親と子と
「ねえ、母さん。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「どうしたの、アルフォンス。あらたまってそう聞かれるとちょっとドキドキするわね。なにかしら?」
「…………僕って、母さんの子どもじゃないの、かな?」
実家の食卓で、向かい合って座る母さんに向かって本題を切り出した。
僕の緊張が伝わったのか、母さんも真剣に聞く姿勢になってくれている。
そこで、ようやくこれまで誰にも聞けなかったことを聞くことができた。
だけど、母さんは答えない。
いや、答えられないのか?
驚いて口に手を当てて止まってしまっている。
「本当のことを教えてほしい。僕って本当にこの家の子どもなの?」
だからもう一度尋ねた。
ただ、今度はさっきの質問とは少し違う。
一度目はただ単に聞いただけだ。
だけど、今回は【威圧】も一緒に使った。
質問と同時に鋭くとがった魔力の針を母さんの心臓の位置めがけて放つ。
本来は戦うために作り出した【威圧】だけど、これをすることで心理的な圧力をかけて答えてもらえないかと思ったんだ。
そして、それはどうやらうまくいったらしい。
びくっと体を震わせた母さんが口を開いて声を発する。
「……どうしてそう思うの?」
「人に聞いたから。でも、確かな話ってわけじゃないみたいで、本当のことなのかわからなかったんだ。だから、アルス兄さんには聞けなかった。だって、その話はアルス兄さんが深くかかわっているってことだったから」
「そう。もしかしたら、こういうときがいつかくるかと思っていたわ。あなたが真実を知る日がくる、と。でも、まさかこんなに早いなんてね……」
「じゃあ、やっぱり?」
「待ちなさい。ここから先の話を本当に聞きたいの、アルフォンス? これを聞くと、あなたは今後どうなるかわからないのよ?」
「……知りたい。本当のことを教えて、母さん」
「わかったわ。それじゃあ、言うわね。あなたはアルスの子どもなのよ」
「……え? 子ども? アルス兄さんの?」
「そうよ。アルフォンスはアルスの子よ。けれど、事情があってあの子の息子としては育てられなかった。だから、こうして私たちに預けられたの。自分の兄弟として育ててほしいと言ってね」
あれ?
そうなのか?
なんか、ノルンのいう話と違うような気がする。
いや、僕がアルス兄さんの子どもだっていうのもなかなかに大きな衝撃ではあるんだけども。
けど、それ以上に今まで想定していたことと違って、何と言っていいのか、わからなくなってしまった。
「本当なの? 僕ってアルス兄さんの子どもで間違いないの?」
「ええ、そうよ。正直、この話をあなたに言うつもりはなかったんだけどね。あまりにも真剣に聞かれて、どうしても答えてあげなければならない気がしたから。だけどね、アルフォンス。これだけは信じてほしいの。私たちはみんな、あなたを愛しているの。けっして、あなたのことをないがしろにして親子の関係を引き離したりしたわけではないのよ」
「あ、うん。別にそれはいいんだけど……」
「本当に? 無理して強がらなくてもいいのよ。あなたはまだ子どもなのだから、つらいときには泣くことも大切だと私は思う。いえ、怒ってもいいのよ」
「ううん。大丈夫。そうか、子どもか。僕はアルス兄さんの弟じゃなくて子どもだったんだ……」
なんだよ。
ノルンが変なことを言うから本気で悩んじゃったじゃないか。
正直、驚いたといえば驚いたけど、まだお前はアルス兄さんの子どもだって言われたほうが納得できる。
そうか、僕はあのアルス兄さんの子どもだったんだ。
不思議とその言葉が自分の体に染み渡っていくような気がした。
「いやー、ごめんね、母さん。僕はてっきり勘違いしていたみたいだよ。っていうか、騙されたって感じかな。聞いた話だと、僕はアルス兄さんに造られた、なんて内容だったからさ」
「造られた? どういう意味なの、アルフォンス? 子どもは授かるものであって、造るなんて言葉を使うものじゃないわよ」
「そうだよね。なんか、アルス兄さんの体をもとに、そっくり同じ体を造ったのが僕だ、なんて言われてさ。びっくりしちゃうよね」
「当たり前じゃない。そんな方法があるわけないしょう。そんなこと、できっこないわよ」
僕の言葉を聞いて、母さんが笑い飛ばす。
……けれど、それを聞いて引っかかってしまった。
本当にできないのか?
だって、アイはそのことについて禁則事項として設定されている。
これは間違いないと思う。
であれば、前も考えた通り、同じ体を造ること自体は方法として存在するはずだ。
だけど、それを母さんは知らない。
「できるとしたら?」
「え?」
「同じ体を造る方法はある、みたいなんだ。そして、それはアルス兄さんやカイル兄さんは知っている」
「……ちょっと待って。それは嘘じゃないのね、アルフォンス?」
「うん。間違いないと思う」
「わかりました。今からお城にいきましょう。私からあの子に話を聞きます。ついてきなさい、アルフォンス」
和やかに終わりそうだ。
そう思っていたが、僕の言葉を受けて母さんが立ち上がった。
その顔は真剣そのものだ。
寝室で寝ていた父さんをたたき起こして、バルカ城へと向かう準備をすぐに始めた。
こうして、僕が自分では聞けなかったことを代わりに問い詰めてやるという感じの剣幕の母さんを先頭に城へと向かったのだった。
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