保護者
「なるほど。つまり、アルフォンス様は青銅の騎士複数と戦ってみたいと。そうおっしゃるのですね?」
「うん。駄目かな、アイ?」
「わかりました。微力ながら私がお手伝いいたしましょう。万が一危険があるようであれば、アルフォンス様が逃げる時間を稼ぐことくらいはできるかと思います」
まだ遠くで魔装兵の気配を感じていた。
だが、その気配は次第にこちらへと近づいてきている。
戦いたい。
青銅の騎士の複数を相手取って戦ってみたい。
だが、万が一のことも頭によぎる。
どうしようか、と悩んだ結果、僕はアイに相談することにした。
今、アイとは迷宮の中で話している。
もし、僕がここでアイと一緒にいるところを迷宮入り口で番をしていた騎士が見たら驚くかもしれない。
なぜなら、アイは迷宮の入り口を通って僕のところまで来たわけではないからだ。
僕は迷宮に入るとき、間違いなく一人だった。
だが、魔法鞄の中にとあるものが入っていたのだ。
それは精霊石だった。
この迷宮で手に入れた赤黒い魔石とは違う、黒い魔石。
しかも、この精霊石はただの魔石というわけではない。
その表面には魔法陣が書き込まれていて、さらに皮膚となるスキンというのがかぶせられていた。
その核を取り出して魔力を注いで起動した。
その結果、迷宮内でアイと話をできているというわけだ。
ちなみに、ここにいるアイは僕と一緒に王都から迷宮まで来たものとは違う個体だったりする。
いつものアイは今頃、迷宮の外の宿で荷物番をしながらも、ここにいるアイと同期して僕の状況を把握していることだろう。
僕が一人で複数の青銅の騎士と戦うのが危険ならば、そばにもう一人いてくれればいい。
それは別に人間ではなくともいいのだ。
というわけで、僕は初めての対複数戦をアイに見ていてもらおうと考えたわけだ。
「ありがとう、アイ。けど、アイの力って青銅の騎士三体くらいだったら余裕で勝てるんじゃないの?」
「わかりかねます。情報が不足していますので。ですが、私はそれほど強いというわけではありませんよ、アルフォンス様。学習機能によって戦闘技術を習得してはいますが、あくまでも日常生活を送るためだけの神の依り代として設計されていますので」
「そっか。けど、一般人よりは強いよね?」
「はい。フォンターナ連合王国で騎士と対峙すればおおよそ互角くらいではないでしょうか。おそらく、ブリリア魔導国でいう騎士級とも同等程度ではないかと推測されます」
「へー。てっきり、アイのことはもっと強いと思っていたよ。剣聖の剣術まで身に着けているんだし」
「個体としてみると、強さはそれほどではありませんよ。活用方法によっては強みはあるでしょうが、あまり期待しすぎないようにお願いいたします」
なんか意外だ。
僕にとってはアイはものすごく強いようにしか思えなかった。
何でも知っていて、剣術にも精通している。
弱いはずがないと思っていた。
だけど、アイはそのことを否定する。
自分はそこまで強くはない、と。
けれど、騎士に相当するくらいの強さはあるとはっきり言っていた。
騎士は訓練を積んでいる従士が10人同時に襲い掛かっても勝てるくらいの強さがある。
アイの強さはだいたいそれくらいだと考えておくのがいいのだろう。
ただ、問題があった。
それは、魔法鞄にあったアイの核をこれまで使ってこなかったことも関係している。
それは、このアイは一度依り代の核の状態に戻している、という点にある。
それ自体は魔法鞄に入れるために必要なことだ。
けれど、それによって、変わってしまうことがあった。
ようするに問題というのは、アイを起動している者が変わったという点だ。
基本的にアイの核に魔力を込めて動かしていたのはアルス兄さんだったのだ。
それを今は僕が魔力を込めて起動した。
アイをはじめとする魔装兵器は、起動した者の魔力を使って動き続ける。
逆に言えば、起動者の魔力がなくなればアイは動かなくなってしまうということを意味していた。
もしも、今までのようにアイの核に魔力を送っていたのがアルス兄さんであったならば、おそらく魔力切れの心配はなかっただろう。
ただ、それが僕に変わったことで魔力が切れてアイが動かなくなる可能性が出てきてしまった。
とくに、アイの体が破損した場合は、自動修復機能が働いて骨格部分は元に戻ろうとするが、その分、魔力消費が激しくなってしまう。
つまり、アイに大きな損害が出るほど、機能停止する可能性が高まり、僕の魔力も減ることになる。
迷宮に入ってすぐにアイを起動させなかった理由がその魔力消費にあった。
僕の魔力はそこまで多いわけではないので、魔力が切れる可能性は十分考えられる。
あまり、矢面に立たせないように気を付けておいたほうがいいかもしれない。
というか、個人的にもアイが傷つくところは見たいものじゃないしね。
「そのような心配はいりませんよ、アルフォンス様。私の本体は別の場所にいます。この体はあくまでも端末の一つでしかありません。必要があれば、私のことはかまわず、全力で逃げてください。自動修復機能があるので、時間を稼ぐことはできるはずです」
「……あんまり、不吉なことを言わないでよ、アイ。それよりも、きたみたいだ。魔装兵のお出ましだ」
アイと話していると、ようやく僕たちの元へと魔装兵がやってきたようだ。
その数は三つだ。
剣と槍、そして弓を持つ青銅の騎士が三体が通路の向こうからこちらへと近づいてきた。
それを見て、僕は硬牙剣を握りなおして迎え撃つ準備をしたのだった。
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