新たな相手
「お見事です、アルフォンス様。まったく危なげない戦いぶりでしたね」
「本当? 今の感じだったら合格をもらえるってことかな、アイ?」
「もちろんです。アルフォンス様は騎士級の力があると十分言えるでしょう」
弓持ちを倒した後、剣と槍を持つ二体との戦いになった。
その二体を同時に相手をしつつ、再び【威圧】を使用した。
間合いが遠い槍持ちの動きを止めた瞬間を狙って、先に剣持ちを攻撃する。
相手の剣をかいくぐって関節を切り飛ばして無力化し、次に復帰した槍持ちへと対処する。
そんなふうに戦って、こちらは傷一つ負わずに勝利することに成功した。
その戦いぶりを見ていたアイが、魔装兵が完全に動かなくなったことを確認してから僕へと話しかけてきた。
アイの目から見て、先ほどの戦いは悪くなかったみたいだ。
うれしい。
別になにかの試験をしていたというわけではないのだけれど、なんとなく認めてもらえたような感じがした。
「でも、ほかにはなにか言いたいこととかはないかな? もっとこうしたほうがよかったとかあれば言ってほしいんだけど」
「そうですね。では、一つだけ。今回、アルフォンス様は青銅型の魔装兵三体を相手に問題なく戦えていました。が、基本的には戦いは数が多いほうが有利なのです。それを少数側がどう崩すかというと、各個撃破が基本となります」
「各個撃破? 三体同時に相手をせずに、一体ずつ倒すってことかな?」
「その通りです。先ほどの戦いでは魔力によって相手の動きを一時的に止めていたのでしょうか。それによって、上手に瞬間的な一対一の状況を作り出していたのがアルフォンス様の勝因でしょう。ですが、ほかにも方法はあったかと思います。例えば、しばらく走りながら逃げる、などの手法が考えられます」
「え、逃げるの?」
「はい。といっても、逃げ切ることが目的ではありません。走って距離をとり、それを追いかけてきた魔装兵は、少なからず距離が開くことでしょう。曲がり角などの地形を利用して、相手と距離をとり、一対一の状態で戦える状況になってから迎撃するなどの方法が有効であると考えられます。もっとも、周囲の状況にもよるでしょうけれど」
なるほど。
ようするに、アイが言いたいのは別に無理して三体同時に戦わなくてもいいよってことなんじゃないだろうか。
むしろ、勝利を求めるのであれば三対一の状況にならないほうがいいとさえいえる。
いかにして状況がこちらの不利にならないかを考えてから戦いましょうということなのだろう。
騎士級とは青銅の騎士が三体いた時のことを指す。
そう言われていたから三体同時に戦ってみたいと思っていたからそうしたけれど、わざわざ相手に付き合う必要はない。
正々堂々と正面から戦わなくても、自分が有利な状況になるように事前工作するのもまた強さの一つってことかな?
そういえばアルス兄さんはそういうのが得意だったと聞いたことがある。
数が多い相手とは無理に正面から戦わずに夜襲した話とかは、何回も父さんから子守歌代わりに聞いていた。
まあいいや。
もう三体同時を相手にするというのは達成できたので、次からは数的不利をどう崩すかを考えて行動して戦ってみよう。
アイとの会話でそんなことを考えながらも、倒した魔装兵の魔石や鎧などを回収して魔法鞄に入れていた。
「あれ? 向こうから気配を感じる。けど、さっきまでとちょっと違うような感じがする」
魔力を使って周囲の気配を探っていたのだけれど、その時に感じとった気配がそれまでの魔装兵のものとは少し違うような気がした。
数は多分一体だけのはずだ。
だけど、それまでよりも少しだけ足音が重たいように感じた。
「もしかして、青銅の騎士じゃない魔装兵かな? 確認しに行ってみようか、アイ」
「かしこまりました、アルフォンス様」
多分、僕が感じ取った気配は別の魔装兵なのだと思う。
人間のにおいがしなかったからだ。
そうなると、青銅の騎士とは違う相手かもしれない。
ちょっとドキドキしながら、その気配があるほうへとアイと一緒に移動する。
そして、そいつがいるであろう場所を距離を離して確認できる位置まできた。
壁沿いに曲がり角から首だけを出すようにして、そいつを確認する。
「あれは、鉄の魔装兵ってやつかな?」
「おそらくはそうでしょう。騎士級の一段階上の強さを持つという魔装兵ですね」
そこにいたのは魔装兵だった。
全身が鎧になっているのは青銅の騎士と同じだ。
だが、その素材が違う。
鉄の騎士がそこにいた。
灰色というか鈍色というか、そんな感じの色をした金属でできている。
その強さは青銅の騎士とは比べ物にならないらしい。
青銅の騎士三体が騎士級と呼ばれているが、それと比べても鉄の騎士一体のほうが強いのだそうだ。
……戦ってみたい。
この迷宮に入ったときには安全第一でいくつもりだった。
そもそも、青銅の騎士一体と戦えればそれで十分だとも思っていたのだ。
けれど、実際に相手を見るとやってみたくなる。
鉄の騎士が迷宮内を歩いている姿を見ていると、その動きは青銅の騎士とは違っていた。
体の動きが鉄の騎士のほうが明らかにいい。
多分それは、戦うときの動きにも大きくかかわってくるはずだ。
ちらり、と横目でアイを見る。
アイはどう思うだろうか。
もしかしたら、無謀だと言って引き留められるかもしれない。
だけど、僕はアイに告げた。
あの鉄の騎士と戦ってみたい、と。
「わかりました。それでは作戦会議といきましょう」
だけど、僕の予想とは違ってアイは僕を止めることはなかった。
こうして僕は初めての迷宮で鉄の騎士とも戦うことになったのだった。
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