反省会
「…………ふう」
鎧内部の魔石を砕かれたことによって完全に停止し、崩れ落ちた魔装兵。
そんな魔装兵を見つつも、動かなくなった相手と周囲への警戒を怠らない。
戦いが終わった後に油断するのは危ないからだ。
しばらく、五感をすべて動員して警戒状態を維持しつつ、安全確認を行う。
どうやら、本当に戦いは終わったようだ。
崩れ落ちた魔装兵の体が横たわっている。
迷宮核によって出現した魔石が迷宮奥にある魔法陣に反応して魔装兵が生まれてくる。
その魔装兵の魔石を砕くと動きが止まるが、別にそうしたからといって全身鎧が消えてしまうとかそういうことはないようだ。
もしかしたら、これまで見なかっただけで倒された魔装兵の鎧がその辺に落ちていたりするのかもしれない。
が、なんとなくこの鎧に興味を持ってしまった。
改めて鎧を観察する。
あんまり鎧について詳しいわけじゃないけれど、金属部分はそれなりに厚みがあるのだと思う。
そのなかに魔石があったはずだが、それは僕の硬牙剣が砕いてしまって今はもうない。
どうやって動いているのかは全くわからない。
こいつらは何を考えて迷宮の中を動き回って、入ってきた人と戦うのだろうか。
初めての迷宮で、しかも、初めての実戦。
その実戦で倒した相手を見ながらそんなことをおもってしまった。
だからだろうか。
べつにこの青銅の鎧や剣をどうするわけでもないけれど、記念にもらっていこうと思った。
地面に落ちていた青銅剣を拾い上げ、腰の魔法鞄へと入れた。
「さて、と。先に進む前にさっきの戦いの反省でもしようかな」
なんだろうか。
誰もいない閉鎖空間が寂しいのか、つい独り言を言ってしまった。
初戦に勝ったので景気よく次に行こう。
そう思う気持ちがあるが、ここはそれをぐっと堪えてさっきの戦いについてのことを思い出すことにした。
先ほどの青銅の騎士(剣)には危なげなく勝てたと思う。
ただ、あれは本当に最適な戦い方だったのか。
それを振り返っておこう。
まず、最初に頭に浮かんだことがアルス兄さんの顔だった。
アルス兄さんとの模擬戦で言われたことを思い出す。
戦いには気合いが大切だ、と。
お前には殺気が足りない、と言われたことについてだ。
さっきの僕の戦い方をアルス兄さんが見ていたら失格と言っていたかもしれない。
そう思った。
戦う前に冷静になることを考えすぎていたからか、いつもと同じように戦ってしまっていた。
いつもの、というのはアイとの訓練でのことだ。
剣を構えて相手の動きを見ながら冷静に対処する。
そのいつもの動作はできていたが、アルス兄さんの言う気合いが入っていたかというと、多分できていなかったように思う。
相手に魔力をたたきつけるようにして怯ませる。
魔装兵にそれが通用するのだろうか?
生身の肉体を持たない全身鎧が相手は怯まないかもしれない。
が、怯むかもしれない。
それを自然な動作でできなかったのは反省点として挙げておいたほうがいいだろう。
ほかにも気になる点はある。
それは相手の動作を見すぎていた、という点だ。
魔装兵の体の使い方を見ながらそれに対応するように動いた。
それ自体はいいのだけれど、相手は人間ではない。
鎧だけの人形が人間と同じ動きをするという先入観はこの迷宮内では捨てておいたほうがいいだろう。
その点を踏まえると先ほどの戦いは危なかったかもしれない。
さっきはギリギリまで引き付けてから反撃の一撃をお見舞いしたが、それが正しかったのかという問題が浮かび上がるからだ。
もし、魔装兵の鎧の関節部分が自分の思いもしない角度で動いたらどうなっていたか。
あるいは、剣で攻撃すると見せかけて別の攻撃手段があったらどうしていたか。
思い返すだけでも危険性が浮かんでくる。
これに対処するには、相手の体の動きだけではなく、魔力の流れも見たほうがいいのかもしれない。
体のどこかに不自然に魔力の動きがあれば警戒することができる。
次は動作だけではなく、魔力の動きも観察することにしよう。
そして、そのほかにも武器の扱い方にももっと気を付けたほうがいいかもしれないと思った。
魔装兵はその性質上、ほぼすべての個体が金属でできた鎧で覆われている。
そして、その肉体は痛覚を持たず、多少の傷を受けても動くことが出来る。
つまり、防御力と継戦能力が高いということになるだろう。
さっきは一番弱いという青銅の騎士が相手であり、こちらの武器である硬牙剣で鎧ごと斬りつけても何の問題もなかった。
だけど、普通の金属剣だったらあるいは武器が傷んでいたかもしれない。
もっと武器を大切に扱う必要もあると感じた。
具体的には魔装兵の弱点になりそうな、鎧の関節部分を狙って攻撃をあてるだとか、あるいはバイト兄のように武器に魔力を込めて硬牙剣の持つ【硬化】だけではなく、切れ味そのものを上げられないか工夫する、とかそんなことが必要かもしれない。
できるかどうかはわからないけどね。
あとは単純にもっとこっちの攻撃能力を上げるという選択肢もある。
かつての剣聖は木剣で金属を切断したりもしたそうだ。
剣術を極めればその領域に到達できるかもしれない。
そのほかにも、いくつか気になる点を思い浮かべてはその対策を考える。
そんなふうに、初戦で得た経験をもとにこれからの課題をあぶりだし、考え付く範囲で改善策を打ち出していく。
ただ、今すぐにそのすべてを実行する必要もないだろう。
普段の訓練でできないことを命のやり取りを行う実戦で試してもうまくはいかないだろうし。
逆に危険な場面に陥る可能性もある。
あくまでも、今できる最善を引き出すように意識する。
こうして、反省を終えてから、再び動き出す。
新たな相手を見つけるために、僕はさらに迷宮の奥へと向かって進んでいったのだった。
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