鍛えることの意味
「……動かないね。アイの攻撃で魔装兵が倒されちゃったよ」
「どうやらそのようですね。この魔銃・改は鉄型の魔装兵に致命傷を与えられることが確認できました。次回からはこの情報をもとに戦術を組み立てていきましょう」
しばらく様子を観察していた。
だが、どうやら本当にアイの攻撃で魔装兵は機能停止したようだ。
まったく起き上がる気配がない。
もう大丈夫だろうと思って、その後、鉄の騎士に近づいていって鎧を確認してみる。
鉄でできた金属鎧。
その厚さは2㎜くらいだろうか。
正面の胸部は他よりも若干分厚くなっているようだったけれど、それでも魔銃の攻撃には耐えられなかったみたいだ。
胸には穴が開いていて、その貫通した弾は背中側にも穴を作っていた。
そして、その胴体の内部には魔石らしきものがバラバラに砕け散った形跡が残されていた。
思った通り、アイの正確な狙いが鉄の騎士の魔石を打ち砕いたんだろう。
魔石が砕かれ、動くこともできなくなった魔装兵。
「……強すぎじゃない、その魔銃って」
「そうでしょうか? それでしたら、アルフォンス様も使用されますか?」
「うーん。興味ないわけじゃないかな。今のを見せられたら、剣で戦うのがちょっと馬鹿らしくなってくるかも。あんなに訓練している意味あるのかってさ」
「訓練の意味はあるかと思います。魔銃は便利な武器ですが、最強の武器たりえませんから」
「あれで? あの攻撃力で遠くの相手を狙えるんだよ? 十分強いんじゃないかな?」
魔銃が強くないとか、あり得るんだろうか?
剣と槍では槍のほうが間合いが遠いから強いと言っていたことを思い出す。
それと比べれば、魔銃の間合いはとんでもないことになる。
とくに、今までの魔銃でも射程は200m以上あったというけれど、この魔銃・改はさらに距離が伸びているらしい。
剣では絶対に届かないじゃないか。
「そうでもありませんよ。魔銃は確かに便利です。が、その攻撃方法は非常に単純です。狙いをつけて魔弾をまっすぐ飛ばし相手に当てるだけ。しかも、その攻撃力には限界があり、距離が離れることで減衰します。魔力量のある上位の人間には通用しないでしょう。それに、相手によっては魔法を使用される場合もあります」
「ああ、相手からも反撃があるってこと? 魔法攻撃で遠距離同士で攻撃し合うとか」
「そうですね。そういうこともあるでしょう。あるいは、時間を止めて行動してくる相手には当てようもありません。そもそも、魔力量が高い者は防御力も高いため、魔弾による攻撃が通じないこともあるでしょうし」
……なるほど。
というか、それだったら逆もいえるのかもしれない。
魔銃による攻撃をもし自分に向けられたら、ということを考えてしまった。
遠距離から金属鎧を貫通するほどの攻撃をされた場合、それを安定して防ぐには自分の防御力を上げるしかない。
つまり、魔弾を受けても平気な体、そして豊富な魔力量を手に入れなけらば魔銃を持った相手には勝てないということになる。
つまり、鍛える意味がない、なんてことはあり得ない。
むしろ、こんな武器がある以上、この武器に勝てるくらいまで訓練して鍛えておかないといざ実戦になったときに命がいくつあっても足りないということになるんだろう。
「そう考えると、やっぱりもっともっと鍛えないといけないよね。なら、もうちょっと頑張ってみようかな。それに、アイにいいところをとられたから鉄の騎士とも戦えなかったし、もう少し迷宮に残ろうか」
「かしこまりました。でしたら、魔力量を増やすためにももう少し奥へと進みましょう。鉄型の魔装兵に対しては魔銃でも対応可能と判明したので大丈夫でしょう」
「わかった。それじゃ、奥に進んでみようか」
本当はアイを迷宮内で出す前はそろそろ帰ろうかと考えていた。
最後に青銅の騎士三体を相手にするためにアイの核を起動したくらいだからだ。
だけど、ちょっと方針転換することにした。
もう少し迷宮にとどまり、さらに奥へと向かうことにしたのだ。
気配を探ると、さらに奥に魔装兵らしきものを感じる。
多分これは鉄の騎士だ。
足音などの違いでなんとなくそう思う。
つまり、いつの間にか青銅の騎士が多い場所を越えて、鉄の騎士が多いあたりまで進んできてしまっていたのだろう。
そして、それはつまり、迷宮の奥に入り込んでいることを意味する。
迷宮の奥。
それは迷宮核に近づくということであり、迷宮内での魔力濃度が高い場所でもある。
魔力濃度が高いということは、要するに自分の魔力量を上げる絶好の機会でもある。
大気中に漂う魔力を取り込んで、自分のものにできるからだ。
なんだったら、迷宮の中で何日か泊まり込んでもいいかもしれない。
魔法鞄の中にはある程度の食料も詰め込んでいる。
たしか、缶詰もあったはずだ。
あれがあれば、しばらくは迷宮を出ずにこの空間にとどまり続けることも可能だ。
アイの魔銃攻撃を見て、ふつふつとやる気が出てきた。
こうして、僕はさらに迷宮の奥にいる魔装兵の気配に向かって足を進めていったのだった。
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