治へと向かうことにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういや吸血鬼っぽいものになってたんだったな 血については専門家みたいなもんか
[良い点] 匂い追う鳥さん居たね。
[一言] 今のアルフォンスなら警察犬以上に鼻が利く? 特に血の匂いには敏感かな?
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