魔法と地位
「「「「「「「「「「氷槍」」」」」」」」」」
俺とバイト兄、バルガスの3人が敵軍中央で周りを囲まれるという失態。
その俺達に対して周囲を取り囲む鎧兵が魔法を放った。
【氷槍】
この地を治めるフォンターナ家が有する魔法。
そう、この世界では貴族が独自の魔法を持っているのだ。
いや、逆に言えば魔法を持っているからこそ貴族たり得る、といったところか。
生活魔法以外の魔法を使えるかどうかで戦場での生存率が大きく変わってくることは間違いない。
長い年月を経て、いろいろな魔法を持つ人が台頭しては消えていった。
そうして、力のある魔法を持つ人がいつしか貴族として生き残ってきたのだ。
有事の際にはその魔法の力を使って問題を解決する。
その力があるからこそ、その地に住まう人々は貴族が土地を治めることを認めているのだ。
だが、個々人が持つ魔力の量というのは限られている。
いくら貴族が魔法を持ち、戦場で強大な力を持つ存在として暴れまわったとしても、必ず勝てるとは限らない。
あくまでも戦場においては人の数というのが大きな要因たり得るのだ。
そこで、貴族は自分の土地から人々を徴兵して戦場へと向かうことになる。
本来庇護を求めるべき存在である平民が貴族のために戦う。
これではなんのために貴族が土地を治めることを認めているのかわからなくなってしまうだろう。
そこで、いつからか戦場で手柄をたてたものには魔法を授けるようになったのだという。
つまりは、貴族から姓を報酬として貰い受け、新たな家をたてることができる。
これが平民が戦場に自ら行く理由となった。
頑張ればそれまでの平民という立場よりも一歩先に進んだ存在となることができるのだ。
命をかけるだけの価値があるとみなされたのだ。
だが、貴族側もそう簡単には魔法をプレゼントしたりはしない。
なんといっても危険なのだ。
魔法を使うことができる存在というのは。
魔法は魔力を持つものであれば呪文を唱えるだけで発動することができる。
その魔法が生活魔法とは違い、殺傷性のあるものだとしたらどうだろうか。
何気なく挨拶を交わし、握手をしようとした瞬間に魔法を発動されたら、いかに自分が魔法を使うことができるとしても命の危険がある。
言ってみれば、いつでも眼には見えない銃を使うことができるような状態なのだ。
そんなやつがうろちょろとしていると危険極まりない。
かつてはいろいろと事件があったらしい。
貴族としては非常にジレンマだったことだろう。
戦場に連れて行く兵がほしいが、そのためには活躍したものには魔法を使えるようにしてやらなければならない暗黙の了解が存在し、しかし、だれかれ構わずに魔法を授けると秩序を乱す。
結果として魔法を授けるための段階をもうけて、ある程度信頼できると判断したものに魔法を授けるようになった。
俺たちのような農民は何度も戦場に出て、その力を認められると従士として取り立てられる。
従士というのは騎士につく、付き人のような存在らしい。
騎士の下についてさらに働き、その働きが認められると初めて魔法を使えるように姓を授けられる。
その魔法を使えるようになったのが従士を使うことができる騎士だ。
騎士になると魔法が使えるようになるかわりに、魔法を授けた貴族に対して忠誠を誓う必要が出てくる。
貴族に対して何らかの非礼があれば最悪の場合、姓を剥奪される。
姓の剥奪。
それはつまり家の断絶であり、魔法の使用が不可能になることを意味する。
つまり、それまで平民とは違う特権階級に位置していた地位を失うことになる。
どんな人間も今の地位を失うことを望む人はそうそういない。
であれば、最低限その地位を守るためにも魔法をむやみやたらに悪用しないように自ずと制限することとなった。
こうした流れがあり、魔法を使える貴族が土地を治めるシステムが出来上がっていったのだった。
俺がバルカ村でしたのは、言ってみればこのシステムを悪用した裏技だ。
本来戦場で自分のために働いたものに対して授ける魔法をいきなり使えるようにする。
それはいきなり自分の地位が農民から引き上げられることを意味する。
誰だってそれに飛びつくだろう。
だが、ただより高いものはない。
みんな分かっているのだ。
魔法を授かったからには命を掛ける場所へと行かなければならないということに。
俺は土魔法を使えるため、バルカの人には同じ土の魔法を授けることになった。
対してフォンターナ家は氷魔法を使う一族だ。
ここにいるフォンターナ家家宰のレイモンドを始めとして、周りを取り囲む鎧兵、あらため騎士たちはフォンターナの魔法である氷槍が使えるようだった。
手のひらから大きな氷柱のようなものを発射する魔法。
無抵抗で受けてしまうと間違いなく体を串刺しにし、大ダメージを与えるであろう攻撃魔法。
それが周囲から一斉に発射された。
俺は即座に硬牙剣に【魔力注入】を行い、剣の硬度を引き上げた。
ひとりで周囲すべての氷槍を払い落とすことは不可能だ。
そう考えたのは俺だけではなくバイト兄もバルガスも同じだった。
言葉をかわすこともなく、お互いの背中を守り合うようにして自分の目の前の氷柱だけに意識を向ける。
そうして、俺は飛んでくる氷柱を硬牙剣で砕くようにして叩き切っていったのだった。
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