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魔剣の切れ味

(おい、小僧。この別嬪さんはなんだ? 人間じゃないな。血の匂いがしないぞ)


(うん、アイは人間じゃあないよ。神の依り代っていう人型を操っているんだ)


(ほう。そんなものが現代にはいるのか。変わった世の中になったもんだな)


 アイと合流して、再び迷宮の中で歩く。

 そんなときに、ノルンが思念を送ってきた。

 頭の中でノルンの言いたいことが聞こえてくる。


 それにたいして、僕も頭の中で返事をした。

 最初は口に出して話をしていたけれど、魔剣ノルンを手にしている間は僕も思念で会話できると教えてくれたからだ。

 よかった、と思う。

 そうじゃないと、剣と話している姿をアイに見られていたかもしれないからだ。

 いきなりそんなことをしたら、さすがにアイに僕が変になったんじゃないかと思われてしまいかねない。


 それとは別に、思念での会話はアイには聞こえていないということが分かった。

 僕が歩きながらノルンと頭の中で会話をしていることに、アイは全く気が付いていない。

 そんなことを確認しながら、気配を感じていた魔装兵に接敵する。

 相手は盾を持つ鉄の騎士だ。


(大丈夫かな? 本当に折れたりしないんだろうね、ノルン)


(……わからんな。小僧の血で多少飢えがマシになったが、まだ全然血が足りない。ただ、使い手の剣の腕前が十分にあれば、あの程度の相手は斬れるだろうがな)


(要するに、僕の腕があれば鉄の騎士相手でも折れないってことなんだよね。わかった。なら問題ない)


 鉄の騎士を前にして、最後の確認をする。

 何百年も放置されていた剣であるノルンが本当に実戦に耐えうるのか心配だったからだ。

 ただ、それはノルン自身にもわからないらしい。


 多分、ギリギリなんだろう。

 まったくの素人が力で叩き切ろうとしたら、折れてしまってもおかしくない。

 けれど、適切に使えば鉄の騎士相手でも十分斬れる。

 であれば、問題ない。

 それはつまり、鉄の騎士を斬ることができれば僕の剣の腕前が十分にあるという何よりの証明になるのだから。

 まあ、折れたら折れたで別にいいけど。


(おい、何言ってんだ。折ったら許さんぞ。小僧の血を全部飲み干してやるからな)


 僕が考えていたことがノルンには聞こえていたんだろう。

 そんな抗議の声を脳内に響かせているのを無視して動く。


「僕が出る。アイは援護の姿勢で待機」


 そういって、全身に魔力を流動させつつ、鬼鎧も強化した。

 魔力を使って鬼鎧を強化することで身体能力を引き上げる。

 子どもの体格からは考えられないような力強さを引き出して鉄の騎士へと走り寄る。


 僕の動きを見て、相手も盾を構えた。

 いつも通りの動きだ。

 一体しかいない盾持ちの鉄の騎士。

 その動きは体の前面に盾を構えて重心を低くする。

 そうすることで、体のほとんどをその鉄の盾で守ることができ、攻撃を防いで反撃してくる。


 硬牙剣ならばその待ち構える盾にたいしてでも攻撃をしていただろう。

 それでも折れる心配がなかったからだ。

 ただ、さすがに血が不足しているというノルンでそれはできなかった。

 なので、まずは鉄壁の守りを無効化する必要があった。


 盾を構えて待つ相手の前まで走り寄っていた僕が、相手の盾の前で急停止をする。

 ピタッと止まった僕を見て、若干戸惑った感じを出すものの、鉄の騎士はそれに対処するための行動に出た。

 盾による攻撃だ。

 目の前で止まった僕にたいして盾による体当たりの攻撃を行う。


 だが、それはもちろん誘いのための行動だった。

 これまでの戦いで鉄の騎士への対処はある程度つかめていた。

 とくに、一対一であれば最近はこうするようにしていた。

 相手の戦術は基本的にこちらの動きを見てからの反撃という形になる。

 つまり、こちらが隙を見せれば攻撃してくるのだ。


 大型の鉄の盾で守られた鉄の騎士は防御力が高く手間取ることがある。

 ただ、その鉄壁の守りは相手が攻撃しようとしているときには崩れることにもなる。

 あえて、こちらが隙を見せて攻撃を誘うことで、相手の守りを解除する狙いだった。


 目の前に迫る大きな盾。

 その視界すべてを覆うような分厚い鉄板が迫りくるのを、僕は冷静に見ていた。

 体重をのせて突き出されたその攻撃を、可能な限りギリギリまで引き付けて、それから躱す。

 鬼鎧によって強化された肉体をさらに下半身に魔力を多く送ることで、瞬発力を上げて回避する。

 盾が当たる直前に、ひらりと躱し鉄の騎士の脇腹へと潜り込むように移動した。

 そして、魔剣ノルンを突き出す。


 無理な力を入れずに、自然な動作でスッと差し出すようにして突きを放つ。

 狙ったのは盾を突き出して攻撃している最中の鉄の騎士の股関節だ。

 体を支える足と胴体の付け根にたいして攻撃を放つ。


 魔剣の切っ先が鉄の騎士に当たった。

 もしも硬牙剣ならばそこで抵抗を感じただろう。

 ただ、今回はなにも抵抗を感じなかった。

 攻撃が当たらなかったわけではない。

 股関節のつなぎ目に触れた剣の先は、一切の抵抗なく、その部分を貫いていたのだ。


 驚いた。

 ノルンが心配していたから、てっきりもっとなまくら状態なのかとばかり思っていた。

 ただ、実際にはそうではない。

 恐るべき切れ味をこの魔剣は持っている。


 自分の体を支えるべき関節を破壊されて、ガクンと体勢が崩れ落ちる鉄の騎士。

 その鉄の騎士にさらに攻撃をする。

 魔剣ノルンが鉄の騎士を蹂躙していく。

 結局、鉄の騎士を倒すまでになんども攻撃したにも関わらず、刃こぼれ一つすることなく倒し切ることに成功した。


 いいね、これ。

 使えるじゃん。

 ノルンの切れ味を見て、僕はこの魔剣が当たりだと確信したのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 別嬪さんという言及から視覚情報を取得できる光学センサーでもついているのか、話し言葉からそのように認識しているのか、魔剣(仮)の機能が気になる。
[一言] >> いいね、これ。  使えるじゃん。  ノルンの切れ味を見て、僕はこの魔剣が当たりだと確信したのだった。 ノルンもアルフォンスに対してそう思ってる事でしょうね
[良い点] >いいね、これ。 >使えるじゃん。 意思を持っていて対話ができる相手だろうが、それはそれとして「これは物」として扱うし、常識外の存在にも流されない この精神性は親父に似ている
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