魔力放出
「よし。まずは、集中っと」
最初の魔装兵を倒して反省を終えたので、動き出す。
と、その前に体中の魔力を操作した。
全身の魔力を体の表面に集める。
特に集める部分は耳だが、それ以外にも鼻へも魔力を分散させた。
これは感覚を研ぎ澄ますためのものだ。
耳に魔力を集めることで今までよりも小さな音がはっきりと聞こえるようになる。
聴覚を強化して、より遠くの音を聞き取って魔装兵がいないかどうかを調べたかったからだ。
そのほかにも鼻に魔力を集めることで嗅覚も強化してみる。
魔装兵のにおいのほかにも人のにおいを感じ取れないかと思ったからだ。
「……あっち、かな?」
そんな感覚強化をしていると、ふと感じ取るものがあった。
なんとなく、今いる小部屋の先に続く通路の先に気配を感じる。
その先は道が分かれているのだけれど、その分岐した道の左方向に人ではないものの気配を感じたのだ。
行ってみよう。
もしかしたらただの勘違いかもしれない。
が、そうだったらそれでいい。
どうせあてもなく歩くだけだと、最初みたいに魔装兵に出会うまでに時間がかかるかもしれないからだ。
それならば、可能性があると感じたほうに行ってみるというのは悪くないと思う。
こうして、魔力によって強化した感覚を頼りに、僕は迷宮の奥へと進んでいったのだった。
※ ※ ※
「いた。今度は槍か。青銅騎士の槍持ちだな」
最初に接敵した小部屋から出発して分岐を左に曲がり、さらにその先でもう一度分かれている道を曲がったところ。
そこで、新たな相手と出会った。
前回と同じ青銅の騎士だ。
ただ、違う点があり、青銅の騎士が持っているのは剣ではなく槍だということだった。
相手はまだ気が付いていない。
こっちが曲がり角で顔だけを出してこっそりと観察しているからだ。
ほかには魔装兵はいなさそうだ。
感覚を強化して調べても周囲にそれらしい気配がない。
もう一度、一対一の戦いができるということになる。
……ちょっと緊張する。
先ほどはそれほど危ない目に合うことなく魔装兵を倒すことができた。
が、今度もそうなるという保証はない。
それに、槍は剣よりも長い。
それは攻撃がその分遠くまで届くということを意味している。
以前、訓練の合間にアイが言っていたことを思い出す。
戦場で一番よく使われる武器は槍だという話だ。
槍は突き刺してもいいし、上から叩いてもいいという使いやすい武器なのだという。
それに、棒の先に刃物を取り付けるだけでも十分な攻撃力を持たせることができるので、武器に使用する金属の消費量が少なくても済む。
なにより、間合いが遠くとれた状態で相手を攻撃できるという利点が大きい。
一般的には槍を相手に剣で立ち向かうには、相手の技量を大きく上回っていなければならないとされているそうだ。
多分、達人同士の戦いであれば槍の間合いが遠いから剣では近寄れないのだろう。
そう考えると、青銅の騎士は剣を持つ個体よりも槍を持っているほうが危険なのかもしれない。
……大丈夫かな?
そんな風にいろいろ考えながら相手を観察し続けているが、そこまで怖がりすぎなくてもいける気はしていた。
というのも、青銅騎士の武器の技量が思っていたよりも低そうだというところにある。
さっきの剣持ちもそうだったが、今目の前にいる槍持ちも歩いている姿を見ているとそこまで強そうには見えなかった。
本当に強ければ、そこらを歩いている足運びにもその実力が現れるはず。
あれは人ではないが、だからこそ、動きの悪いところをみると十分戦えるように感じていた。
だけど、念には念を入れてみようか。
アルス兄さんに教わった気合いを試してみよう。
あの魔装兵に戦いを挑む前に、僕の魔力を相手に叩きつけるようにしてみようと思った。
人であればその魔力の圧力に驚いて、動きが止まる可能性がある。
それと同じことをしたとして、魔装兵に通じるかどうかはわからない。
が、もしも、動きを一瞬でも止められるのであれば十分役に立つ。
相手の間合いを無視して、こちらが自分の間合いまでたどり着く時間を稼ぐことが出来るかもしれないからだ。
硬牙剣をグッと握りしめてから、魔力を練り上げる。
そして、曲がり角を飛び出した瞬間にその練り上げた魔力を相手にぶつけるように飛ばしてみた。
…………。
が、それらしい効果は見られない。
曲がり角から現れた魔装兵が俺に気が付いたが、特に動きが鈍くなるということもなく槍を前に構えたのだ。
意味ないじゃん。
そう思ってしまった。
……いや、だが、そうと結論を出すのは早すぎるか。
槍を構えてこちらに向かってきた魔装兵を見ながら、そんな風にも思う。
もしかしたら、気合いは空振りに終わったのかもしれない。
が、やり方が間違っていた可能性もある。
魔力だ。
相手にぶつける魔力がもっと必要だったのかもしれない。
自分の魔力が消耗する、なんてことを考えてケチってしまったのではないだろうか。
もっと全力の魔力を相手にぶつければ、あるいは動きを止められたのかもしれない。
魔力の流動をしつつ、相手の動きを読んで、槍による一撃を回避する。
突き出すように槍を伸ばしてきた魔装兵の攻撃を避けたことで、相手はその体を立て直して再び攻撃するためにわずかな時間ができた。
その時間を利用して、もう一度、気合いを飛ばす。
今度は出し惜しみなしで、全力で。
カッと目を見開いて、全身から練り上げた魔力を全開で相手にぶつけるようにして飛ばした。
するとどうだろうか。
再び攻撃を繰り出そうとしていた魔装兵の体がビクンとひきつるようにして止まったのだ。
まるで、急に感電でもしたかのように、攻撃を繰り出す動作の起点で動きが止まっている。
だが、その停止は長いものではなかった。
再び魔装兵が動き出す。
が、さすがにその隙は見逃さない。
短い時間だったとはいえ、お互いの距離が近いときに動きが止まった相手に攻撃を当てるのは、これまで訓練をしてきた今の僕には難しいものではなかった。
こうして、剣よりも対処が難しいかと思った槍持ちの魔装兵に対して、僕は真正面から隙だらけの相手に攻撃を当てる、という変わった戦いをすることになったのだった。
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