魔剣
「剣? こんな所に何であるんだろう。もしかして、誰かがこの崩れた壁で生き埋めにでもなったのかな?」
掘り起こした赤黒い剣を見ながら、かつてここであったのかもしれない出来事について考える。
小さな穴を通ってここまで来たけれど、ここの通路は多分かつてはどこかの道と通じていたんだろう。
けれど、なんらかの理由で崩れてしまい、隠れた存在となってしまった。
もしかしたら、その崩れた時に人がいたのかもしれない。
そして、生き埋めになった。
あるいは、剣を捨てて必死に逃げ延びたのかもしれない。
どういう理由があってここに剣が残されたのかはわからないけれど、とにかくこの剣はここに埋もれて、だれにも見つかることなく土の中にあったのだろう。
そんなところに僕がやってきた。
僕が体の小さな子どもであったからこそ、あの小さな穴を通ってやってこられた。
そんな偶然はなかなかないんじゃないかと思う。
だから、ここで見つけた剣が気になるのだが、いかんせん色が悪いように思う。
金属剣の剣身部分が赤黒いのだ。
その色合いが、まるで血がこびりついて変色したかのような感じだった。
もしかして、血でも付いたまま放置され続けたんだろうか?
なんだか不気味な感じがする剣みたいに思える。
(…………血を)
「え? なんだ、今の……。気のせいかな?」
そんな時だった。
土に埋もれていた剣を拾い上げて手に持っていた時、なにかの声が聞こえた気がした。
いや、そんなはずはない。
魔力を耳に集めて周囲の状況を警戒し続けていた。
少なくとも、この場に誰かがいる気配は一切していなかったはずだ。
(……血を、血が欲しい)
「なんだ? また聞こえたぞ。声じゃない、のか? 誰だ? どこにいる」
思わず声を上げて叫んでしまう。
あたりをキョロキョロと見渡して視覚も使って周囲を確認する。
だが、だれもいない。
……ということは、こいつか?
今、僕に話しかけてきたのはもしかしてこの剣なのではないだろうか?
自分の持つ赤黒い剣。
こいつが話しかけてきたんじゃないかと思ってしまう。
あり得ない、こともない。
世の中にはしゃべる剣なんてものが存在していてもおかしくない。
アイだって人間ではないけれど話をする。
僕は理解できないけれど、カイル兄さんの契約している高位精霊というのも言葉を操るらしい。
そういう意味では、この剣も話をするのかもしれない。
もっとも、どう考えても口を使って話しているわけではないが。
【念話】みたいなものなのかもしれない。
リード家の人は【念話】を使って言葉を使わずに話をするらしい。
それと同じことをこの剣がしてきたんじゃないだろうか。
「……面白いな。こんなこともあるんだね。いいよ、僕の血をあげるよ」
さっきから僕に話しかけてきているのは、おそらくはこの剣だ。
剣が血を求めている。
普通に考えて怖い話だ。
けれど、僕はこの剣に血を与えてみることにした。
理由はない。
ただ、面白そうだというだけだ。
初めて入った迷宮で何日も戦い続けていて、自分でも知らないうちに気が大きくなっていたからかもしれない。
なんとなくやってみよう、という気軽さで僕は剣に血を与えることにした。
といっても、この拾った剣で自分の肌を切りつけるのはさすがに嫌だった。
なので、硬牙剣の切っ先を親指の先に当てて皮膚を切り、血をにじませる。
その指の血を変な剣の剣身に擦り付けるようにして付着させた。
(血だ! 生きのいい血だ。もっとだ、もっとよこせ、小僧)
「あ、やっぱり僕に話しかけてきたのは君だったんだね」
(こっちの思念が聞こえているんだな。はやく、もっと血をくれ。もっともっとだ)
「やだよ。これ以上、血が欲しいんなら条件がある。君のことを聞かせて。なんで血が欲しいのさ」
(決まっているだろう。魔力だ。俺様は生き血をすすって魔力を得る魔剣だ。それがこんなところで土に埋もれて、もうどれくらい長い時間がすぎたかわからない。魔力が底をついているんだよ)
魔剣?
魔法剣とかじゃないのか。
なにか違うのかな?
まあ、それはともかくとして、こいつは魔剣で血を吸って魔力をため込む性質があるみたいだ。
ということは、血を吸わなければ危険性は少ないのかもしれない。
……お預けかな?
いくら僕でも、これ以上自分の血をよくわからないものに与え続ける気はない。
とりあえず、話を聞いてみよう。
こうして、僕は迷宮で拾った風変わりな剣と話をすることにしたのだった。
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