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父にして兄

「あれ? なんか雰囲気が変わったか、アルフォンス?」


「わかる? 東方で傭兵になるために僕は生まれ変わったんだよ、アルス兄さん。いつか、アルス兄さんを超えるために、もっともっと強くなるんだから」


「へえ、俺よりも強く、か。いいね。やっぱ子どもってのはそうじゃないとな」


 いよいよ東方へ向けて出発の日がやってきた。

 僕はアルス兄さんと一緒に魔導飛行船に乗っている。

 ここから一度出島とへ向かい、そしてその出島から転送魔法陣でバリアントへと向かうことになる。

 すでに母さんたちとは別れを済ませた。

 これからはなかなか会うことはできなくなるだろうけど、新しい生活が始まることにもワクワクしている。

 どんなことが待っているんだろうか。


「そうだ。あと、餞別ってわけじゃないんだけどな。お前には特別にバルカの姓を名乗ることを許可する」


「バルカの姓を? いいの?」


「ああ、いいぞ。東方ではアルフォンス・バルカって名乗っとけ。本来ならば騎士叙任でもしないと名乗ったらまずいだろうけど、行き先がフォンターナ連合王国ではないしな。ま、大丈夫だろう」


「ありがとう、アルス兄さん。僕も姓があるほうがやりやすいだろうなって思ってたから助かるよ」


 魔導飛行船の中で隣り合って座っているアルス兄さんが急にバルカ姓を名乗ることを許可してくれた。

 いきなりだけど、これは本当に助かる。

 というか、姓がないただのアルフォンスだといろいろとやりにくいだろうなと思っていたからだ。


 フォンターナ連合王国では貴族などに騎士へと取り立てられた者は名付けを受けて姓を得ることになる。

 これによって、姓があるかどうかで魔法が使えるかどうかなどが明確にわかるようになっていた。

 ただ、東方では少し事情が違う。

 名付けによって姓を得るのではなく、親から受け継ぐものとなっている。

 貴族であればそれぞれの親の姓を子が名乗るため、どこの家とつながりがあるかが明確にわかるのだ。


 なので、どのような姓を持つかは社会的な信用に大きくかかわってくる。

 それで僕も貴族院では結構いろいろといわれたものだ。

 アルフォンスという名前しか持たない僕が、兄弟に王や貴族、騎士がいるといくら説明してもブリリア魔導国の人たちにはなかなか理解してくれなかった。

 アルフォンス・バルカと名乗れるのであればあの時の苦労をもう一度しなくて済むかもしれない。


「ああ、あとな。言っておくことがある。お前の出生についてだ」


「僕の出生について? まだなにかあるの?」


 魔導飛行船の中には僕たちしかいない。

 船内にほかにいるのはアイたちだけだ。

 だからだろうか。

 あれからあまり話題に出して言わなかった僕の生まれのことについて、アルス兄さんが口にした。

 ただ、ほかにもなにかあるんだろうか?


「お前の魔剣がこう言っていたんだよな? 俺とお前は血がまったく一緒だって」


「うん、そうだよ。アルス兄さんと僕は間違いなく血が一緒だってずっと言っているね」


「確認するが、親や兄弟でも血が同一になる、なんてことはあるのか?」


「いや、それはないよ。いくらそっくりな親子でも血が同じにはならないらしいから。ただ、例外はあるらしいけど。双子だと同じ場合があるんだって」


「……だろうな。ってことは、やっぱりお前は俺の弟なんだろうな。お前は俺と年の離れた双子の弟ってことになるのかもしれない」


 ……はあ?

 なんか、アルス兄さんが急によくわからないことを言い出した。

 同時に生まれるから双子なのに、歳の離れた双子というのは意味が分からない。

 なにを言っているんだろうか?


「どういうこと? ちょっと何を言っているのかわからないよ」


「俺とリリーナは結婚してから子どもを授かるまでに時間がかかっていたんだよ。それこそ、何年も子どもができなかった。で、その時に別件でクローン技術の研究もちょうど始めた時期があってな」


「クローンってなんだっけ? 同じ人の体を造る技術のことでいいの?」


「まあ、そうだな。母体にある未分化の受精卵から核を取り出し、そこに別の個体の体細胞などから取り出した核を入れる。それによって、その体細胞の持ち主と同じ因子を持つ肉体を造り出す技術のことだ。そうして生みだされた肉体は、遺伝的な素養が元の肉体と同じになる可能性はある。つまり、同じ血になりえる可能性があるってことだな」


「……っていうことは、僕ってやっぱり?」


「ミームに確認をとった。実はその当時、不妊治療として体外受精も並行して研究していたんだよ。俺とリリーナのな。そのときにその受精卵で作ったクローン胚があったんだけどな。もしかしたら、それがリリーナのお腹の中に戻されて妊娠したのかもしれないって言っていた」


「えっと、つまり、僕はアルス兄さんと同じ体だってことになるの?」


「わからん。遺伝子的には同じ可能性があるが、前も言ったとおりそれを確認する術がないからな。それに、核に含まれる遺伝子だけが体を造る要因になっているかもわからん。ミトコンドリアのようなもう一つの核があるとすれば、リリーナの細胞の影響を必ず受けるはずだ。であれば、俺と遺伝子は一緒でも細胞は違う可能性もあるよ」


 ……ちょっとアルス兄さんが何を言っているかわからない。

 つまり、どういうことなんだろうか。


「要するに、お前はリリーナのお腹から産まれてきた紛れもなく俺たちの子どもだ。そして、その時に同時に出てきたアルフォードと双子の関係でもあり、また、遺伝子が同じ別個体ということで、俺とも双子のような関係に当たる。つまり、お前は俺の子どもでもあり双子の弟でもあるってことだな」


「……なんか、なんて言っていいのかわかんないけどむちゃくちゃだね」


「本当にな。ま、そういうわけなんで、ついでだ。実験に付き合ってくれ」


「実験? なにかするの?」


「これを孵化させてくれ。使役獣の卵だ。お前と俺がまったく同じ血を持つってことは、もしかしたら魔力も同一なのかもしれない。ってことは、お前が使役獣の卵を孵化させたら、俺と同じヴァルキリーが生まれるかもしれない。そのための確認だよ」


 そう言って、アルス兄さんは僕に使役獣の卵を手渡してきた。

 小さな卵だが、不思議な特性を持つと聞いたことがある。

 魔力を吸って卵が大きくなり孵化すると、その魔力によって全く違う使役獣が生まれてくるのだそうだ。

 それを僕が育ててアルス兄さんの使役獣であるヴァルキリーと同じになるかどうかを確かめたいらしい。


 その話を聞いて、なんか最後の最後までアルス兄さんは変わらないなと思ってしまった。

 アルス兄さんの中ではどれほど僕と同じ体をしている可能性があっても、自分は自分でしかないという絶対的な自己があるんじゃないだろうか。

 けど、それは今では僕も同じだ。

 いくら遺伝子とやらが同じでも、もう僕とアルス兄さんは明確に違っている。

 僕が魔剣ノルンと契約し、生まれ変わったことによって決定的に違っているのだ。


 こうして僕は自分の父であり、兄でもあるアルス兄さんから家名と使役獣の卵を受け取ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大悪魔の精神性って遺伝や家庭環境からは来てないからなあ この世界の考え方に染まってるのだと よっぽど跳んだ思考持って無いと理解出来んて
[一言] アルスがほんとアルス
[一言] 「あれ? なんか雰囲気が変わったか、アルフォンス?」 「WRRYYYYYYY——」
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