穴
「あれ? こんなところにこんなものってあったっけ?」
迷宮を出る。
そう決めた僕たちは移動を開始していた。
どうでもいいけど、今更になってアイがいてよかったと思う。
というのも、もう何日も迷宮内にいたことによって僕は今自分がどこにいるのかがわからなくなっていたからだ。
もともと山にある坑道を魔法陣の研究施設にした場所へと迷宮核が持ち込まれて迷宮化したここは、内部が迷路のように入り組んでいた。
右に左にと何度も何度も折れ曲がるようにして、道が分岐をしている。
しかも、中の通路はかなり長い距離があった。
そのため、迷宮内に入って迷子になる人もいるのだとか。
ブリリア魔導国では一応そのために対策もとっている。
通路の壁に札を取り付けたりしているところが時たまあり、その札には番号や記号が書き込まれているのだ。
それを見ればおおよその位置が分かるようになっていて、番号の数値が少ないほうに向かえば出入り口に近づいているということでもある。
が、どうやらアイはそんな札を見ずとも現在地を把握していたようだ。
これまで通った道をすべて把握しており、アイを起動した場所までの最短経路を教えてくれた。
そこから出口までならある程度覚えている自信がある。
そうして、アイが先導する道をついていくだけで、迷うことなく帰ることができていた。
そんな帰り道の途中で気になるところがあったために、僕は思わず口にしていた。
この道も前に通ったことがあったはずだけれど、その時には気が付かなかった。
通路の脇の下のほうに小さな穴が開いていたのだ。
「穴が開いていますね。どうやら、以前この道を通った時には気が付かなかったようです。見えづらい角度ですから」
「そうだよね。僕も逆方向から歩いてきたから気が付いたんだと思う。……この穴、通れそうじゃない?」
「ここをですか? かなり狭い穴ですが、確かにアルフォンス様の体の大きさならば通れるかもしれませんね」
迷宮の通路は別にレンガで壁を作って固めたようなしっかりしたものじゃない。
壁はでこぼこしているのが当たり前という感じだ。
だからだろうか。
その壁の下のほうに小さな穴があったが、前に通ったときにはその手前の少し突き出た壁が邪魔でその穴に気が付かなかったようだ。
入り口の小さな穴。
けれど、その穴のことが気になった。
中を覗き込むと奥のほうまで続いているように見える。
そして、わずかだけれど風の流れを感じた。
もしかして、どこかに通じているのかもしれない。
「ちょっと、この穴の先がどうなっているのか確認してきてもいいかな?」
「もう迷宮を出るのではないのですか? それに危険ですよ」
「そうだけど、ちょっと確認するだけだよ。すぐ戻ってくるから大丈夫」
「ですが、その穴は私は通ることができません」
「穴が小さいもんね。とりあえず、アイはここで待機しておいて。軽く穴の様子を見てきてすぐ戻ってくるから」
「わかりました。お気をつけて」
魔力を使って感覚を強化しても、この穴の奥から魔装兵や人の気配はなかった。
だから、僕は穴の前でアイを待たせておいて、そこを通っていくことにした。
地面に這うようにして匍匐前進しながら穴の中を通っていく。
これは確かに大人の体だったら通れないかもしれない。
というか、途中でさらに穴が狭くなっていたらどうしようかとも思った。
そうなった場合、この穴の中を逆方向に這うようにしてでなければいけなくなってしまう。
だけど、そんな心配は必要なかったようだ。
それなりに長い距離を這って進んでいると広い空間に出たからだ。
立ち上がって鬼鎧についた土をパンパンと払う。
そうしながら、周囲を確認した。
広い空間といっても、別にほかの通路にまで出たわけではないみたいだ。
いや、もしかしたら本当は通路があったのかもしれない。
なぜなら、穴の出口とは別の場所が土砂崩れのようになって壁となっていたからだ。
壁か天井が崩れて道をふさいでしまったんだろうか?
よく見てみると、その崩れた部分の上側にわずかな隙間が空いている。
そこから少しだけ空気の流れを感じた。
どうやらここはただの行き止まりのようだ。
かつては通れたのかもしれないけど、壁が崩れて道をふさいでしまい忘れられた場所なのかもしれない。
てっきりなにか隠し通路にでもなっているのかと、ひそかに期待していたのにな。
なんにもなくて、がっかりしてしまった。
まあ、いいか。
何もないことを確認できたので、穴を通って帰ろう。
そう思った時だった。
崩れて通路をふさいでいる土の中に、なにかがあるのが見えた。
赤いなにかが土に埋まっているのに気が付いた。
なんだろう?
無性にそれが気になったし、ここまで来たのだからと思って、そいつを掘り出してみることにした。
土砂がさらに崩れてきそうにないことを確認しつつ、その赤い何かを発掘する。
そうして出てきたのは剣だった。
赤黒い金属でできた剣。
硬牙剣よりも大きめの、どこか禍々しい感じもする不思議な剣を見つけたのだった。
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