選択肢の提示
「何を言っているの、アルス! この子のことを放り出す気なの?」
アルス兄さんの言葉を聞いて、真っ先に母さんが声を上げた。
僕は言われたことがすぐにはのみこめずに息を詰まらせている。
父さんのほうをちらりと横目で見ると、顎に手を当てて考え込んでいた。
「しょうがないでしょ。っていうか、今回の件は、母さんも悪いよ。なんであっさり教えちゃうのさ」
「それは、この子が聞いてきたから……」
「いや、聞かれたくらいで教えないでねってずっと言ってたでしょ。子どものアルフォンスにとってもつらい事実だし、なにより、それを利用する輩は必ず出てくる。そもそも、忌み子として扱われることにもなるんだ。情報っていうのはどうしたって漏れるものではあるからね」
「待って、アルス兄さん。母さんを責めないで。僕が無理やり聞き出したんだよ」
そうだ。
あの時、母さんは僕に教える気なんてなかったはずだ。
多分、【威圧】を使ったのがよくなかった。
母さんはごく普通の一般人だ。
それが魔装兵にすら通用する魔力の衝撃を受けたことで、質問に答えてしまった。
母さんは悪くはない。
「ん、そうだな。母さんを責めるのはお門違いだったな。これまでアルフォンスを育ててくれただけでも感謝しきれないくらいだし。悪かったよ。けど、お家騒動が起こる可能性は否定できない。というか、忌み子と知られるのはかなりまずい」
「その、さっきから言っている忌み子ってなんなの?」
「ああ、それを言っていなかったか。アルフォンスはアルフォードと同時に生まれてきた双子なんだよ。で、旧来の忌まわしき風習とでもいうか、双子は悪いものとして扱われるところがあってな。双子そのものが忌み嫌われるし、双子を生んだ母親も悪者扱いされることがある。さらに、それを隠していた俺も、その忌み子が当主になっているバルカ家そのものもどうなるかわからんってことになる」
「……双子。それだけで、そんなに悪く言われるんだ……」
「俺はそんなこと全然思わないんだけどな。ただ、残念ながらそう思う奴もいて、数も多い。だから、双子として生まれてきたお前たちを生後すぐに引き離すことになったんだよ」
情報量が多い。
まさか、自分の生まれを問うただけでこんなことまで聞かされるとは思ってもいなかった。
これだったらまだ、僕はアルス兄さんと同一人物だった、なんて話を聞かされたほうがおもしろかったかもしれないと思ってしまう。
そんなことを考えていると、ずっと黙っていた父さんが言葉を発する。
「しかしな、アルス。だからといって、この国に帰ってくるなってのはちょっと酷だろう。もしかして、アルフォンスはずっとブリリア魔導国に留学していろってことか?」
「それも一つの方法だね。アルフォンスには選ばせてやるよ。一つは、この国に留まることだ。ただ、その場合、お家騒動が起こらないように謹慎してもらうことになると思う。あんまり人と会わないように隔離しての生活になるな。もちろん、戦に参加するために戦場に出たりってのもできない」
「そんなの嫌だよ」
「だろ? で、もう一つの選択肢はさっき父さんが言ったようにブリリア魔導国に留学し続けることかな。シャルルお姉さまとの交渉次第だけど、交換留学を続けることにして、そのまとめ役として向こうで留学生を束ねる役目を負うか、だ」
「うーん……」
「で、逆に聞くけど、アルフォンスはなにかやりたいことがあるのか? それ次第では、その希望に沿うようにこちらも動くことができるかもしれないけど」
そう言われても困るな。
急に聞かれても、自分がしたいことなんてよくわかっていない。
いきなり国を出ろなんて言われるとは考えていなかったからだ。
だけど、アルス兄さんは結構あっさりと決断を下すことがある。
ここで自分の思いを伝えないと、あるいは本当に隔離生活で自由がなくなることだってあるかもしれない。
……そうか。
そう考えると、僕が一番いやなのは自由がなくなることだ。
ここがどんなに住みやすい場所でも自由に行動できないのは絶対に嫌だ。
それを考えると、ブリリア魔導国で交換留学生たちの面倒を見るだけの生活も嫌だ。
「……強くなりたい。僕は強くなって、アルス兄さんやバイト兄さんたちみたいに戦場で活躍したいんだ」
「なるほど。だったら、こうしようか。お前、本当に戦いに行ってみるか?」
「え? それって、天空王国の兵としてどこかの戦場に行くってこと?」
「ちょっと違うかな。この国とは一切関係ない傭兵として、戦場に行ってみる気はあるか、アルフォンス」
「傭兵……」
「そうだ。報酬をもらって戦場をかける戦士。なんかめちゃくちゃ鍛えてるみたいだし、そういう選択肢もありと言えばありだろうな」
「やる。面白そうだね、それ」
「よし、決まりだな。なら、お前はこれから傭兵だ。つっても、フォンターナ連合王国やその周辺で活動はできない。お前の活躍が知られたら、それを利用する奴が出るからな。だから、行先は東方の小国家群だ。あそこにあるオリエント国の外交官バナージから泣きつかれていてな。助けてくれ、戦力を送ってくれって言われていたんだけど、お前が行ってくれないか、アルフォンス?」
「わかった。僕、行ってくるよ、アルス兄さん」
まさか自分が傭兵になるとは思いもしなかった。
けど、自由を奪われて暮らすよりも面白そうだ。
こうして、僕はアルス兄さんの提案を受け入れたのだった。
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