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煽り耐性

「僕はアルフォンス。君はなにか名前があるの?」


(名前だと? さあな。今まで俺を使った連中は何人もいたが、それぞれ勝手に名前を付けて呼んでいた。お前も好きに呼べばいい)


「ふーん。そうだなぁ。じゃあ、ノルン。お前のことはこれから魔剣ノルンって呼ぶことにするよ」


 拾った剣と話をする。

 知らない人が見たら僕の頭がおかしくなったのかもしれないと心配するかもしれない。

 が、こいつは間違いなく会話ができる相手だった。

 そんな魔剣を僕はノルンと名前を付けた。


「それで? ノルンはなんでここに埋まっていたの?」


(ああ? 決まってんだろ。前の持ち主がここで死んだからさ。強い相手と出会って、あのバカは大技を使いやがった。こんな狭いところであんな攻撃をすればどうなるかなんてわかるもんだろうにな)


「ああ、なるほどね。それでここは崩れていたんだ」


(そういうことだな。で、おかげで俺様はこうしてここでお寝んねってわけだ。おい、小僧。今はいつだ? 俺様は何年ここに埋まってたことになるんだ? まだブリリアって国はあるのか?)


「えっと今はガロード暦6年だよ。ブリリア魔導国はもちろんある。この迷宮を管理しているのは、ブリリア魔導国だしね」


(知らない暦だな。まあ、俺様の魔力が枯渇するまで放置されてたんだってことは、数百年は経っているんだろうな)


「え、ノルンってそんなに古い剣なんだ。……大丈夫かな。使ったら折れたりして」


(怖いこと言うなよ、小僧。ただ、まあその可能性はあるわな。俺様はかつては最強の剣だったが、今となっちゃ魔力が全然ない。使い手がへぼなら、簡単に折れちまうかもしれないな)


「ふーん。じゃあ、使えないね」


(おい、なんだって? 今、聞き捨てならないことを言いやがったな。俺様が使えないだと? ふざけたこと言ってんじゃないぞ)


「だってそうじゃないか。簡単に折れるくらいなら、この硬牙剣のほうがよっぽど使い勝手がいいし」


(へっ。なんだそんな剣。見たところ、魔物の素材からでも作った剣だろうが、そんなちんけな剣に俺様が負けるはずないだろう。血さえもっとあればそんな剣よりよっぽど強いぜ、俺様はよ)


「ほんとかなぁ?」


(……まあ、ガキには俺様のすごさがわからんだろうな。どうせ、まともに戦い方すら知らないんだろう? そんな小僧がただの折れにくい剣のほうをありがたがるのは当然か)


 ノルンのその言葉を聞いて、カチンときた。

 戦い方を知らない?

 それは、これまでの僕の訓練とそれに付き合ってくれたアイに対しての侮辱でもある。

 それを聞き流すことはできない。


「そんなに言うなら使ってやるよ、ノルン。ここを出て、魔装兵と戦ってみよう。ほら、飲めよ。僕の血をもう少しやるから、魔力不足で力が出ませんでした、なんて言わせないぞ」


(ほう。本気か、小僧? まあ、いい。血をくれるってんなら遠慮なくいただこうか。小僧の血は魔力は少ないが質がいい。久々に飲む血としてはなかなか上等だからな)


 そんな血の品評はいらない。

 そう思いながらも、僕はまだ血がにじんでいた指を再び剣身へと押し当てて、ノルンに血液を提供した。

 指から出た血は量そのものはそんなに多いはずじゃない。

 ただ、血が付いたらノルンはまるでドクンドクンと脈動するかのように震えて血を取り込んでいく。

 赤黒い剣が血の付いたところを中心に少しだけきれいな赤色になっていった。


 やっぱりこの色は血が変色したものなんだろうか?

 そんな風に思いながらも、僕はノルンに剣の実力を見せつけるためにも、魔装兵と戦うことに決めた。

 再び通ってきた狭い穴を匍匐前進で通って、元の通路へと戻っていったのだった。




 ※ ※ ※



「お帰りなさいませ、アルフォンス様。危険はありませんでしたか?」


「うん。大丈夫だよ、アイ」


「そうですか。……いえ、指を怪我しているのではありませんか? それに、その剣は?」


「えっと、指は大丈夫。たいしたことないから平気だよ。それで、この剣はこの穴を通った先の行き止まりで見つけたんだ。土の中に埋まっていたらしい。多分、だれも来ない間中、ずうっと放置されていたんだと思う」


「そうですか。でしたら、いい剣なのかもしれませんね」


「え、そうなの?」


「はい。迷宮の中には時折、かつて迷宮に入ったまま長年残された品が回収されることがあると聞きます。その場合、その品には不思議な効果が付くこともあるとか。例えば、旧パーシバル領にあった迷宮などでも古い鞄が魔法鞄として発見されています」


 あ、そうか。

 そういえば、聞いたことがあった。

 迷宮の不思議な話だ。


 迷宮という魔力濃度の高い特殊な場所では魔石などが手に入ることがある。

 それとは別に、不思議な道具が見つかることもあるんだった。

 魔法鞄のように、見た目よりもたくさんの量の荷物をいれられるものがあったり、あるいは装備品もそうだ。

 迷宮街の迷宮では、迷宮の中で死んだ探索者の装備がのちに発見されて、もともとの装備よりも高性能になっていたというのも聞いたことがある。


 ただ、それは迷宮内に置かれた期間で変わるともいう。

 短い期間で発見されれば、元の装備とほとんど変わらない。

 ある程度長い期間なら、迷宮の魔力を取り込んだりして、攻撃力の高い剣になったり、防御力のある盾が手に入ったりすることもある。

 そして、さらに長い期間であれば特殊な能力がついたりとかだ。


 だけど、そのことを考えるとノルンはどうなんだろう。

 自己申告では数百年はこの魔導迷宮に取り残されていたんじゃないかって話だった。

 ただ、その間に血がなくなって魔力がすっからかんになったという。

 迷宮の魔力を取り込んだりはしなかったのか?

 それに、あの話ぶりだと血を吸ったり、思念を飛ばして話しかけてくるのはもともとあった能力っぽい。

 本当に、長い間この迷宮に放置された剣なんだろうか?


 けれど、変わった剣であるというのは間違いだろう。

 それになにより、僕を煽ってきたことを忘れていない。

 こいつには、僕の力を見せてやらないとね。


 こうして、アイと再会した僕は帰り道を多少外れているけれど近くに気配を感じた魔装兵と戦うために、そちらへと向かって移動することにしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最強の剣 吸血系 ド素人が技ぶっパ可能 ……ナージャ系列くせえ
[一言] なるほど血じゃないとダメだから迷宮の魔力ではどうにもならんのか。 好き嫌いする子は大きくなれないね。
[一言] 魔導兵は切っても血が吸えないねww 魔力だけでも吸えるのかな? 今宵のノルンは血に飢えておるわww
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