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迎撃

 周囲を取り囲んでいる騎士たちから攻撃魔法が放たれた。

 【氷槍】という氷柱を発射する遠隔攻撃を可能とした魔法である。

 俺の後ろにはバイト兄とバルガスの2人がいるが、後方からの攻撃はその2人に任せるしかない。

 俺はとにかく目の前から飛んでくる成人男性の腕くらいの長さと太さの氷柱に目を向ける。


 魔力を込めた硬牙剣。

 この剣は魔力を込めることで硬化の効果を発揮するため、氷柱ならば叩き落とすことができるだろう。

 問題はそれを確実にこなすことだ。

 氷柱が目の前に迫ってきている。


 俺は体内で練り上げた魔力を操作する。

 こちらへと飛んでくる氷柱を子どもの俺がはたき落とすためには筋力が必要だ。

 だが、筋力だけではいけない。

 ひとつ残らず迎撃するためには、動体視力も必要だろう。


 そこで俺は自分の魔力を効率的に使うことにした。

 いつもは身体能力をあげたいのならまんべんなく全身に魔力をみなぎらせていた。

 だが、今回はそれではいけない。

 先程まで農民兵を吹き飛ばしていた膂力を考慮し、練り上げた魔力の半分を全身に満たすようにする。

 そうして、残りの半分を眼に集中させたのだった。


 魔力を眼に集めると視力が上がり、さらに魔力すら視認することが可能となる。

 俺は飛んでくる氷槍を向上した動体視力でその動きを捉えた。

 まるで動画をスロー再生しているかのように、動きが緩慢になって認識されているようだ。

 その氷柱の軌道を見た上で、進行方向に合わせて硬牙剣を振るう。

 ガキン、という音とともに氷柱が地面へと落下していった。


 いける。

 ぶっちゃけ魔力の分配は今までの生活でもあまり必要なくてしてこなかった。

 アンバランスに分配するよりも一箇所に集中するほうが簡単にできる気がする。

 意外とコントロールが難しいが、それでもこの方法を使えば飛んでくる氷柱を残らず撃ち落とすことができるだろう。


 そう感じた俺はさらに魔力のこもった眼で騎士たちを見つめる。

 そこでひとつの現象に気がついた。

 どうやら、彼らの使う呪文には発動タイミングというものがあるらしい。

 最初に魔力を込めるかのようにフンと気合を入れてから呪文名を口にして、ハッと息を吐きながら発射する。

 そんな感じで魔法を使っていたのだ。


 それがわかれば話は早い。

 呪文を唱える前に、魔力を込めるタイミングが視覚的に見えているのだ。

 さらに動体視力の上がった俺の眼ならば、飛んでくる軌道そのものよりも騎士の手に注目したほうが迎撃しやすいというのもわかった。

 騎士たちも魔法を放つ際には手のひらをこちらに向けて魔法を発射するのだ。

 その手の向きを見ていればどこを狙っているのかなんてすぐに分かる。


 なるほど。

 バルガスが俺の散弾を避けまくっていたのも、今まで騎士と戦場で出会う機会があったからなのだろう。

 いくら魔法が強力で、武器の持ち運びが必要ない便利なものだとしても、理屈さえ知ってしまえば対処の仕方くらいはあるのだ。

 とはいえ、それはあくまでもものすごい動体視力と判断能力が必要になるのだが。


 ひたすら騎士たちから放たれる魔法攻撃を叩き続ける。

 どのくらいの数を叩き落としたのだろうか。

 ようやくその攻撃がおさまってきた。

 俺の周りにはゴロゴロと邪魔な氷柱が地面に横たわっている。

 だが、そのどれもが俺にダメージを与えることなく硬牙剣によって叩き落とされたものだった。


 ふう、と一息入れてさらに周囲に目を向ける。

 どうやら俺の後ろもこの攻撃を乗り切っていたようだった。


 バルガスは俺が大剣のかわりに渡していた硬牙剣に俺と同じように硬化を発動させて氷槍を迎撃していたようだ。

 だが、俺とは違ってすべての迎撃に成功したわけではなかったようだった。

 そういえば、俺の散弾のときはどちらかと言うと避けるのが多かったのか。

 全部を叩き落とすというのは無理だったのだ。

 しかし、バルガスは傷一つついていない。

 なんと驚いたことに自分の体を盾にしていたのだ。

 バルガスは自分の魔力を皮膚に集め防御力を増し、硬牙剣では防ぎきれなかった攻撃をわざと自分の体で受けていたのだ。

 俺やバイト兄のほうへと飛んでいかないためにだ。

 こいつは思った以上にいいヤツなのかもしれない。


 対してバイト兄は硬牙剣をめちゃくちゃに振り回していたようだ。

 それも2本だ。

 いわゆる二刀流とでも言おうか。

 左右に持った硬牙剣で氷柱を攻撃しにいっていたのだった。

 だが、野生の勘でうまく防いでいたものの全ては防ぎきれなかったらしい。

 ダメージを負っていた。

 バイト兄自身ではなく、バイト兄が騎乗しているヴァルキリーにだ。


 バイト兄のヴァルキリーには何本か氷柱が刺さり、そこから血を流していた。

 騎士からの攻撃を防ぎきったあと、それを確認したバイト兄が切れる。


「クソが!!! よくもやりやがったな、てめえら!!!」


 ブチ切れたバイト兄がいきなり吠え、騎士に向かって使役獣を走らせる。


「まずい。バルガス、バイト兄を守れ」


「おう」


 それを見て慌ててバルガスへと指示を出す。

 だが、バイト兄はバルガスが追いかけるよりも前に騎士たちへと接近し、硬牙剣で切りかかっていた。


 ガンッ!!


 そんな音がして、騎士の鎧が凹む。

 いや、砕かれたといってもいいのか。

 バイト兄が振り下ろす硬牙剣の硬さに騎士の着る金属鎧のほうが負けているのか、ガンガンと叩くようにして鎧の上から傷を与えていた。

 どうやら、俺と同じ成人前でありながらもバイト兄もまた騎士に勝る強さを持っているらしい。

 俺が教えた魔力の扱い方によって、バイト兄もまた尋常ではない強さを持ち合わせていたのだ。

 正直、俺自身の強さもバイト兄の強さも戦場でここまで通用するとは思いもしていなかった。

 比較対象が村の中の子供達しかいなかったからかもしれない。


「あれなら、俺の手助けはいらないか。それなら……」


 バイト兄が次々と騎士に襲いかかり、そのフォローをするバルガス。

 多分すぐにどうこうなるということはないかもしれない。

 そう考えた俺は2人のあとを追いかけるのではなく、少し違う方へと向かった。

 俺たち3人を取り囲むように騎士に指揮し、その様子を後方で見守っている存在。

 フォンターナ家家宰のレイモンド。

 俺はこの戦いの決着を付けるために、指揮官であるレイモンドのもとへと向かっていったのだった。

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