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バルカ城での洗礼式

 バルカ城の玉座の間。

 新年を迎えてからさらに少ししたころ、僕はそこへ向かって歩いていた。

 フォンターナの街で行われた新年の祝いに出席していたアルス兄さんがバルカ城へと戻ってきて、すぐに洗礼式を行うことになっていたからだ。


 かつては謁見の間と呼ばれていた大きくて鮮やかなステンドグラスが背後にある部屋。

 きちんと計算されて造られた城は、そのステンドグラスへと日光が差し込んできらきらと神秘的な光を玉座へと降り注いでいる。


 その玉座には天空王であるアルス兄さんが、そして、その隣には王妃であるリリーナ様がいた。

 その二人の前に進み出て、膝をついて頭を下げる。

 今日、これから僕だけの特別な洗礼式が執り行われる。


「それではこれより命名の儀を執り行う。この命名によって主の加護を受け、魔法が使用可能となるだろう。しかし、この魔法はあくまでも人々の生活を豊かにするために授けられるものであり、それをみだりに悪用したりしないと誓うことができるか?」


 僕が頭を下げたのを見て、玉座にいたアルス兄さんが言葉を発する。

 教会ではなくこのバルカ城で行うことになった洗礼式だけど、ほかに洗礼を受ける人はいない。

 この場にいるのは父さんや母さんなどを含めてわずかな人数に限られている。

 そんな身内だけの集まりのような儀式だけれど、きちんとした格好のアルス兄さんに厳かな感じでそんな風に言われて緊張してしまう。


「はい。誓います」


「よろしい」


 よかった。

 緊張していても普通に返事ができた。

 おなかに力を入れて声を出せているし、しっかりとその声に魔力を乗せてもいる。

 声が小さくて聞こえない、なんてことはないはずだ。



「アッシラとマリーの六番目の子よ。汝にたいして神の盾であるアルス・バルカが洗礼式を執り行う。これより汝は誠実と清廉を是として励み、生きよ。さすれば、主は汝に加護を与え、見守ってくれるだろう」


 そう言って、右手を前に突き出すアルス兄さん。

 そのアルス兄さんの動きを視線だけを上にあげて観察する。

 前へと突き出した右手から魔力が放出され、その形を変える。

 丸い円形の図形の中にみたこともないような文字や記号などが複雑に描きこまれていた。

 あれが命名の儀のための魔法陣なんだろうか。


 そんなことを思っていると、展開された魔法陣の前にアルス兄さんの隣にいたリリーナ様が出てきた。

 新年が明けたばかりの冬の時期だけど、このバルカニアは寒くない。

 吸氷石が設置されて寒さを吸収しているうえに、このバルカ城は暖房器具が設置されて室温調整が行われているからだ。

 そんな暖かな空間だからか、リリーナ様は上等な光沢のある薄い生地で仕立てた繊細な服を身にまとっている。

 その服がステンドグラスの色と合わさって、あの人こそが女神なんじゃないかと思うくらいだ。

 そのリリーナ様がアルス兄さんの出した魔法陣の前に出てきて、名付けをした。


「あなたの名はアルフォンス。これより、あなたはアルフォンスとして生きなさい。あなたに神の祝福のあらんことを」


 リリーナ様がそのきれいな声でそういうと、周りから拍手が巻き起こった。

 みんなが祝福してくれている。

 その拍手を受けながら、僕は本当の、実のお母さんに向かって、大きく「はい」と返事をしたのだった。




 ※ ※ ※




「洗浄! やっぱすごいな。あっという間に汚れが落ちる。ピカピカだ。これがあったら、もっと迷宮を探索できたんだろうけどな」


(おい、アルフォンス。いい加減、俺を実験台にするのはやめねえか? もうこれ以上きれいにはなりっこないってくらい汚れ落としされ続けてんだけど)


(別にいいじゃん。ノルンは長い時間迷宮で土に埋もれていたんだから、これくらいきれいにしても罰は当たらないよ)


 洗礼式で行われた名付けの儀式。

 やっぱり、すごい。

 僕は今までアルフォンスという呼ばれ方をしていたけれど、これでようやく本当の名をもらえたんだという実感がわいてきていた。


 だってそうだろう。

 今までは、あくまでも仮の名だ。

 アルフォンスという名を使っていたとしても魔法が使えなかった。

 だけど、正式に名付けをされた直後、急に頭の中に魔法の知識が入ってきたんだ。

 それによって、僕は生活魔法が使えるようになった。


 今はノルンにたいして【洗浄】という魔法を使いまくっている。

 これは、どんな汚れも一瞬にして落としてくれる便利な魔法だ。

 そのほかにも、【照明】や【飲水】、【着火】なんて魔法が使えるようになった。

 これらは生活魔法と呼ばれて、だれでも使えるものだ。


 だけど、位階が上がればほかの魔法も使えるようになるらしい。

 特に、当主級を超える魔力量を持つと【回復】なんてものも使えるようになる。

 どんな傷も治してくれるすごい魔法だ。


 その【回復】はどうやら僕はまだ使えないらしい。

 生活魔法の知識が頭にあるのに、【回復】についての情報は一切ないからだ。

 まあ、そのうち魔力量が多くなれば使えるようになるんだろう。


(しかし、あのアルスってのは他の魔法も使えるって話だろう? アルフォンスはアルスの魔法は使えないのか?)


(無理だね。僕はアルス兄さんじゃなくてリリーナ様に魔法を授けてもらったから。名付け親の魔法しか使えるようにならないんだよ)


(だったら、アルスにも名前とやらを付けてもらえばいいんじゃないのか?)


(僕もそうしてほしかったんだけど、駄目みたい。残念だけど、しょうがないね。それより、春になったらいよいよだよ。それまでに準備をしておかなくちゃ)


 アルス兄さんやバイト兄さんの使っている魔法が欲しくなかったと言ったら多分嘘になる。

 けど、そのことを気にしても仕方がない。

 【瞑想】や【武装強化】のまねはできたんだし、ほかのことも自分で覚えよう。

 そう考えを切り替えて、僕はこれからのことについての準備を進めることにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アルスは継承しちゃったから名付けても呪文化したやつはもらえないのではー? 単にその辺の情報を知らないだけなのか
[気になる点] まだあの駄剣使わせるんだな。親ならろくでもないこと吹き込みそうなインテリジェンスアイテムなんて処分して別の剣渡してやりそうなものなのに。
[良い点] 兄様は、居たのだろうか? 居ないとの、表現は無かったので 藪の中か リリーナ様から、洗礼を受けたとなると 生活魔法以外は、自分っで作った魔法しか使えない?
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