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氷精剣

「驚いたな。 その剣は魔法剣なのか……。それに身体能力も尋常ではない。どうやったのだね?」


「あんたには関係ないよ。それより、えらく余裕みたいだね」


「ふむ。いや、正直に言うと想定外のことばかりで余裕はないのだがね。アルス、君を生け捕りにしようと考えてここまでおびき出したのは失敗だったようだ」


 バイト兄のことはバルガスにまかせて俺はレイモンドのもとに向かった。

 それほど距離をとっていたわけでもなく、すぐに話が可能なくらいの距離にまで近づくことができた。

 そこでまたもやレイモンドがこちらに向かって声をかけてくる。


 今度も時間をかけて他の騎士を周りに配置するのか。

 そう思ったがどうやらそうではないらしい。

 そばに数人の騎士が従っているが、それらは動かずレイモンドだけが口を動かしている。


 それにしても、俺が突撃を開始した際に慌てたように軍内へと引き返していったのは、俺をおびき出すためだったらしい。

 まあ、それも確かに有効だったのだろう。

 俺が見た目通りの子どもだったら、さらにバルカ村の連中がもっと弱くて前線で押し戻されていればだが。


 言外に逃げたわけではない、と主張するレイモンドの発言はうかつに虚勢を張っていると判断するべきではない。

 というのも、農民兵より魔力量が多い騎士たちよりもさらにレイモンドの魔力は多いのだ。

 さすがにフォンターナ家で家宰を務めているというだけはある、と言えるか。

 頭がいいだけでは騎士たちをとりまとめることなど不可能だろう。

 実力を兼ね備えていると考えておくべきだ。


 それに気になることがある。

 それはレイモンドが持つ剣だった。

 やつは俺が持つ硬牙剣を魔法剣だと言っている。

 だが、それはやつのもつ剣も同じなのではないだろうか。

 レイモンドの持つ剣の表面が青白く光っている。

 ただの金属の剣だとは思えない。

 それは俺の視覚からもわかった。

 剣自体にものすごい魔力があるのだ。

 それこそ、硬牙剣以上の魔力を帯びている。

 あれは危険だ。

 俺の勘がそう告げている。


「私は最後の忠告を君にした。だが、アルス、君はこちらに刃を向けた。それはフォンターナ家の顔に泥を塗るようなものだ。決して許されることではない。残念だがここでお別れだ」


 レイモンドが何やら言いながら手に握る剣を両手で持ち、構える。

 それを見て、俺は再度硬牙剣に魔力を注入した。

 俺がすることは変わらないのだ。

 ここでレイモンドを倒す。

 太陽の光を反射する剣を持つレイモンドに向かっていったのだった。




 ※ ※ ※




 一撃必殺。

 俺は最初の一撃にすべてを賭けるかのように硬牙剣へと魔力を注ぎ込んだ。

 可能な限り硬化の能力を発揮させる。

 そうして硬くなった硬牙剣でレイモンドへと切りかかったのだ。

 レイモンドの持つ剣をへし折り、そのまま切り倒す勢いで。


 だが、それは叶わなかった。

 俺の硬牙剣がレイモンドの剣とぶつかり合い、そして相手の剣を砕いたにもかかわらずにだ。


「氷……、氷の剣か!」


「ははは、氷精剣の力をとくと見よ!」


 俺が砕いたと思ったのは剣そのものではなく、剣から伸びた氷の部分だったのだ。

 氷精剣、それがレイモンドの持つ剣の名のようだ。

 おそらく硬牙剣と同じような効果として、魔力を注ぐと剣身に氷を生み出すのだろう。

 それもただの氷ではない。

 するどい切っ先を持ち、相手を切ることが可能な氷の剣。

 それが本来の剣の長さ以上に延長されるかのように生み出されていたのだ。


 まずい。

 ただでさえ子供の俺はリーチが短いのだ。

 だと言うのに、相手の剣はどんどんと伸びている。

 全力で振るう硬牙剣とぶつかりあえば、その氷を砕くことが可能なのだがそれもすぐに戻ってしまう。

 このままではジリ貧だ。


 そう思っているときだった。

 何度めかの切り合いの中で、俺はレイモンドの突きを防ぎきれなかった。

 もっとも、俺の体に当たったのではない。

 俺が騎乗している使役獣にその切っ先が突き刺さったのだ。


「キュー!!」


 刺さった場所も悪かった。

 後ろ足の腿の部分。

 そこに氷の剣が突き刺さり、ガクンと使役獣の態勢が崩れる。

 と、そこへレイモンドからの強烈な振り下ろしがやってきた。


 硬牙剣を頭上に掲げてなんとかその攻撃を防ぐ。

 だが、その一撃で完全に力負けした。

 俺は真上から重力を味方にした振り下ろしの威力によって使役獣の背中から落とされたのだ。


 強い。

 レイモンドの強さが思った以上にある。

 それは単に氷精剣という魔法剣の存在だけにとどまらない。

 魔力で強化している俺と平気で打ち合っているのだ。

 この世界ではこんなバカげた超人が存在する中で戦争をしているのか。

 よく今まで父さんは無事だったなと思ってしまう。


 だが、そんな悠長なことを考えている時間はなかった。

 地面へと落ちた俺がなんとか起き上がったタイミング。

 そこに使役獣に騎乗したレイモンドがさっそうと近づいてきていたのだ。

 あれは俺が献上したときのヴァルキリーの一体だろうか。

 その上に乗ったまま、ヴァルキリーの疾走スピードを剣に乗せるようにして剣を振るう。

 すでに氷精剣が生み出す氷の剣の長さはかなりのものになっていた。

 避けきるのも、防ぎ切るのも不可能だ。


「散弾!!!!!」


 だから、俺は回避を捨て攻撃に転じた。

 狙うのはレイモンドではなく、レイモンドが騎乗するヴァルキリーの足だ。

 ヴァルキリーの足の速さは嫌というほど知っている。

 毎日乗っているのだから当たり前だ。

 魔力を込めた眼でスローに見える相手の動きにあわせて、レイモンドの騎乗するヴァルキリーの右前足が地面につくタイミングで散弾を命中させた。



 大猪のような防御力はヴァルキリー種には存在しない。

 高速で移動していたヴァルキリーは、いきなり右足に飛来物がぶち当たったことで躓く格好となる。

 さらに氷精剣の長さが伸びていたことも影響を与えた。

 長くなった得物を横薙ぎに振っていたところに機動の要であるヴァルキリーが態勢を崩して、氷の剣の切っ先が地面へと当たったのだ。


 ドン、という音とともにレイモンドが騎乗していたヴァルキリーが転倒する。

 当然それに乗っているレイモンドも地面へと投げ出された。

 これで状況は五分に戻った。

 片方だけが使役獣に騎乗するという最大の攻撃チャンスを逃したレイモンドに向かって俺は駆けていったのだった。

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