盾持ちの実力
ゴクリ。
左手に盾を持ち、右手に剣を持つ鉄の騎士。
通称、男爵級などといわれるその魔装兵を相手を前にして、僕は無意識につばを飲み込んでいた。
強い。
それに隙がない。
こちらの姿を見た鉄の騎士が体の前へとその大型の盾を構えたところで、僕はそう思ってしまった。
成人男性と比べても大きい部類に入るだろうという鉄の鎧。
その鎧の体のほとんどを隠す分厚い鉄の盾。
その防御はまさに鉄壁という印象を与えた。
あの防御を突破して、僕は相手に攻撃を当てることができるのだろうか。
鉄の騎士の立ち姿を見て、そんなことを考えてしまっていた。
これは、今まで迷宮に入って戦ってきてあまり考えたこともないことだったと思う。
いつもならば、相手を目の前にすればとりあえず動こうという意思が勝手に出てきていたからだ。
じりじりと距離を詰め合うようなことがあっても、こちらが動くことに困るというようなことはなかった。
だけど、こいつは違う。
分厚い鉄の盾に体を隠した鉄の騎士を前にして、僕は動けずにいた。
ジリ。
しかし、そんなことは向こうには関係なかったようだ。
こちらが止まっているのにたいして、鉄の騎士は動く。
が、それは決して速い動きではなかった。
体の前に盾を構えて体を隠した状態で、少しずつこちらへと近づいてきたのだ。
足を大きく浮かして歩くようなことはせずに、すり足の要領でいつでもこちらの動きに対応できるようにしながら接近してくる。
そうか。
これが、こいつの戦い方なのかもしれない。
盾を構えてじっくりと腰を据えて戦う方法。
一気にこっちに向かって走り寄ってくるのではなく、防御を主体にして詰め寄る戦い方。
もしそうならば、僕はそれとは違う方法をとろう。
相手が速度を重視しないのであれば、僕は速く移動しながらの高速戦闘だ。
全身の魔力を流動させて、飛ぶように前に出た。
足を一歩前に出すごとに、体の各部の筋肉に送る魔力をたえず動かし続ける。
そうして、僕の持てる最大速度まで一瞬で引き揚げて、鉄の騎士へと躍りかかる。
大きな盾を構えていつでもこちらの攻撃を防げる相手にたいして、あえて盾の上から切りかかる。
ガキン、と大きな音がした。
だが、そこで止まることはない。
硬牙剣が盾に当たった勢いのまま、体を移動し続ける。
硬牙剣の剣身が大型の盾の表面をなでるようにしながら滑っていく。
そして、そのまま相手の右側を回り込むようにして背後へと移動する。
その勢いを殺さずに、そのまま攻撃動作に入る。
剣を左から右へと横なぎに振ろうとした。
ゾクッ。
だが、その攻撃を最後まで繰り出す前に、体中から寒気がした。
まるで、一瞬で全身の血液が冷えたかのような感覚。
まずい。
そう思って、攻撃を中断する。
その判断は正しかった。
なぜなら、こちらが剣を振り切る前にすでに相手は反撃に出ていたからだ。
こちらが鉄の騎士の体を回り込むようにして背後をとろうとしたのをみて、相手も振り返っていた。
その振り返る動作が間に合っていないと判断して攻撃しようとしていたのだが、実際はあのとき、向こうはすでに反撃体勢が整っていたのだろう。
振り向き際に、剣ではなく盾ごと僕に向かって体当たりをしてきたのだ。
いや、それは体当たりというのはおかしいのかもしれない。
鉄の騎士にとっては腕を伸ばして盾で殴りつけようとしただけかもしれないからだ。
だが、そんな盾による攻撃はまだ体が小さな僕にとっては体当たりも同然だった。
分厚い鉄の板が勢いよくこちらに突き出されているのだから。
慌てて振ろうとしていた剣を盾代わりに体の前方で横にして防御した。
が、その盾にはじかれて体ごと後方に飛ばされる。
「ガハッ」
幸い、吹き飛ばされたことによって大きな怪我というのはなかったらしい。
頭をぶつけたり、自分の剣で自分の体を傷つけたりはなかった。
だが、体を盾で叩かれたことで一気に体の中の空気を吐き出してしまった。
全身がジンジンする。
胸も強く打ったのだろう。
息を荒げて何度も空気を吸い込む。
鉄の騎士の動きが速くなくてよかった。
もしそうなら、今の吹き飛ばされた後に追撃をかけられていたかもしれない。
そうなっていたら危なかった。
だが、さっきの一連のやり取りで分かった。
大型の盾を持つ鉄の騎士は移動速度はあまり速くはない。
が、近接戦闘時には決して遅いわけじゃないのだ。
高速で体の周りを動かれて死角から攻撃しようとしても、瞬発的な速さを発揮して盾による体当たりのような吹き飛ばしの攻撃をしてくるのだろう。
完全に背後をとったと思ったにもかかわらず、完璧に対応されてしまった。
強い。
同じ魔装兵でも盾を持っているかどうかでここまで強さに違いが出てくるのか。
その厄介さを初めて体感して、恐ろしさを痛感した。
だけど、ここで終われない。
まだ戦いは始まったばかりだからだ。
呼吸が戻った体で硬牙剣を握りなおす。
そうして、鉄壁の防御を持つ魔装兵にたいして再び向かっていったのだった。
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