同行者
「お待ちしておりました、アルフォンス様。このエルビス、この日が来るのを今か今かと楽しみに待っておりました」
「ありがとう、エルビスさん。なんか気合いの入り方がすごいね」
「私のことはエルビスとお呼びください。このエルビス、アルフォンス様にどこまでもついていきますので」
「え? いや、エルビスはアルス兄さんからバリアント城を任されているんでしょ? 何言っているのさ」
アルス兄さんと一緒に出島に向かい、そこからは一人で転送魔法陣を使ってバリアントへとやってきた。
そこで待っていたバリアント城の城主エルビス。
そのエルビスがいきなり僕の前に進み出て変なことを言ってくる。
エルビスはアルス兄さんに仕える騎士であって、その弟である僕の配下ではない。
だというのに、いきなりどこまでもついていくなんて言うのはどういうことなんだろうか。
「アルス様に許可はとっています。このバリアント城の管理は臨時的にアイ殿を置いていただくことで対応することになりました。ですので、私もアルフォンス様についてオリエント国までお供いたします」
「本当に? エルビスがついてきてくれるんならそれはありがたいけど、いいの? 傭兵団がうまくいく保証なんてどこにもないんだよ?」
「大丈夫です。そのために私がいます。アルフォンス様のために傭兵団の人員も集めて訓練もしておきました。問題ありません」
「……そう。なら、これからよろしくね、エルビス」
「はっ。よろしくお願い致します、アルフォンス様」
そう言ってエルビスが頭を下げる。
まあ、いいか。
戦力が増えること自体、なにも問題はないし。
エルビスはただの城主ではなくて、アルス兄さんと一緒に戦場に出ている。
その経験が役に立つだろう。
「それで、そっちの人はだれなの、エルビス?」
「はい。私とともにアルフォンス様と行動をともにする予定の者です。イアン、自己紹介を」
「俺の名はイアン。アトモスの偉大なる戦士の一人だ。俺も同行させてもらう」
「アトモスの戦士? あの巨人になれる人たちだよね。なんでそんな人が僕についてくるの?」
「俺がアトモスの戦士だからだ」
「はあ……。説明になっていないんだけど、どういうことなのさ」
「アトモスの戦士は傭兵として生きる戦士の一族だ。だが、今のアルスは戦う気がない。空の上で戦いとは無縁の生活を求めている。そんな生活を俺は求めてはいない」
「ああ、なるほど。ようするに、天空王国にいたら戦いに参加できないから僕についてきたってこと?」
「そのとおりだ」
「わかった。けど、この傭兵団の頭は僕だ。イアンが強いのはわかるけど、僕についてくるっていうならこちらの命令には従ってもらうよ。それでもいいんだね?」
「問題ない」
どうやら、この人も戦場が大好きな人間らしい。
安全で平和な天空王国にはなじめない。
そう思っていた時に、たまたま僕の話を聞いたらしい。
天空王の弟が国とは離れて東方へと行く。
しかも、それは留学などではなく傭兵としてだ。
それを聞いて、自分もと言い出したらしい。
もちろんこれはアルス兄さんも知っている話だったそうだ。
この傭兵団は天空王国とは関係のない、僕の個人的な行動でしかない。
だから、国から兵を送ることはできないが、アトモスの戦士は別だということなんだろう。
もともと、東方に起源をもつアトモスの戦士ならば僕と一緒に送り出す名分がいくらでも作り出せる。
そのなかでも、イアンという男の同行を認めたのはある程度信頼できるからだそうだ。
アルス兄さんがイアンと最初に会ったときに、いろいろとあったらしい。
それ以来、イアンはアルス兄さんに頭が上がらなくなっているとエルビスが説明してくれた。
よっぽど変なことをしない限り、裏切る心配もいらないだろうということだった。
「わかった。それじゃ、二人ともこれからよろしくね。それで、ほかに傭兵として僕と一緒に行こうって人は何人くらいいるのかな?」
「100名ほどです、アルフォンス様。本当はもっと同行希望者がいたのですが、これ以上を連れていくとバリアントが手薄になってしまう危険もあり、厳選しています」
「100人か。十分だね。それじゃ、まずはその100人にあいさつでもしようかな。案内してくれるかな、エルビス?」
「承知いたしました。それではさっそく地上へと降り立ちましょう」
多分、戦力的にはその100人よりもエルビスとイアンの二人だけのほうが強いのだと思う。
けど、数は重要だ。
数が多いだけで、相手を威圧し、勝利に近づくことができるだろう。
その100人をまずは僕がうまく手なずけなければいけない。
エルビスが準備を進めてくれていたので大丈夫だとは思うけど、それでも僕はまだ洗礼式を終えたばかりの子どもだ。
見た目で侮られて、ついてきてくれなかったり、あるいは命令に従わないなんてことがあっても困る。
最初が肝心だ。
まずは100人の傭兵の前でしっかりと話をして僕を認めさせよう。
なんなら、反抗的な人でもいればそいつと戦って僕の実力を見せるのもありかもしれない。
そんなことを考えながら、エルビスやイアンと一緒に地上へと降りて行ったのだった。
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