お金の問題
「これは……、思っていた以上に大変だね。傭兵団っていうのはさ」
「まあ、そうでしょうな。なんせ、戦うしか能のない男連中が集団でいるのです。基本的には金食い虫以外の何物でもないでしょうな」
バリアントを出発して意気揚々と歩きだしたバルカ傭兵団。
向かうのはバリアントよりも南に位置するオリエント国だ。
だが、そこまでは結構な距離がある。
歩きで行くのだが、一月以上かかるのだそうだ。
もうすでに出発してから何日か経過していた。
傭兵団そのものは特に大きな問題は起きていない。
その構成員たる傭兵たちは血の気の多い若者ではあるが、エルビスが面倒を見ていることで規律を乱すようなこともなかった。
だが、一切問題がないかと言えばうそになるだろう。
このわずかな期間で、傭兵団にこれからもついて回るだろう問題点が浮き彫りになっていた。
それは、お金の問題だった。
100名を超えるバルカ傭兵団にはアルス兄さんから購入した角なしヴァルキリー10頭が含まれている。
俺やエルビス、イアン、そしてスーラがその背に乗って移動をしている。
残りのヴァルキリーは荷車を引くようにして荷物などを運んでいた。
そんな集団が霊峰とも呼ばれる大雪山の麓を移動し続けている。
まだまだ人気の少ない大自然の中の移動だ。
明るくなる前から移動を開始し、夕方、暗くなる前に野営の準備などをすることになる。
当然、そこで食事を食べることにもなる。
その食糧の持ち運んできている分がどんどんなくなっていくのだ。
よく食べる男連中が集まれば、食べ物があっという間に減ってしまうのをここにきて初めて実感した。
途中途中で、森の中から食べられるものを採取したり、適当な獲物を狩ったりもしているので多少は賄えてはいるが、それも限りがある。
なので、もうしばらくしたら、どこか食料を補給するためにもそれなりの街に行かなければならないだろう。
ただ、そこでは当然ながら食べ物を買うことになる。
つまり、お金がかかるのだ。
現時点ではなにも稼ぎを得るようなことをしていない。
というよりも、傭兵団として認識されているわけでもない。
このまま移動を続けているだけで、あッという間に準備した資金は目減りしていくだろう。
……傭兵団というのは本当に採算が取れるのだろうか?
戦場に出て戦い、その行為で報酬を得る。
だけど、常に戦っているわけではないだろう。
それに、戦場に出る以上、武器などの損耗もあり、それらの補充も必要になってくる。
そう考えると、一度戦場に出るたびに十分な報酬を手にしなければならない。
そうでなければ、到底組織として立ちいかなくなってしまうに違いない。
出発して数日後には、戦闘ではなく経営についての心配事が頭の中の大部分を占めることになってしまったのだった。
「まあ、オリエント国につきさえすればひとまず大丈夫でしょう」
「そうなの? なんでそう言えるの、エルビス?」
「事前に交渉を済ませているからですよ、アルフォンス様。昨年、アルス様がブリリア魔導国に滞在されていたのを覚えておいでですか? あの時にはすでにオリエント国から救援要請が出ていたのです。そのときに、傭兵を送るのであれば受け入れ態勢をどの程度整えるのかをしっかりと確認しておられました」
「あのときにはすでにそういう交渉があったんだ」
「そう聞いています。もっともその時点では、軍を送るか傭兵を送るか、いろんな案があり、それぞれで条件を詰めていたのでしょう。アルフォンス様が傭兵団の団長として赴くことになるとは思いもしませんでしたが」
「ふーん。じゃあ、オリエント国に行けば、向こうがバルカ傭兵団を受け入れてくれる準備があるってことなんだね?」
「はい。こちらの人員が住む場所、および、武器や薬などの調達、そして滞在費用についての取り決めがなされています。アイ殿にもその情報が渡されているはずなので確認しておくのがよいでしょう」
「わかった。でも、その条件を後でオリエント国がやめたりしないものなのかな?」
「そういうこともあるでしょうが、すぐにそんなことはしないでしょうね。もし、そうなった場合、その傭兵団がどのような行動に出るかわかりません。報酬を渋った結果、傭兵団が盗賊団に早変わりするなどということはそう珍しいことでもないようですし」
どうやら、アルス兄さんは前々からそれなりの準備をしていたみたいだ。
結果的に俺が傭兵団を立ち上げてオリエント国に行くことになっただけで、そうでなければ違う形で動いていたんだろう。
アルス兄さんがオリエント国と交わした取り決めをアイから教えてもらい、自分でも確認する。
結構な報酬が担保されているみたいだ。
これなら、傭兵団を維持していく分には問題ない、と思う。
けれど、それで十分かというとそうでもない。
万が一、ということもある。
なんといっても、傭兵なんていうのは使い勝手のいい手駒くらいの存在なのだ。
どういう扱いを受けることになるのかなんてわからない。
傭兵団の運営について、しっかりと考えておかないといけないだろう。
そう考えているとき、スーラから声がかかった。
もうすぐ、ある程度大きめの町が見えてくる頃合いだそうだ。
次は野営ではなく、そこに泊まることになる。
スーラと一緒に傭兵数人を先行させて、こちらの宿を確保するために人を出す。
戦う前からいろんなことを考えつつ、バルカ傭兵団は歩み始めたのだった。
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